後半 「ガラパゴスルール」を打開できるか?
質問者:
前半の最後には「ブレーン」と呼ばれる方が期待できるということでしたが、
どんな考え方の方なのですか?
筆者:
経済財政諮問会議の民間議員の方というのは何人かおられるのですが、
「リフレ派」と呼ばれている方が何人か選ばれています。
「リフレ」とはリフレーションの略でデフレーションから抜け出たものの、本格的なインフレーションには達していない状態のことを示します。
簡単に言えば日本の今の状態と言っていいでしょうね。
その中途半端な状態を「好景気のインフレ」にもっていくために財政出動をするべきだと主張されている方を「リフレ派」と言います。
質問者:
そういう意味だったとは知りませんでした……。
筆者:
今回の民間議員の中でも特に僕が注目しているのが、クレディ・アグリコル証券チーフエコノミストの会田卓司氏ですね。
僕とはかなり日本財政の感覚も近く、「日本特有のガラパゴスルール」を的確に鋭く指摘されている方です。
※ガラパゴスルールとはガラパゴス諸島における自然保護のための独自ルールのことで、
日本では財政政策が独自のルールであると言われています。
質問者:
え、日本にそんなルールがあったんですか?
筆者:
まずは今回前半で触れた「PB黒字化」を「複数年度にわたって判断すること」が一つですね。
後はこれは以前もちょっと触れたことがあるのですが、
日本には「国債60年償却ルール(減債基金とも呼ばれる)」というものが存在します。
これは政府の長期国債を60年かけて完全償還することを示します。
例えば、満期10年の国債を60兆円発行したとしよう。10年後に満期を迎えた際はうち10兆円(=発行額10兆円の6分の1)を償還した上で50兆円を新たに10年満期の借換債を起債して借り換えることをしています。
質問者:
でも、それって、家計の財政であれば今の状況でも異常なんじゃないですか? 10年債なら10年で完済するのが普通のような……。
筆者:
そもそも日本は自国通貨建ての国債である上に、海外への債務比率が10%と低いわけです。
そのために事実上の破産であるデフォルトは起こりえず、インフレ以外は大した問題ではないわけです。
わざわざ借り換えのための基金としての60年償還ルールは不要であるということです
質問者:
でもこういうルールって必要だから存在しているんじゃないんですか? どうして始まったんでしょうか?
筆者:
この「60年償却ルール」は、日露戦争で調達した外債の戦費(当時の金額で約18億円)を国債で賄ったことにあります。
そのために日本の通貨の国際的信用をもたせるために、国債の償還を定期的に行うことを決めたのです。
しかし、日露戦争に関する債務は1986年に完済したために、本来であればこの時点でこのルールは廃止しても問題ありませんでした。
ところが日本は完済から40年近く経過しても依然としてこのルールを残し続けているのです。
質問者:
もうルールを存在させる意義そのものが無くなっているんですね……。
筆者:
会田氏は『日本の財政のガラパゴス(謎)・ルールは四つもあり改革すべき』とZUU onlineの記事であります。その中で、
『グローバル ・ スタンダードでは 、国債の発行による支出は、民間の所得と資産の増加となるため 、景気過熱の抑制の必要がない限り、発行された国債は、事実上、永続的に借り換えされていく。』
と述べられ、国債の残高については問題ではないという話をされています。
質問者:
なるほど、確かに筆者さんがおっしゃっている内容ですね……。
筆者:
これを会田氏は「ワニの口が存在しない」という表現を使われています。
「ワニの口」とは、財政赤字が国債償還によって広がっているという様相を経済学者が表現されていることで、
この図のようなことを示します。
それに対して会田氏は国債費を除く歳出と歳入を見るべきだとおっしゃっており、
本来であれば会田氏が作成した下の図のように歳入と歳出が一気に均衡に近い状態だと指摘しています。
この、日本独自にしかない「60年償還ルール」を廃止または80年以上に伸ばすことができれば、「返済」として予算に計上している分を他の支出に回すことができるのです。
(現在17兆円ほど無意味に毎年計上されている)。
質問者:
なるほど、自ら支出を縛り上げていたということですか……。
筆者:
その次に先ほどの記事で会田氏は、
『グローバル・スタンダードでは、原則的に、社会保障費などの義務的歳出にのみ、ペイ・アズ・ユー・ゴーの原則が適用される。裁量的歳出は、未来の社会を作る投資的な意味合いもあるため、国債が恒久的な財源として認められる。』
と、公共投資、教育、防衛などの支出については国債を恒久的な赤字国債で問題ないということです。
質問者:
これも筆者さんが話されている内容ですね……。
筆者:
前半ではPB黒字化を複数年度にすることで現状より「5~10兆円ほど財政出動できる」というお話をしましたが、
これらの「不毛なガラパゴスルール」を排除することができれば、それよりも更なる財政出動も可能であるということです。
会田氏によると財政定数(GDP)の5%まで赤字を支出出来るということも提言しています。
現在は日本のGDPは600兆円ほどなので、MAX30兆円ほどでしょうか?
