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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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43/303

43.澱む拠点

リンファ達が拠点の指揮者であるグレイとおちついて話ができるようになったのはその日の日暮れだった



一行はあの後グレイに顔だけを見せるとすぐに現場の手伝いに急行

アグライアは重傷者を優先で回復魔法で応急手当に奔走、リンファとグリフは怪我人や荷物の移動や現場の清掃に駆り出された


とにかくここにはまともに動ける人間がいない


人が少ないわけではない

まともに動ける人間以上にまともに動けない怪我人が多すぎて施設や動線が機能できていないのだ



怪我人の治療や世話ができる人間が1に対して怪我人は4-5人と言った有様、しかもその怪我人は続々と増えていく

リンファ達が手伝いに参加して半日の間に数人が運び込まれてくる


清掃も行き届いていないのか至る所から異臭が漂っており、衛生面も危険な状態であることが見て取れる

洗濯物も大量に溜まっており、清潔な衣類はごくわずか


アグライアが「何故これらの不潔な洗濯物を放置しているのか」と問えば

「近くの水源をゴブリンが見張っているのである程度の護衛が確保できないと近づくことができない」と言うのだ


飲み水は何とか確保できても洗濯などの大量の水源とある程度の時間が必要な作業は、安全の面からなかなか手を回せない

それでも隙を見て多少の洗濯はするが、洗える量に対して汚れる量があまりに多くてジリ貧となっている


この拠点は治療や回復はもちろん、生活をするための環境が崩壊しかけていた

要塞の攻略などとてもではないが手を回せないというのが現状だ




「遠路はるばるよくぞお越しくださいました……私がここの責任者のグレイ……ケルナ=グレイです」

丁寧な挨拶をするも、その仕草や表情から疲れがにじみ出ているのが見て取れる




「到着早々各所の手伝いや援護をしてくださったそうで……心よりお礼申し上げます」

深々と頭を下げるグレイ


「いえ、こちらこそ挨拶が遅れて申し訳ない」

アグライアも深々と頭を下げる


「いやー、すげぇ疲れちゃったなぁ! このグリフワーム!角牙のグリフワームが頑張って手伝って疲れちゃったなー!頑張ったなー!」

恩着せがましく疲れたアピールをするグリフ、少しでも記憶に残ってもらえるようにわざとらしくフルネームを何度も連呼しているのが実にいやらしい

あまりにアピールがひどいのでアグライアは睨みつけてグリフを自重させた



その様子にすら大して感情を動かすことなく、グレイはもう一度頭を下げた

「ご尽力、心より感謝します ここでの出来事は双翼団団長はもちろん本部にも報告させていただきますので……」

その時グレイはふとしたことに気づき、アグライアに視線を向ける


「もうお一方……あのリンファさんがおられないようですが?」

「あぁ、申し訳ない、リンファは今……」

アグライアはそういいながら出入口に視線を向ける




話題にあがったリンファは、今もなお怪我人の世話の手伝いに奔走していた

夜になり視界が悪くなってもリンファは多少の夜目が効く


全身をローブで覆い、特に顔は肌の色が見えないように厳重に隠し怪我人の清拭やシーツなどの交換、食事の世話に走り回る

昼の内は怪我人に近づけばその肌の色から恐怖され、錯乱される可能性があるからできるだけ近づかないようにしていたのだ


「もう大丈夫ですよ……痛くないですか? スープを持ってきたので食べてください」

怪我人の体をそっと起こしてやり、スプーンを口元に運ぶ

「うぅ……あぁ……」

言葉にならない言葉を発しながらわずかにスープをすする怪我人、すすり切れなかった口元を優しく拭ってやる


「ひゃあああ!!!ゴブリン!ゴブリンいやあああ!!!」

突然その怪我人が錯乱し、スープの器ごとリンファの手を強く払い頭を抱えて震えて泣く


一瞬あっけにとられながらもこぼれたスープを片付け、自分についたものはそのままにその怪我人についたスープの残骸を拭きとってやる

