表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/15

きらきらと迷子の風

 夏の終わりごろ、きらきら町には、よく風が吹きました。


 朝の風は、すずしくて、学校へ行く子どもたちの背中を押します。昼の風は、少し暑くて、木の葉をざわざわ鳴らします。


 でも、その日は、ちがいました。


 町の中を、同じ風が、ぐるぐる回っていたのです。


 ソラは、朝、公園に来て、すぐに気づきました。


「あれ? 風が……止まらない」


 風は、ベンチのまわりをくるり、木のまわりをくるり、と同じ場所を回っています。


 白いねこ――キラのひげも、風にふるふるとゆれました。


「キラ、なんか変だよ」


 風の中に、小さな音がまじっています。


 ひゅう……きらん……


 よく聞くと、音の中に、かすかな光が見えました。


「きらきらが、風にのってる」


 ソラが手を伸ばすと、風は、すっと逃げます。


 そのとき、パン屋のおじさんが、店の戸をおさえながら言いました。


「今日は、迷子の風だな」


「迷子?」


「行き先を、忘れちゃった風さ」


 ソラは、首をかしげました。


「風にも、行き先があるの?」


「あるよ。川へ行く風、山へ行く風、夜へ行く風」


 パン屋のおじさんは、空を見ました。


「でも、今日は、どこへ行けばいいか、分からなくなってる」


 迷子の風は、町の中を回りながら、きらきらを落としていきました。


 道の上、屋根の上、洗たく物のそば。


 きらきらは、風にふかれて、きゅるきゅる回ります。


「このままだと、どうなるの?」


 ソラが聞くと、おじさんは言いました。


「風も、つかれちゃう」


 ソラは、少し考えました。


「じゃあ……教えてあげたらいいんだ」


 キラが、にゃあ、と鳴きました。


 ソラは、川の方を指さしました。


「あっちだよ。川は、こっち」


 でも、風は、まだぐるぐる回っています。


 今度は、木のてっぺんにのぼって、ざわざわ鳴りました。


 そのとき、ソラは思い出しました。


「前に、川のきらきらが、休けいしてた」


 ソラは、走りました。


 川まで行くと、水は、いつもより静かです。


「ここだよ」


 ソラが言うと、キラも川べりに立ちました。


 しばらくすると、風が、ふっと止まりました。


 そして、ゆっくり、川の上を流れはじめます。


 **さら……きらん……**


 風にのっていたきらきらが、水の上で、ゆらゆら光りました。


「あ、行った」


 迷子の風は、もう迷っていません。


 川に向かって、すーっと流れていきます。


 町は、急に静かになりました。


 ソラは、ほっと息をつきました。


「よかったね」


 キラは、川の水を見て、しっぽをゆらしました。


 その日、町の人は言いました。


「今日は、風がやさしい」


「空気が、すっとしてる」


 迷子の風は、ちゃんと帰る場所を見つけたのです。


 夕方、ソラは空を見上げました。


 きらきらは、もう風にのっていません。


 でも、町の中に、やさしい気配が残っていました。


 きらきら町には、ときどき、迷子になるものがあります。


 でも、だれかが、そっと道を教えれば、ちゃんと進めるのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