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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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87.シーサーペント

「な、なんだ・・・このドラゴンみたいなの・・・?」

リンファは初めて見るその怪物を大口を開けて呆然と見上げた


ドラゴンは何年か前に一度だけ生まれ故郷の森で見かけたことがある

だがあの時はドラゴンが移動しているところを遠くから見ただけだったし、そもそもそのドラゴンには手足があった


だが目の前のドラゴンは手足がなく、一見すると蛇の様にも見えた

巨大な牙と分厚い鱗からかろうじてドラゴンではないかと思える、そういう姿だった



シーサーペントは口元に咥えていた盗賊だったものの腕を咀嚼しながら怒りの形相で辺りを見回す

シーサーペントは飢え、怒りに震えながら再度咆哮を放つ





「は、ははは! さぁ暴れろシーサーペント! 俺たちはその間にトンズラさせてもらうぜ!」

盗賊のボスはシーサーペントの咆哮を聞きながら仲間に撤退の指示を出す

盗賊もその指示を確認し、踵を返そうとしたが・・・



「リンファ!危ない!」

「えっ?」

アグライアがリンファに焦りながら抱き着き、その前方に障壁を展開する

ガルドもその咆哮に合わせるように障壁を展開し、固く身を身を守っていた


アグライアの腕の隙間から何が起きているのかわからないと目を見開いたリンファの視界・・・


その眼前が真っ白に輝き、何も見えなくなる

そして少しだけ遅れて、地面が割れたかのような巨大な轟音と破裂音が鳴り響いた!




アグライアの障壁は消失し、その身を黒く焦がし服に火が付き燃えている

その皮膚には蛇がのたくったかのような赤い傷痕が痛々しくできていた


「く・・・大丈夫か、リンファ!?」

「あ、アグライアさん・・・僕は大丈夫ですけど、傷が!」

「お前が無事ならいい、しかし、まさか成体のシーサーペントを放つとはあいつら正気なのか?」


アグライアが回復魔法を唱えながらシーサーペントの様子を注意深く伺っていると、障壁を解除しながらガルドが近づいてくる

「いや、どうやらこんな想定は奴らもしていなかったようだな」


ガルドはそういうと空中に浮かぶパットを観察し、障壁の破損がないことを確認する

安らかに寝息を立てるパットの足下には夥しい焼け焦げた人間の肉片が散らばり、血と肉の焼ける臭いがそこら中から漂い始めていた



「な、なんだあの電撃は・・・!? 捕まえたときには只のでけぇ蛇だったじゃねぇか!」

盗賊のボスは咄嗟に盾にした仲間だったものを乱暴に投げ捨てながら毒づいた

「お、お頭! 早く逃げましょう!」

「くそぉ!アジトも兵隊もメチャメチャにされちまった・・・!」

燃え盛るアジトと動かなくなった死体を口惜しそうに見ながら、残った仲間と這う這うの体で逃げようとする盗賊のボスたちだったが、その動きをシーサーペントは見逃さない

ボスの姿を見つけ、怒り狂いながら体中に電撃を走らせシーサーペントは再度咆哮した



「馬鹿者どもめ・・・シーサーペントを幼体で捕らえて成体になるまで放置したのか・・・!」

「あ、あれはどういうドラゴンなんだ・・・?」

「あれは海の龍シーサーペント、特徴は・・・見ての通りだ 海の生物だが天の力である雷を使いこなす、危険すぎて絶対に手出ししてはいけない王都危険生物に指定されているものだ」



シーサーペントの体は眩しく輝いてはいるが、先ほどの様に放電はしない

だがその体に似合わぬ素早い動きで逃げ遅れた盗賊を乱暴に口に咥えると一息で真っ二つに背骨を砕き、一息に飲み込んでいった


「に、人間を食ってる・・・!?」

「元々同じ龍や海洋生物を主食にする生物だが、よほど人間が憎く腹が減ってるらしいな これもまた神の裁きか・・・」


呆然とシーサーペントの動きを見つめていたリンファだったが、とんでもないことに気づき大地を蹴り突進する!

「リンファ!?」

「なに!? 穢れ! シーサーペントに手を出すな!」


「ダメだ! それをもう一回させちゃダメなんだああ!!」

リンファは叫びながらその足を更に速める!


