表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/304

59.譲れない

「グリフさん、回復魔法は使えますか?」

「へ? あ、あぁ使えるけど……」

「よかった、怪我がひどいから回復しててくださいね」


グリフを見てそういうリンファの体はグリフ以上にボロボロだった

毒魔法の後遺症だろうか、体のリンパ節の辺りの皮膚はどす黒く変色しており目、鼻、耳、口の穴全てに緑の血が流れた後が残っている

戦闘の傷だって体中につけられており、常人なら動く事すらできないほどの重傷であることは誰の目にも明らかだ


「ば、馬鹿野郎……! オイラの心配なんかしてる場合かよ!」

その言葉にニコッと笑うリンファ

血だらけで泥だらけのその顔から見える瞳のなんと美しい事か



「半端野郎! 死にぞこないがよくも邪魔をしてくれたなぁ!」

「トランクさん……」

瓦礫から怒り心頭で立ち上がるトランクをリンファは睨みつける


「倒れながら話は断片的ですが聞いていました、きっとトランクさんたちにも譲れない理由があるんだと思います」

「わかってくれるなら死んでくれ、どうせできねぇだろ? だからお前を殺して仲間を助けに行く」

「そうですね、理解はできるけど納得はできない、それは撲の事情も同じです」


構えようとするリンファに向かって雷撃と熱線の魔法が襲い掛かるが、リンファはその攻撃を螺旋と体捌きで受け流す

一撃一撃の精度が高く体の各所にかすり傷が残るが、その表情に変化はない


その攻撃の出どころに目をやると、少女の様な姿のゴブリン、ピスティルがその肩を揺らしながらこちらを睨みつけていた

「ゴブリンハーフ! 今すぐトランクから離れろ!私が相手だ!」


両手から別々の魔法を同時に詠唱し、それを更によどみなく連打をしてくる

まるで数人の魔導士が魔法を使っているような高度で練度の高い魔法がリンファに襲い掛かってくる


リンファはその魔法を交わしきれないと判断したのか、電撃と熱線の間隙を縫って一気にピスティルの懐に飛び込む!

だがピスティルは眼前に迫るリンファを見ても臆することなく、更に魔法を唱え続ける


両手から電撃と熱線を打ち出しながら、その口から第三の魔法を発現!

それはさきほどリンファを瀕死に追い込んだ空気を毒に変える魔法だった


「今度は即死級の濃度だ!外気が入って来ていてもこの距離なら致命傷だろう! 私と一緒に死ねゴブリンハーフ!」

「自分にも効くほどの毒なのか!? 」


左右から熱線と電撃、正面から大量の毒

リンファは掌底にピスティルの肺をつき空気を一気に吐き出させ、更に双掌打にて肩を突きピスティルを吹き飛ばす

だが三方向から迫る魔法はいまだ健在


「一番どうにかすべきは……毒!」

魔導発勁を練り上げ、自分の目の前の虚空に向けて高速で突きを放つとそれ以上の速さで引き戻す

空気に漂う魔力が魔導発勁を伴う高速の突きで消し飛び真空を生み、毒が一気に真空地帯に凝縮!

その真空を地烈爆震脚にて上空に吹き飛ばした!


