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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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89/197

89.天災であり天才

『小さくてうっとおしい生き物が一匹増えた』

シーサーペントにとってはその程度の認識に過ぎなかった


人間でいうと目の前に目の前を飛んでいた虻が2匹になった程度

邪魔な虫が視界をうろついてうっとおしい

そんな邪魔な虫2匹が、龍を相手に小さな牙を剥く




「いいか、間違ってもこいつを殺せるなど思うな! ここから追い出すことを考えるのだ」

冷や汗をかきながらガルドがリンファに念押しする

いつも不遜で獣相手にも神の有り様を説いていそうなガルドが、今日に限っては全く余裕を感じさせない


「わ、わかった…… このシーサーペントってやっぱり相当強いのか……?」

数回手を合わせてその強さを理解したつもりだったが、ガルドのあまりに切羽詰まった態度にリンファが何の気なしに質問する

ガルドはそんなリンファの言葉に視線すら寄こさず、うっすらと薄笑いを浮かべる


「こいつは敵じゃない」

「え?」



「天災だよ、こいつら龍は……!」





シーサーペントが邪魔だといわんばかりに二人に向かって尻尾を振り弾き飛ばそうとする

巨大さに似合わぬ起こりの少ない滑る様な鋭い横なぎをかろうじて跳んでかわす二人だったが、その眼前に大口を開けたシーサーペントの頭部が迫る!



「危ない!」

リンファが咄嗟にガルドを腕で弾き飛ばし、自身のその衝撃で弾ける

二人が居た箇所に大口が閉じられ、口内の天地がぶつかる乾いた衝突音が港中に響いた


「よ、余計な真似をするな!穢れぇ!」

「助けてあげたのになんだその言い方!?」



ガルドは軽口を叩きながら複数の詠唱を開始、急制動をかけた瞬間にその詠唱を終わらせ一気に解き放つ!


光の魔法がシーサーペントの眼前で炸裂し一瞬その視界を奪い、衝撃魔法がシーサーペントの足元の石床を破砕する!

視界をなくし足元のバランスを崩し動きを鈍らせたところに泥がシーサーペントの体を覆い、乾き固まっていく


それはまるでサルノコシカケの様にシーサーペントの体中に皿状の土くれが生えているようだった


「足場を作ってやったぞ! 貴様の奇天烈な技を喰らわせろぉ!」


「奇天烈な技じゃ……ない!」

リンファが跳躍で頭部側面にできた皿に飛び乗りながら低く腰を落とし構えを作る!

握った拳が華開き魔導発勁が練りこまれていく!


「八極剛拳だぁぁ!」


【八極剛拳 白虎双掌打】


側頭部に十分に練られた魔導発勁が叩き込まれ、シーサーペントの魔力とリンファの顕現できない体内の魔力が共鳴し爆発を生む!

魔法煙がたちのぼり、リンファの手元に十分な手ごたえが残る


「通った……!」

魔法煙が薄くなったその先、その蛇の様な目玉だけがギョロリとリンファを睨んでいた

立ち上る魔法煙のその先は傷一つなく、電撃の発光が鱗の隙間から輝き始める


「そ、そんな……!」

咄嗟に身構えた瞬間、ガルドが上空からリンファの胴体を落下しながら蹴り飛ばし、高速詠唱で多重の障壁を展開!

シーサーペントは身じろぎもせずそのまま電撃をそこら中に打ち鳴らした!


光の塊と音の塊が二人を襲い、聴覚と視覚を奪う

電撃の熱と衝撃がそこらじゅうを爆発破砕させ天井と壁、そして転がっていた遺体をさらに損壊させていく


たった一瞬の煌めきでシーサーペント周辺の燃えるモノは全て燃えさかり、砕けるモノは全て砕けていた


ガルドが展開した幾重にも重ねた障壁は飴細工の様に一瞬で砕け散り、ガルドのマントを焦がす

電紋が喉元から胸まで走り、激痛と熱傷で飛行魔力の維持ができずガルドは地面を舐めた



「が、ガルド! 大丈夫か!?」

「これで貸し借りなしだ……! 来るぞ!」


二人の周囲が急に暗くなる

視線をあげるとシーサーペントがその巨大な尻尾を振り下ろし、蚊をつぶすかのように叩きつけてきている!


「このお!」

二人は弾けるようにその場から跳びはねて攻撃を回避すると、そのまま突進し攻撃に転じる!

振り下ろされた尻尾を一気に駆け上がり首元に迫るリンファはその勢いのまま高く跳躍

「硬い鱗でも、継ぎ目ならどうだぁ!」

狙うは胴体と首の可動部、鱗のパターンが変わり隙間が目立つその一点!


【八極剛拳玉鋼穿貫手】


ほぼ真後ろの死角から一気に落下し強襲!

だがシーサーペントは顔すら向けず、体を揺らしその攻撃をかわす

「えっ!?」

あれほど大きかった攻撃部位が一瞬のうちに消え去った事に動揺した瞬間、左腕に強烈な衝撃が走りリンファは吹き飛ばされる

シーサーペントが回避と同時にその尻尾を振り回し、リンファは蚊でもはたくように弾き飛ばしたのだ



地面に落下する寸前ガルドがシーサーペントとリンファの間に飛び込みながら火球を乱打する

シーサーペントは吹き飛ぶリンファに止めを刺さんと大口を受け雷撃のモーションに入っていたため、ガルドはその阻害を優先!