シーサーペントは怒りに震えながら盗賊のボスの眼前にそびえる

ボスは足がもつれたのか転倒してしまい、震えながらシーサーペントを見上げていた


シーサーペントの青い冷たい瞳が怒りに震える

口元から溢れる食した人間の赤い血がぼたぼたと地面に滴り、ボスの靴を汚した


「く、くそ・・・!そこのラッタルを上がったら船に逃げられるのに・・・く、来るな!来るなぁ!」

半狂乱になりながら折れた弓を振り回すが、そんな動きに気にもとられずシーサーペントが口を大きく開ける


鱗が膨らみ広がると、その隙間からバチバチと雷が光りだしやがてシーサーペントの体中が帯電を始める

青黒かったシーサーペントの体がまるで黄金の様に輝きだすと、ゆっくりとその口を開きだす


雷の音と光が強くなり、先ほどと同じ様に強力に輝きだし放電が始まる





その刹那

リンファは魔導発勁を全力で練りこんだ蹴り技をシーサーペントの顎に叩き込んだ!



【八極剛拳 夜鷹穿弓腿】


不意の一撃で身構えることもできなかったシーサーペントの顎が跳ね上がると、そのまま上昇したリンファが空中で反転すると急降下し更に蹴り技をお見舞いする!

「その電撃!とまれえぇぇ!」



【八極剛拳 天隕流星脚】



まるで隕石の様な鋭い蹴りをシーサーペントの眉間に叩き込むと素早く着地し、盗賊のボスをかばうようにシーサーペントの前に立ちはだかる!

「へ?へ・・・な、なんかわからんが助かったぜ!ありがとうよ!」

「貴方を助けたわけじゃない! 死にたくなかったらおとなしくしてください!」


リンファの一撃のショックからか帯電していた雷が霧散し、パチパチと光ながらもその体色が青黒く戻っていくシーサーペント


わずかな放電が辺りに散らばり、砕けた木箱や机などを発火させていた


「よ、よかった・・・なんとか放電は止められた・・・!」


リンファの必殺の連撃を無防備に叩き込まれたにも関わらず、シーサーペントはゆっくりと頭を起こし唸り声をあげる

多少のダメージはあったようだが、その動きにはなんの支障を起こしていない




「穢れ貴様ぁ! そいつがどれほど危険な生物かわかって手を出しているのか!? 私を巻き込むな!」

「そうも言ってられない! こんな危険なことをするやつをここで暴れさせるわけには行かないんだ!」


リンファは冷や汗を流しながらシーサーペントを睨みつける

そんなリンファの背中には這うように逃げる盗賊のボスと、何隻かの船・・・




「攫われた子供たちが乗ってるかもしれない船を破壊させるわけには行かないんだ!」


シーサーペントは頭を何度か振ると、目の前に立ちはだかった小さな生物を睨み、認識する



さっきの攻撃はこいつがやった

こいつも敵だ



シーサーペントが怒りのままその大口を開き襲い掛かる!

その大きさはリンファなら両手をあげたとて縦に一飲みされるほどに高く大きく開かれている

まるで巨木かのように大きな牙がリンファの眼前に迫ってくる!




「こ、このぉぉ!」

リンファはその迫りくる大口が噛みつく寸前に牙を足場にして蹴りながら後方に飛びのき、着地と同時に強く踏みこむ!


【八極剛拳 地烈爆震脚】


シーサーペントの足元が爆発し大地の魔力から起こる共振がその巨体に響くが、シーサーペントは唸り声すら上げない

「ま、まるで効いてない・・・ 冗談だろ・・・!?」



かつて戦った森の王ステラーハウルとの戦いが脳裏に浮かぶ

「こいつ、シンプルにものすごいタフだ・・・なんて耐久力なんだ・・・!」


分厚い鱗と巨大な筋肉、そして膨大な魔力

龍の名を冠するにふさわしい伝説級の力が、リンファの魔導発勁を阻害する



「リンファ! 無理をするな! そんな化け物相手に勝ち目はない、引くんだ!」

「ごめんなさい! でもここで引いたら子ども達が無事じゃすまない!」



リンファは叫ぶように答えるとチラリと宙に浮かぶパットに目をやる

魔法にでもかかっているのか何もわからずにスヤスヤと眠るパット

そして村で一生懸命に明るく振舞っていた姿が浮かんでは消える


他の子もそうだ、ただ楽しく生きていたんだ

それを、それをこんな・・・

ふざけた盗賊とふざけた村人の都合に振り回されて、挙句にこんな化け物の凶行に巻き込まれる・・・

そんな、そんな事が仕方ないことであってたまるか・・・!






「こんなふざけた事故に巻き込ませて殺させるわけには行かないんだ!」






リンファは見上げても届かない程の巨躯の龍に向かって、負けないくらい大きく強く気炎を吐いた――――


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