きらきらと迷子の風
夏の終わりごろ、きらきら町には、よく風が吹きました。
朝の風は、すずしくて、学校へ行く子どもたちの背中を押します。昼の風は、少し暑くて、木の葉をざわざわ鳴らします。
でも、その日は、ちがいました。
町の中を、同じ風が、ぐるぐる回っていたのです。
ソラは、朝、公園に来て、すぐに気づきました。
「あれ? 風が……止まらない」
風は、ベンチのまわりをくるり、木のまわりをくるり、と同じ場所を回っています。
白いねこ――キラのひげも、風にふるふるとゆれました。
「キラ、なんか変だよ」
風の中に、小さな音がまじっています。
ひゅう……きらん……
よく聞くと、音の中に、かすかな光が見えました。
「きらきらが、風にのってる」
ソラが手を伸ばすと、風は、すっと逃げます。
そのとき、パン屋のおじさんが、店の戸をおさえながら言いました。
「今日は、迷子の風だな」
「迷子?」
「行き先を、忘れちゃった風さ」
ソラは、首をかしげました。
「風にも、行き先があるの?」
「あるよ。川へ行く風、山へ行く風、夜へ行く風」
パン屋のおじさんは、空を見ました。
「でも、今日は、どこへ行けばいいか、分からなくなってる」
迷子の風は、町の中を回りながら、きらきらを落としていきました。
道の上、屋根の上、洗たく物のそば。
きらきらは、風にふかれて、きゅるきゅる回ります。
「このままだと、どうなるの?」
ソラが聞くと、おじさんは言いました。
「風も、つかれちゃう」
ソラは、少し考えました。
「じゃあ……教えてあげたらいいんだ」
キラが、にゃあ、と鳴きました。
ソラは、川の方を指さしました。
「あっちだよ。川は、こっち」
でも、風は、まだぐるぐる回っています。
今度は、木のてっぺんにのぼって、ざわざわ鳴りました。
そのとき、ソラは思い出しました。
「前に、川のきらきらが、休けいしてた」
ソラは、走りました。
川まで行くと、水は、いつもより静かです。
「ここだよ」
ソラが言うと、キラも川べりに立ちました。
しばらくすると、風が、ふっと止まりました。
そして、ゆっくり、川の上を流れはじめます。
**さら……きらん……**
風にのっていたきらきらが、水の上で、ゆらゆら光りました。
「あ、行った」
迷子の風は、もう迷っていません。
川に向かって、すーっと流れていきます。
町は、急に静かになりました。
ソラは、ほっと息をつきました。
「よかったね」
キラは、川の水を見て、しっぽをゆらしました。
その日、町の人は言いました。
「今日は、風がやさしい」
「空気が、すっとしてる」
迷子の風は、ちゃんと帰る場所を見つけたのです。
夕方、ソラは空を見上げました。
きらきらは、もう風にのっていません。
でも、町の中に、やさしい気配が残っていました。
きらきら町には、ときどき、迷子になるものがあります。
でも、だれかが、そっと道を教えれば、ちゃんと進めるのです。




