きらきらが届かない家
きらきら町のはずれに、一けんだけ、光らない家がありました。
昼でも夜でも、その家のまわりには、きらきらが見えません。道の石も、屋根の上も、まるで色をなくしたみたいでした。
ソラは、前から、その家が気になっていました。
「あの家、どうしてきらきらがないんだろう」
ある日の午後、ソラは、白いねこ――キラといっしょに、家の前まで行ってみました。
家は古く、戸は閉じたままです。窓も、小さく、くもっています。
ソラが一歩近づくと、足元のきらきらが、すっと消えました。
「……ここまで来ると、消えちゃう」
キラも、少し立ち止まり、しっぽを下げました。
そのとき、家の中から、かすかな音が聞こえました。
こつ……こつ……
ソラは、どきんとして、耳をすませます。
戸が、少しだけ開きました。
「だれ?」
中から、細い声がしました。
「……ぼく、ソラです」
戸のすきまから、年をとった人が、顔を出しました。
目はやさしそうですが、どこかさびしそうです。
「この家、きらきらが届かないんですか?」
ソラが聞くと、その人は、しばらく黙りました。
「……前は、届いていたよ」
「じゃあ、どうして?」
年をとった人は、外を見ました。
「ここに、だれも来なくなったから」
ソラは、きょとんとしました。
「来なくなると、消えちゃうの?」
「話す人がいなくて、笑う声もなくて、ドアを開けることもなくなると……きらきらは、入りにくくなる」
ソラは、家の中を見ました。
中は暗く、でも、きれいに片づいています。
「じゃあ……」
ソラは、少し考えてから言いました。
「ぼく、また来てもいい?」
年をとった人は、びっくりした顔をしました。
「また、来てくれるのかい?」
「うん」
キラが、にゃあ、と鳴いて、家の中に一歩入りました。
そのとたん、床のすみに、小さな光が、ぽつんと生まれました。
「……きらきら」
年をとった人の声が、ふるえました。
ソラは、にっこり笑いました。
「明日も来るね」
その日から、ソラは、ときどき、その家をたずねました。
話をして、いっしょにお茶を飲み、キラはソラのひざの上で丸くなります。
少しずつ、家の中に、きらきらが増えていきました。
窓のそば、テーブルの上、古い時計の横。
光は、小さくても、確かでした。
ある夕方、ソラが帰ろうとすると、年をとった人が言いました。
「ありがとう」
その言葉といっしょに、戸口に、やさしい光が灯りました。
きらきらは、だれかが来るのを、待っていたのです。
きらきら町では、今日も、光が届かない場所へ、そっと気持ちが運ばれていました。