ちなみにこれだけあれば消費税が昨年は25兆円だったために、消費税を廃止して余るぐらいの規模の政策ができるようになります。
質問者:
それはあまりにも大きいですね……。
◇民間議員の意義
筆者:
こういうルールについては海外から指摘されることはない(内政干渉と言われるし、ライバルが発展して欲しくない)ので自国内で気づいて変えていくしかないです。
ただし、政府の方針を決める「骨太の方針」については「PB黒字化複数年度」すらも前倒しで見直すことはしないと前半でも触れました。
毎年大体6月に改訂されるので、来年度予算に反映することができるのか? と疑問と言わざるを得ません。
質問者:
そうなると日本の財政に関して革新的な発想をお持ちの会田さんの仕事ぶりが大事になると思うんですが、
そもそもこの「民間議員」ってどの程度影響力があるんですか?
筆者:
会議の内容に法的拘束力があるわけでもないですからね、
この会議そのものが「首相の独裁ではない」と思わせたいだけの形式上の機関決定に過ぎません。
ただ、政権側がわざわざ政策決定のための意思決定プロセスの一つに専門家として招いているわけですから、自らに対して反対派の人間ばかり呼ぶとは考えにくいです。
どちらかというと首相自らに近い「イエスマン」ばかりを呼ぶ可能性の方が高いと言えるでしょうね。
ちなみに、会田氏のようなリフレ派の論客として前日本銀行副総裁の若田部昌澄早稲田大学教授や第一生命経済研究所の首席エコノミスト永浜利広氏などが民間議員として招かれていますので、財政出動をする方向性ではあると思います。
質問者:
わざわざ自分と反対意見の方ばかり呼ぶのは考えにくいということなんですね。
筆者:
ただ、安倍政権時代にそれより上位の格付けとも言える内閣官房参与に同じような積極財政派の京都大学大学院教授の藤井聡氏が消費増税をやめるべきだと反対を進言したそうですが、却下されて増税されたという経緯がありました。
このように、周りの論客が押しとどめようとしても結局のところ首相がゴリ押せば通ってしまいますからね。
(藤井氏も経済政策に関しては多くは肯定してきましたが、最近高市氏の政策を大きく評価しており、その点は賛同しかねます)
質問者:
論客に関係なく方針が急旋回したり、無理やりゴリ押しする可能性はあるということですか……。
筆者:
簡単に言ってしまえばそういうことだと思います。
一方でリフレ派の方たちがが「日本に巣食うガラパゴスルール」を打破してくれる可能性もあると思います。
それを恒久的にすることができれば日本の財政に関してより機動的に支出することができるでしょう。
ただ、前半でも触れましたがその「財政出動内容」というのが本当に大事ですけどね。
質問者:
不透明ではありますが希望もあるかもしれないというのは良かったです……。
筆者:
まずはこの臨時国会で「所得税の壁」が178万円まで上がった上に年末調整に間に合うかが焦点ですね。
その後に、「複数年度PB黒字化」や「60年償却ルール」についても注目していただければと思います。
ということで、今後もこのような政治経済について個人的な意見を述べていこうと思いますのでどうぞご覧ください。




