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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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8.人として

ゴブリンは怒っていた

長く行方不明だった仲間の臭いが、人間の巣から漂ってきた

腐り果て、焦げ臭さを混ぜながら臭ってきた

仲間は殺された

無惨に、まるでゴミのように

獣の如く生きるゴブリンにも、仲間を思う心はある

そして、害をなす全てを憎む


そう、それは人間のように――




広場の土は血と灰で黒ずんでいた


リンファの体は、傷のない箇所を探すのが難しいほどボロボロだった

緑の血が滴り、地面に染み込む

リンファの拳は、ゴブリンを砕くたび自らの肉を裂き、緑の血が混ざり合った


『あぁ、同じ色なんだなぁ」


無我夢中で拳を振るいながら、リンファは他人事のように呟いた



ゴブリンは怒り狂っていた

仲間を屠られた復讐を果たすべくゴブリンはリンファを囲み攻撃を仕掛ける

四方八方から刃や弓矢、そして何よりリンファにとって恐怖の魔法が襲い掛かる


本来なら多数対一の状況を避けるべきだっただろうが、リンファは敢えて広場で戦い続けた

村を襲うゴブリンが自分を見つけなければ、ミナや村人に危険が及ぶ

全ての敵が自分に向かわなければ、守れない


金剛鉄山靠が炸裂しゴブリンを弾き飛ばしたその先に、魔法詠唱を完了させたゴブリンが数匹同時にリンファに魔法を発射

三方からミナの放つ火球とは比べ物にならないほどの大きさと速度の火球がリンファに襲い掛かる!

2つの火球はなんとかかわすが、避けきれず一発の火球がリンファの左腕に着弾!

石油を吸った紙屑の様に火柱が立ち、たまらず絶叫してしまう


その機を逃すまいと飛び掛かるゴブリンの腹に

燃え盛る左腕で突きを放つ


ゴブリンの腹を拳が貫通し、ゴブリンから吹き出す血で燃え盛る炎を消火させる


激痛に顔を歪めながら無惨に皮膚と肉がめくれ上がった左の動作確認をすると、リンファが次の敵に飛び掛かる!

