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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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62/196

62.要塞地下

「じゃ、じゃあ行くぞ? さっきよりゆっくりやるからな?」

グリフはそう言いながらおっかなびっくりとリンファの折れた指に回復魔法を唱える

魔法煙と共に回復による炎症で肉が盛り上がる

「んんーーー!!んんんんーーーーー!!!!???」


服の袖を噛みながら混みあがる激痛に悲鳴をあげないように必死に耐える

ついさっきも回復をしてもらったのだが、『回復魔法が苦手』という意味についてイマイチピンと来ていないグリフが粗めに詠唱

激痛にゴブリン特有の叫び声が出てしまうほどにのたうち回ってグリフをビビらせてしまったのだ


それでもなくてもグリフは回復を始めとして魔法全般が得意ではなく、回復魔法の勢いに対して薬効的な物が弱いのでリンファは激痛に耐える羽目になる

「ま、魔法が弱いってこういう事なんだな……まさか回復魔法でダメージが入る奴がいるなんてのがいるなんてなぁ」

グリフはそれでもどこか適当に回復魔法を詠唱し続ける

そんな言葉など耳に入る余裕もなくリンファはのたうち回った


「も、もう大丈夫です……ありがとうございます……いったぁぁい」

回復前と何が違うんだという感じの腫れあがった指を見ながらお礼を言うリンファ

「全然治ってる感じしないけど大丈夫か? まだ魔力は余裕あるぞ?」

「だ、大丈夫です……多分骨はある程度固まったと思うので、あとこの腫れは魔力に反応してるものなのでかけ続けちゃうともっと腫れちゃうって言うか……」

「そういうものかね、難儀なもんだな」



グリフはそういうとガシャリと荷物袋いっぱいの武具を担いで腰を上げる

リンファはその荷物袋を見て少しだけ嬉しそうに笑った


「……なんだよ、何笑ってんだよリンファこの野郎」

「いや、嬉しいなぁって」

「あ? この敵地のど真ん中でいつゴブリンに襲われるかわかんねぇこの状況でか?」

リンファが笑っている理由に心当たりがあるグリフはバツが悪そうに悪態をつく




―――――――――――――――――


崩落の危機を助けてくれた時のことだ

戦いの最中に姿が見えなかったグリフがリンファを窮地からギリギリで助けたとき、その背中には今の様にたくさんの武器が担がれていた

さっきまで手ぶらだったはずなのにあまりに多い荷物についてリンファが訪ねたが

「あ?も、持ってたよ」だの「拾った」だのあの迫真の大嘘を突き通すグリフとは思えない粗雑な言い訳を繰り出してくる


リンファがそれ以上聞いてはいけないかもな……と言葉をつぐむとその沈黙が耐えられなかったらしいグリフが頭を強めにグシグシとかき乱しながら

「俺はお前みたいに強くないの! 素手とかでは戦えないの!」

と、おかしなことを突然言い出してくる

「???」と言っていることがわからなくてイノセントな目を向けてるリンファの視線から逃げるように背中を向けると


「あ、あの化け物とタイマンじゃやばいと思って加勢の為の武器を探して持ってきたんだよ……まさか終わってるとは思わんじゃん…」

すこぶるバツが悪そうに答えると小走りで逃げるように進むグリフ


少しだけキョトンとした後、リンファはそんな不器用なグリフの背中にたまらなく感動したのだ


ちなみについてすぐグリフは手斧をトランクに投げた、その瞬間リンファが地烈爆震脚で石床を吹き飛ばしたときに一緒に上空に舞い上がっていった

「えぇー……」と何とも言えない声が口から漏れたが、リンファにもトランクにも幸いにも聞こえていなかったらしい



――――――――――――――――――




「も、もう武器の事はいいじゃねぇか……! それよりどうする? どうやってこっから出るよ」

「それなんですけど……僕はこのまま攫われた人が捕まっていないか探したいと思います」

「まだここに残るって!? 大ボスの化け物みたいのは倒したけどゴブリンはうようよいるんだぜ?」

「でも急がないともしゴブリンが撤退するにあたって一緒に連れていかれるともう助けられないかもしないかなって……」


リンファの言葉に頭をかいて悩むグリフ

その仕草を見て申し訳なさそうに目を伏せるリンファ


「拠点の方も心配なんですぐに戻りたいんですけど……でも放っておけないんです」

「むううう……!」

「グリフさんが脱出できるところまでは一緒に行きますから、そこで別行動ってどうですかね?」


その言葉にグリフが怒る

「バカ!お前自分の体わかってんのか?今のお前はボロボロ過ぎてその辺の幼児が殴っても死にかねないくらい傷だらけなんだぞ、一人で行かせられるわけねぇだろ!」


意外なお叱りに目をパチクリさせるリンファ

グリフの性格を考えると割といい落としどころだと思った発言だったのでびっくりしてしまった


