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第七章 蛇毒

林克己は銀狼の少女に導かれて歩き、十分ほどで岩に隠された山洞の前にたどり着いた。

「……入れ」

少女はぴんと立った耳を震わせながら、弓を構えたまま洞窟の入口を指差す。俺は抵抗する余地もなく、暗闇の中へ足を踏み入れるしかなかった。

(うわ……暗い……。お化け屋敷イベント始まった?)

洞窟は意外と奥行きがあり、十数メートルほど進むとようやく開けた空間に出た。天井は七、八メートルほどで、中央には焚き火がぱちぱちと燃え、橙色の光が広がっていた。周囲には石ばかり、だが焚き火の傍にだけ獣皮を敷いたベッドが一つ。その上に横たわるのは――銀色の長い髪と尻尾を持つ、二十歳前後の狼族の女性だった。後ろに立つ少女とよく似ている。恐らく姉だろう。

「お姉ちゃん……! ねぇ、目を開けて!」

少女は駆け寄り、獣皮のベッドに膝をつき、必死に姉の手を握る。その瞳に涙が浮かび、もはや弓を向けていた時の強気な姿はどこにもない。そこにいるのは、ただ姉を心配する一人の妹だった。

(……やばい。完全に重症患者イベントだ。俺がここでスルーしたら、この子に確実に射抜かれる)

「まず状況を教えてくれ。どんな傷を負った?」

俺は真剣な声で言った。実際、医療の知識なんてほとんどない。ただ――システムショップには医療関連の本が揃っている。少なくとも“知識だけ”なら買えるはずだ。つまり、やれることはある。

狼少女は必死に答える。「……毒蛇に咬まれたの」

「蛇か! ……どこだ?」

彼女が指差す先、足首近くに二つの小さな噛み跡。その周囲は黒く変色していた。時間が経って、毒が回り始めている証拠だ。

俺は躊躇わずに狼少女を押しのけ、姉の脚に手を伸ばした。「救いたいなら、黙ってろ!」

「なっ……!」

彼女の銀色の瞳が縦に細まり、爪が鋭く光る。だが俺は気にしている暇はない。革のベルトを外し、素早く太ももの付け根に縛り付けた。血流を止め、毒の拡散を抑えるためだ。

「ナイフはあるか?」

少女は一瞬迷ったが、真剣な表情に押されて短剣を差し出した。俺はそれを火で炙り、殺菌してから傷口に十字の切り込みを入れる。黒い血が溢れ出す。

「っ……!」

少女が息を呑むのを横目に、俺はためらわず口を当て、毒血を吸い出した。苦く、鉄臭い液体が口に広がる。だが止まっている暇はない。

(落ち着け。蛇毒は胃に入れば大丈夫……! 口内炎? そんなの今は知らん!)

数度繰り返すうちに、流れ出る血はようやく鮮紅に変わった。俺は額の汗を拭い、息を吐いた。

「……どう? お姉ちゃんは助かるの?」

狼少女が縋るように問う。俺は首を横に振った。

「まだ安心するな。すでに体内に毒が回ってる。……次は体の中の毒をどうにかしないと」

「じゃ、じゃあ……どうすれば……!」

彼女は泣きそうな声で問う。俺は考えを巡らせた。抗毒血清なんてこの世界にあるわけがない。残るは――草薬。

「お姉さんはどんな蛇に咬まれたか、知ってるか?」

「……わからない。狩りに出てて……音がして外に出たら、もう入り口で倒れてて……」

(くそっ……毒の種類が分からなきゃどうにもならん。だが……)

俺は決意して立ち上がった。「いつも狩りに行く場所に案内してくれ!」

“毒蛇の近くには解毒草がある”――どこかで聞いた迷信めいた言葉に、今は賭けるしかなかった。

……二人で森を進み、やがて血痕を見つける。狼少女の鋭い嗅覚が役に立った。だが、周囲の草を見回しても俺には何一つ分からない。

「……どれが解毒の草なんだ?」

狼少女も首を振る。俺は舌打ちした。頼れるのは――システムだけだ。

すぐにショップを開き、検索。解毒薬は……10ポイント!? 俺の残りは1。無理だ。買えるのは本だけ……。

(ちくしょう……だがこれしかない!)

「購入!」と心の中で叫んだ瞬間、知識が脳に流れ込む。目の前の草を一つ一つ照らし合わせ――ついに見つけた!

俺と少女は草を摘み取り、急いで洞窟に戻る。だが、入った瞬間――。

冷たい刃が、俺の喉元に突きつけられた

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