「まだまだ……まだまだまぁ!」


悲鳴にも似た気迫が村中に響いた






アグライアは呆然とするミナの横面を一切の加減なく引っぱたいた

叫ぶでも泣くでもなく、目を丸くして引っぱたかれた頬を押さえるミナ

殴られたことはわかっていても、その反応はあまりにも鈍い


「しっかりしろ!今すぐ避難だ、わかるか!?」


アグライアがミナの肩を掴み、乱暴に揺さぶる

「アイツがゴブリン共を引き付けてるが、いつ襲われるかわからん!村人を集め、安全な場所へ逃げろ!」


村中から悲鳴と騒音が響く

ゴブリンの大半はリンファへ向かっていたが、なおも家々を襲う影があった

炎が揺れ、煙が空を覆う


「私もゴブリンを討伐に向かう!おい聞こえてるのか!?」

アグライアの言葉に返事もせず、ミナは思った言葉をそのまま口にした

「なんで…あいつ、私を殺さなかったのよ…?」

震える声が、ぽつりと零れた

「私、言ったよね?『死ね』って 魔法ぶつけて殺そうとしたゴブリンを呼んだのも私村をこんな風にしてみんな死んじゃえって…!リンファ、知ってるはずなのに!」

ミナの肩がわなわなと震え、あふれ出す嗚咽に耐えられず両手で顔を覆う

「なんで…なんでアイツ、私を助けたのよ…!?」


アグライアはミナを見つめた

肩を掴む手が、そっと緩む

「……あいつは、自分を殺そうとした私の手を掴み、命を救ってくれたよ」

ミナが顔を上げる

涙でぐしゃぐしゃの目が、アグライアを捉えた

「え…?」


「私はその手を振り払い、化け物と罵った

もっとひどい言葉も浴びせた

だが、アイツはそれでも私を救った」


アグライアは下を向いたまま低い声で話し続けた

「アイツは言っていたよ、『人なら、人を助ける』と

自分の家を焼き、殺そうとした相手をだ

正直怖かったよ……けれども少しだけ尊敬もしたんだ」

ミナの目が揺れる


「アイツの中の人間は、私たちの誰よりも高潔なのかも知れないな」


そっと肩から手を離し、アグライアが一歩下がる

「私は行く、どうするかはお前が決めろ」

アグライアの視線の先には、孤軍奮闘をするリンファの姿が映っていた

「お互い、人間として間違えないようにしたいな」


言うや否や、アグライアは足をふらつかせながら駆け出した

剣が鞘で鳴り、炎の向こうへ消える


ミナはその背中を見送りながら、呆然と立ち尽くす

視線の先、血と炎が舞う中戦うリンファの影がちらつく

「私は……わたしは……」


広場の戦いは苛烈を極めていた

ゴブリンの死体が無数に折り重なり、土は血でぬかるむ

だが、その死体以上の数のゴブリンがリンファに襲い掛かる

「はああ!!」

両掌がゴブリンを吹き飛ばすが、左右から襲い掛かるゴブリンを避けきれず棍棒にて殴りつけられてしまう

体を沈めて頭部への直撃を避けるが、肩に激痛が走る

「ぐぅ…!」


リンファの一撃は強烈だが、技の終わりに必ず動きが居着いてしまう

その隙を無我夢中で襲い掛かるゴブリン共の刃が突き刺さり、棍棒の打撃が肉を裂く


『どうすれば…?一匹ずつじゃ、もう持たない…!』


その時、側面のゴブリンが倒れる

剣の閃光に血飛沫が飛び散る

アグライアだ!


ここまで必死に戦いながら来たのであろう彼女の鎧は返り血でドス黒く汚れ、神聖騎士団ご自慢の魔玉剣はひび割れていた

息を切らせ、だがそれでも彼女は剣を構える


「村人の避難は概ね済んだ!加勢するぞ!」

「あ、ありがとうございます…!」


リンファの声が震える背中合わせに立つ二人

ゴブリンの咆哮が迫る

「傷だらけだが回復魔法をかけたほうがいいか?」

アグライアの声にリンファは首を振る

「…いえ、激痛の隙を狙われると危険です 今は…しないほうが」

「そうか……」


アグライアがグローブを外す

ゴブリンを睨みながら、それをリンファに手渡した

「使え 特に加護のあるわけでもない私の私物だが、そのボロボロの手で戦うよりいくらかはマシだろう」

「あ、ありがとうございます…!」

「貴様に今倒れられてもらっては困るのだ、今は悪いが協力してもらう」

「わ、わかりました……行きます!」


リンファが踏み込みアグライアが続く

正面のゴブリンに「電光箭疾歩」が炸裂

リンファを左右から襲う敵を、アグライアの剣が裂く

剣が閃き、ゴブリンの腕が飛ぶ

遠距離よりゴブリンメイジからの火球が飛ぶがそれをアグライアの光の障壁が弾く

その彼女を狙うゴブリンを、リンファが打ち倒す


「おのれ…何匹いるのだこいつらは!」

アグライアが剣を構え直す血のりを光魔法で蒸発させ、刃が輝く


『一匹ずつじゃダメだ…全体に響かせる攻撃を…!』

敵の攻撃をさばきながら思考を巡らせる

「諦めるな…考えろ…考えろ……!」


ゴブリンが棍棒を振りかぶる

だがその棍棒を振り下ろさせずにカウンター!

踏み込みと共に拳が突き刺さる

その時、ハッとして踏み込んだ足を見るリンファ


『そうか、何も魔導発勁を拳から撃ち込まなくてもいいんだ……!』


「ア、アグライアさん!一瞬でいいんです、相手を意識をそらしてくれませんか?」

「せいぜい目くらまし程度の魔力しか残ってないが、それいいのか!?」

「大丈夫です、何とかします!」

「了解した!」


アグライアの魔玉剣が輝き、ひび割れた魔玉がピシピシと砕け始めた

何かに勘づいたゴブリンがそれをさせじと飛び掛かる!

「その身に刻め!セイクリッドサークル!」


魔玉が崩壊するとともに光が溢れ、広場を照らす

あまりの光にゴブリンの目が眩む

しかしその威力は弱く、皮膚をかすめる程度

だがその時、ゴブリンたちに決定的な隙が生まれる!


「ここだあぁぁ!」

リンファが膝を上げ、大地を踏み抜く



八極剛拳 地裂爆震脚



大地の魔力が震え、地烈爆震脚に共振し一気に拡散される

リンファを中心に地面が蜘蛛の巣の様に裂け、ゴブリンが吹き飛ぶ!

大地の魔力を通じて衝撃波が敵の骨を砕き、咆哮が悲鳴に変わっていく


「うう…!」

反動がリンファの足を襲う

血が噴き、激痛で膝をつく


「まだだ!上にいるぞ!!」

アグライアが叫ぶ!

跳躍にてたまたま難を逃れたゴブリンが、リンファへ棍棒を振り下ろす

迎撃を試みるが、足が動かない


その瞬間――

小さな火球が、ゴブリンの顔面に炸裂棍棒がブレ、軌道が逸れる

リンファが掌打でゴブリンを倒し、視線を上げると――



「リンファ――!」

ミナがいた


手のひらから魔法煙をくすぶらせながらミナが立っていた

泣きそうな顔でリンファの名前を叫んでいた

叫んでくれていたんだ―――



あぁ、嬉しいなぁ

助けて、もらっちゃったなぁ


ミナの姿を嬉しそうに見つめながら、リンファは意識を失った―――



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