幾重もの火球が重なりシーサーペントに直撃したが傷一つつかない

だがその大きくあけた大口にいくつか命中し、不愉快そうにその口を閉じて二人めがけて突進してきた!


「穢れ!早く立ち上がれ!来るぞ!」

激突の寸前にかろうじて受け身は取ったが、したたかに全身を打ち付けたリンファがふらつきながら必死に立ち上げる


「避けろ! 穢れ!」

そういいながら火球の詠唱を中断し一気に上昇し突進を回避しようとするガルド

だがリンファはそのガルドの上昇に合わせて迫りくるシーサーペントに向かって自らも突進した!


「なっ!? 死ぬ気か!」

「ここで引いたら!船が危ない!」


シーサーペントが突進する進行上には数隻の船がメザシ係留されており、このまま突進させれば横並びの船が大破する可能性がある

子ども達とアグライアを危険にさらすわけには行かないとリンファはカウンターを狙ったのだ!



視界全てがそれになったのではないかと錯覚するほどの大きさで一気に迫るシーサーペントにひるむことなく、リンファが攻撃に転じる!


【八極剛拳 地烈爆震脚 起】


リンファの踏み込みが大地の魔力を共振させ、地面が揺れ海が荒れる!

だがそんな地震など意にも介さずシーサーペントはなおも迫ってくる


「このおおおとまれえぇぇぇ!」

大地の魔力の共振をそのまま自分の足下から肩口まで響かせ、背面に背負う!

その踏み込みのまま型を作り、シーサーペントの鼻先に真っ向から激突する


【八極剛拳 金剛鉄山靠 暁】

大地の魔力とシーサーペントの魔力が正面衝突を起こし、巨大な爆発を起こす!

衝撃が船を揺らし、石床が無惨に砕け散る


リンファはその衝撃に耐えきれず吹き飛ばされ、船体に激突しかけるがかろうじて受け身を取り着地

肩口は激突の衝撃で血がこぼれるが、意識と気力は十分に明瞭だった


そしてリンファと激突したシーサーペントの首が初めて衝撃に揺れ、大きく吹き飛ばされる

のけぞるような形になった首元に鱗の隙間が見えているのをガルドは見逃さなかった!


「貫けェェ!」


風魔法と土魔法を同時詠唱し、砕けた石と土で大人の大きさほどの強靭なドリル状の杭をいくつも形成、それを一気に解き放つ!

豪雨といってもさしつかえないほどのたくさんの杭が幾重にも鱗の隙間に突き刺さった!


シーサーペントがたまらず絶叫を放つ!

「そのまま風穴を開けてくれる! それが嫌なら今すぐここからうせろぉぉ!」

ガルドはそれを好機とみて手を止めず魔法を唱え続ける!


「ガルド! そのまま抑えていて!」

叫ぶやいなやリンファが強く踏みこみ高く跳躍!

そのまま蹴り足の形を作り、一気にシーサーペントに落下しながら強襲を試みる


「ごめん! その牙折らせてもらう!!」


リンファの蹴り足が鋭い刃の様に尖りシーサーペントの牙に迫る

その蹴り足が分厚く大きい牙に直撃……


……するはずだった!



「えっ」


シーサーペントはその浮き上がった首を一気に回転させるように下ろしてリンファの攻撃をいなすと、そのままの動きでまるで胴回し蹴りのようにその場で回転し

その分厚い尻尾を直上からリンファとガルドに叩き込んだ!

まるで武道の達人のようなカウンターを、巨躯のドラゴンが小さきものに打ち込んだのだ



あまりの不意打ちに回避が間に合わず、そのまま地面に叩きつけられるリンファだったが、ガルドが咄嗟にリンファの背中を押さえながら飛翔魔法を展開

なんとかショックを抑え込み、二人は多少のダメージで着地に成功した

抑え込み切れなかった衝撃のダメージで二人は体中に大小たくさんの傷を負い、血を滴らせる

緑と赤い血が地面に垂れ、しみ込んでいった




「な、なんだ……今の動き……?」

「化け物め……、巨躯だけではなく知恵も回るか……!」


ヨロヨロと二人が立ち上がる

シーサーペントはまるで何事もなかったかのように体を起こすと、その不気味な瞳をさらに不気味に丸く開きこちらを睨んでくる


「ち、知恵……?」

「奴等は特殊能力を持つ巨大な生物というだけではない、それだけなら王都がそこまで恐れるわけがないだろう」


シーサーペントはこちらを睨みながら、何やら口元を唸りながら動かしている

やがてその唸り声の響きと重なるように、いくつもの火球がシーサーペントの周りを漂い始めた



「あ、あれってまさか……!?」

「おのれ……! この数回の攻撃でもう理解したというのか!?」



シーサーペントを始めとした龍の恐ろしさ、それはその巨躯でもあり電撃などの特殊能力であり、そしてなにより……

わずかな間に空いての動きを理解し思考し実践できるその学習能力!



「奴等は恐ろしく頭がいい、ゴブリンはおろか人間よりも……だ!」




シーサーペントは反省し、認識を改めた


こいつらは小さくうっとおしい生物ではない

小さくとも戦いに長けた危険な生物だ、と――――



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