十四話
「風花」
靴を履いていると、声をかけられた。母が、後ろに立っている。
「持っていきなさい」
お弁当を渡される。お昼ご飯は、各自調達が生田家のきまりだ。ぽかんとして、見上げると、母は背を向けて、中に入っていった。お弁当を見下ろした。そういうこと、だろうか。
「ありがとう。行ってきます」
そう呼びかけて、ドアを開いた。
「河埜くん、おはよう」
「おはよう、生田さん」
大きな背に声をかけたら、河埜が振り返って、笑った。それだけで、風花は、胸がいっぱいになった。
ピンク色の髪が、日に透けて、きらきらしている。こころに、きらきらした色がいっぱいにあふれてくる。幸せだった。河埜とこうして、いられることが。
「河埜くん」
「うん」
「私、頑張るね」
もっと、河埜と近づきたい。傍にいられるようになりたい。ぎゅっと拳を握った。朝の陽光が、さっと差し込む。きらきら、廊下が白く光った。その道を、じっと風花は見た。河埜は、じっと風花を見た。そして、頷く。
「そっか。じゃあ、今日も頑張ろう」
「……うん!」
河埜の言葉に、風花は笑った。いきなりの宣言だったのに、ちゃんと聞いてくれるんだ。河埜のまじめさが、嬉しかった。
「じゃあ、また放課後に」
「うん、ありがとう!」
教室の前で、二人は手を振った。風花は、教室の中に入っていく。いろんなことが、これからまだ、たくさん待ち構えてる。でも。風花の足取りに、迷いはなかった。