「俺だって怪我してるからやべぇってのに……とにかく単独行動はダメだ、OK?」

「で、でも……」

「くどい!本当頑固だなお前……かあちゃん大変だったんじゃねぇの?」

「ど、どうなんですかね……?」

「あぁ、かあちゃんとの思い出あんまり覚えてねぇんだっけ? 再会したら聞いてみろよ とにかく行けるところまで行ってみよう、やばかったら二人でここを出るぞ」


他の人な躊躇しそうなデリケートな部分も平気で話題にしてくるグリフに少しだけ驚くリンファ

「再会できたら」ではなく「再会したら」である


『必ず再会できるだろ?知らんけど』

こういういい意味でラフで適当なところがグリフの欠点であり魅力だなぁとリンファは口には出さずちょっとだけ笑ってしまった


「またなんか人の顔見て笑ってやがんな……」

「! グリフさんストップです、ゴブリンが何人かで歩いてきます」

通路の向かい側からゴブリンの気配を感じるリンファ

気配と言うかゴブリンの匂いを音よりも早く感じ取った


「こっちに気づいてる感じか……?」

「気づいてはなさそうですけど、かなり焦っている感じがしますね」

「隠れてりゃやりすごせるか……?」

「いえ、近づかれたら匂いで気づかれるかもしれません……一旦こっちの階段に逃げましょう」


ゴブリンが近づく前にそそくさと階段に向かう二人

「上からゴブリンの匂いがします!下に……」

「お、おう! しかしすごいな……オイラなんにもわからんぞ 犬かお前ら……!」

「多分ゴブリンは僕よりも嗅覚が鋭いと思うので油断できないですけどね……」



ゴブリンとの鉢合わせを避けるため、奥に奥に進む格好となる二人

脱出を念頭に置けば危険な状況なのだが、掴まっている人間がどこにいるかわからない以上奥に進むのも間違いとは言えないのが歯がゆいところ


「しかしなんだってこんな要塞にでかい地下があるんだ……?さっきの広場もそうだけど、不自然な作りだよな」

「要塞って地下がないもんなんです?」

「いや、ないってことはないだろうけどこんなになんででかいんだよ…… 外敵の警戒するのにこんな大穴掘ってどうすんだっての」


グリフはブチブチと文句を言いながら辺りを見まわす

「ちなみにゴブリンってのは暗いところはどうなんだよ?」

「た、多分人間より平気だと思います……そこそこ見えるし何より鼻が利くので」

「便利だなぁゴブリン、オイラだけ滅茶苦茶不利じゃねぇか」


そういいながら暗い地下フロアを進む二人

何者かが蠢く気配は多少感じるが、上に比べればゴブリンの気配は感じられない


「さっき逃げ込んだ部屋もさぁ、なんか異様に薬品臭かったんだよなぁ……」

「なんか変なんです?」

「オイラも別に要塞マニアってわけじゃねぇけどさ、要塞って戦うとか防衛するとかがメインの施設じゃねぇの? なんであんなに薬剤がいるんよ」

「何か別の目的で作られた……?」



そんなことを話しながら二人は薄暗い地下フロアを攫われた人を求めさまよう

ゴブリンから隠れ、いくつのも部屋を確認し、時に逃げ回り……


数時間さまよった頃、奥の奥の薄暗い通路の突き当りに大きな観音開きの扉に二人は辿り着く

恐る恐るその扉を開けた二人の目に飛び込んできた物、それは……



明らかに要塞には似つかわしくない、恐らくは実験用具と思われる器具の数々……

飛翔島でもなかなかお目にかかれない透明度の高いグラスやビーカー

小型のナイフのようなものやハサミのようなもの


そして人が入れそうなくらい大きな鍋の様な容器には並々と何か得体のしれない液体が注がれている


「な、なんだよこれ……?」

目にしたこともない光景にたじろぐグリフ

「これ……血の匂い……!?」

リンファは自らの鼻に飛び込む嗅ぎ慣れた不快な匂いに敏感に反応する


「なんだこれ……要塞になんでこんなわけのわからないものが……!?」




「人間が作ったものを見て、随分と驚いているのね」


後ろから不意に声が聞こえ、二人は慌てて振り向く

この光景に気を取られてはいたが、警戒はしていたはずなのに……

リンファはその声を聞くまで匂いも気配も感じ取れなかった


「あ、あなたは……!?」






そこに立っていた人物には見覚えがある

いや、正確には人ではない


少女の様な風体にゴブリンの様な特徴……

小柄なはずなのに、その腕は妙に筋張っているその姿にリンファは見覚えがあった



「先ほどはどうも、ゴブリンハーフ」

「ピスティル……さん?」


恐らくは拠点に向かったと思っていたピスティルが、再びリンファの前に姿を現す

それだけでもリンファにとっては驚きだったが、それとは別にリンファはその違和感に気づく



ピスティルはその手に、赤い大きな石を抱きかかえていた

それはまるで、子どもを抱えるように大事そうに



そしてリンファに向ける目が、深い深い漆黒の憎悪に燃えていることに―――




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