だが熱線と電撃は対処が間に合わず、リンファを刺し貫く

急所への直撃は避けたが、更に増えた手傷に思わずうめき声が上がった


その直後、膝をつくリンファの背後からトランクの気配が近づく

咄嗟に構えるがトランクはリンファをすり抜けピスティルに駆け寄った

無防備なその背中に一撃をたやすく打ち込めそうだったが、リンファは警戒するのみであえて間合いを広げた



仲間を心配して寄り添うその背中はまるで人間と同じ

言葉をかわしその心情を理解すればするほど、打ち込む拳にためらいが生まれる

だけど、それでも戦わなきゃいけない時がある



「トランクさん、決着を付けましょう」

敢えて声をかける、不意打ちはしない

毒素がいまだ残るその震える体で構えを作るリンファに、同じくボロボロのトランクがゆっくりと振り向く


「上等だ……ミンチにしてやるよ……!」

怒気の籠った唸り声が響き、分厚い金属で作られているはずの大斧から握力で軋むような音が聞こえてくる


戦いに赴こうとするトランクを慌ててピスティルが止める

そのやりとりをリンファはじっと見つめた


「だめよトランク……! あいつは私の魔法で倒すから、あなたは下がってて……」

「わりぃがピスティル、お前には仲間のことをお願いしたい あいつら俺が戻ってくるの信じてまだ戦ってると思うんだわ」

「だめよ!あなた一人を置いていけない……!」

「アイツらに撤退しろって伝えてくれ、転移魔法を使えるお前にしか頼めねぇんだ……俺の仲間を助けてくれ!頼む!」


彼らにも戦わなければいけない事情がある

リンファはそれのやりとりが終わるのを待った


「おーい……お前……何してんだよぉ」

後ろからリンファを呼ぶ声がする、どことなく緊張感の抜けた気さくな響き


「グリフさん、できるだけ遠くに離れてください……ここは危ないかも」

「見てりゃわかるよ、馬鹿だなお前は……今のうちに殴るか逃げるかすればいいのに」

「グリフさんだって十分馬鹿じゃないですか、なんで戻ってきたんです?」


わざと意地悪に質問してくるリンファにたじろぐグリフ

「う、うるせぇな! 妹が見てんだよ、かっこ悪い真似できねぇだろ」

「ははっ! やっぱりグリフさんはいいお兄ちゃんですね」


そういってクスクスと笑うリンファの額の傷にグリフが布を巻く

薬草をすりつぶしたものをしみこませたその布に、リンファは見覚えがあった


「グリフさん、これ……妹さんの……」

「オイラが持ってる布で一番清潔なのがそれしかなかったんだよ、後で返せよ、ボロボロにしてもいいから!絶対!返せよ!お前の手からじゃないとダメだからな!」

ビシィっと指をさすグリフにニヤッと笑って答えるリンファ


「わかりました! 綺麗にして返します、僕洗濯得意なんです」

「ヘッ 知らねぇよそんなの…… じゃあまた後でな! リンファ!」




「はい!グリフお兄さん!」






「……わかったわトランク、あなたのお友達は絶対に連れて帰る」

「ありがとうなピスティル、お前にしかこんなお願い出来ねぇんだ」

「クイーン様には私からも助命をお願いする、だからその時は二人で頭を下げに行きましょ 一人じゃ駄目だからね」

見上げて目を潤ませるピスティルの涙を、トランクは不器用な手つきで拭い頭をそっと撫でる


「あぁ、わかってるよ あの半端野郎を殺して、仲間と一緒に帰ろう そして頭を下げて一からやりなおそうぜ」

「じゃあ、また後で、必ずまた後で」

「おう、また後で」


転移の魔法でピスティルが消え、トランクだけが残る

トランクはゆっくりと立ち上がるとリンファを見る

さっきまで感じられた怒りや苛立ちなどは鳴りを潜め、ただまっすぐな意思と殺意がその瞳に燃えていた


「待っててくれたんだな、半端野郎」

「お取込み中だったようなので、僕もその間に休憩させてもらいました」


トランクはそういうとわずかだが頭を下げる

「今からお前を殺す、だがその前に礼は言わせてもらう」

「……一体なんの礼ですか?」

「お前さっきピスティルを殺さなかっただろ? それどころか自爆しようとしたピスティルを助けた その礼だ」

「あぁ、すごいな……ずるいですよトランクさん 頭を下げるだなんて……本当にずるい」


トランクが斧を捨てる

けたたましい音を立てて斧が床を跳ねる


「殺す前に教えてくれ、お前はゴブリンハーフ……半分が人間だから俺たちと戦うのか?」

「違います。 僕は僕の信じる人のために戦う、守りたい人のために戦う」


床を踏み鳴らし、リンファが構えを作る

「僕にとって人として生きるという事は、そういう意味です」


「それじゃあ、もし出会いが違っていたらお前は俺たちと一緒に戦ってくれてたのか?」

「……そんな未来も、あったかもしれないですね」

「そうか……変な事を聞いた 俺たちゴブリンに明日は見えねぇってのにな、すまねぇ」




トランクが大きく息を吸い込む

何事かと警戒をしたリンファの足元が大きく揺れ、周りの石壁に次々と亀裂が走っていく!

それと同時にトランクの姿が著しく不気味に変容していく!


ハリのある膨張した筋肉が丸みをなくし、まるで歪な鎧のように高質化していく

頬が裂け牙が伸び、その口内がむき出しになっていく

大きかった腕がさらに膨張し、立っていても地面に手が付けるほどに長く大きく肥大化していく


異形ではあれどまだゴブリンだとわかるトランクの姿が、ゴブリンですらない化け物に成り果ていく……!



「そ、その姿は……!」

(ピスティルが行ってくれて良かった……この姿に成ると言ったら命を懸けてとめてくるだろうからな……!)


トランクの変容の余波で要塞が揺れる、壁が崩れる

グリフが空けた天井の大穴がさらに崩れてくる

恐ろしいほどの魔力がトランクが迸ってくるのがリンファに伝わってくる


(どうした……変化しているのも待っててくれたのか?)

「よ、よく言いますね……殴り掛かれば魔力の放出で僕をズタズタにするつもりだったんでしょう?」

(それにも気づいてたのか……やっぱりお前は油断ならねぇな)


人間の言葉をもう操れないのか、トランクは鳴き声で会話を続ける

リンファはあえて人間の言葉で返事をした


(お前の想像通り、俺の体はクイーン様の魔力で作られた強化筋肉だ)

(そしてこの姿はいただいた肉体を魔力で変容させる……最終技ってわけだな)


「さ、最終技ってまさか……」

(あぁ、もう俺は前の姿には戻れねぇ……文字通り化け物になっちまったって事よ)



大地の震えが止まり、化け物が唸り声をあげる

その化け物を見据えると、リンファの構えに華が開く



「あなたのその覚悟、申し訳ないが打ち砕きます」

(生意気な……! 上等だよ)




二人の決死の間合いが狭まっていく

やがてその間合いがふれあい、激突する!



「勝負だ!」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