「今新しいスープをもらってきますね、もうちょっと食べておきましょう? 明日には治癒魔法ももっとかけてもらえますからね、きっと……」



そう言いながらリンファは相手を刺激しないようにゆっくりとその場を離れる

「今できる事を、自分にできる範囲でやらなきゃ……!」


そうつぶやきながら、新しいスープをもらいに小走りで炊事場へと急ぐ

駆けだすリンファのその顔には絶望や落胆の影は一切なく、ただ必死に動いていた






「リンファは居ても立っても居られないと医療所の方の手伝いをしております、一度呼び戻しましょうか……?」

「いえ、お手伝いいただき感謝いたします、私もご挨拶が済めばすぐにそちらに回る予定ですので」

少しだけ表情を崩し疲れた笑いを見せるグレイ、ポリポリとほほをかく指先のあちこちにあかぎれやささくれ、傷が見て取れる


「とりあえず簡単に今の状況だけお話しさせていただきます、といってもご覧の有様と言う感じではあるんですが……」

「出発前にセルクさんから聞いていた状況よりもさらに危険な状況であるように感じましたが……?」


「実はここ10日くらいで急激に戦況が悪化しました……現状この拠点は転移魔法をほぼ使用できません」

「転移魔法が使えない? 魔法陣に不具合でも……いやしかしそもそも人でも詠唱可能のはずでは」


「現状でも詠唱可能な人間で転移魔法で飛翔島に向かって転送を行ってはいます、ですがご存じの通り詠唱魔法はその規模や距離にもよりますが詠唱者の数に対して転移できる対象の規模はとても少ないです」

「そう言われれば確かに……」


アグライアは神聖騎士団時代に転移魔法を習得し、部隊全体の移動で転移魔法を運用したことがある

専門の教育を受け、転移魔法用の装備と薬剤を用い、しかも50人の部隊であれば20人が長時間の詠唱をしてやっと部隊全体の移動が可能と言ったレベルだった

その際の転移距離も精々100キロ程度、この拠点から飛翔島はその数倍の距離だと考えれば、人力での転移魔法の運用は現実的ではない


「では魔法陣による大規模な転移がメインとなる……となると魔法陣に不具合が?」

「違うよアグライアさん、魔鉱石がもうほとんどねぇんだろ? この拠点」


後ろから口を挟むグリフをアグライアはにらみつけるが、グレイはその言葉に力なく頷く

「お察しの通りです、ここにはもう輸送する能力がありません」



「具体的に言えば、ここ10日で急激に増えた怪我人の転移で魔鉱石を消費せざるを得ませんでした」

グリフは言いながら手のひらを額に当てて無力さに打ちひしがれる


「それに加えて飛翔島からの輸送されてくるはずの魔鉱石が届いていないのです……」

「恐らくは道中、ゴブリンに襲われて簒奪されているのではないかと」

アグライアはその言葉を聞いてリンファの言っていた喋るゴブリンのことが思い浮かぶ



「飛翔島から救援物資は届きますが、それを運用できる人の数にも場所にも限度があります」

「島から人と荷物が送られるからと言っても限界はある……か、王都の援護も期待できない」


「事態を重く見たセルク様が現在軍勢を率いて魔鉱石の輸送を計画してくださってはいますが、それもなかなか実行には……」

「まぁ時間かかるだろうな、魔鉱石って狙って大量に掘れるもんじゃねぇもんなぁ」

グレイの言いづらそうな部分をグリフがズケズケと言い放つ



「ど、どういうことだ?」

「あぁそうか、アグライアさんは飛翔島詳しくねぇもんな 転移魔法に使えるような純度の高い奴がウチの鉱山区で獲れるのは1日に野菜カゴいっぱいくらいじゃないかな?」

こともなげに鼻をいじりながらしゃべるグリフ

「飛翔島自体が空飛べるほどでかい魔鉱石の塊ではあるんだけど、さすがにコアを削るわけにはいかないもんなぁ」

「貴方は鉱山区にお詳しいのですね……概ねその通りです、ここの怪我人を一斉に転送するほどの魔鉱石の確保がとても難しいのです」

「オイラ元々鉱山区出身なんすよ、魔鉱石って獲れるとめっちゃ高値がつくんだよなぁ、採りすぎて飛翔島の高度下がっちゃって鉱山区の魔力が回復するまで採掘禁止になったことがあるってガキの頃聞いたよ」


グリフが魔鉱石のことをベラベラと詳しくしゃべっていることにアグライアは驚きを隠せない

「アグライアさん、すげー顔してるけど大丈夫? 気分でも悪くなった?」

「い、いや……大丈夫だ ちょっとびっくりしただけだ」

「なんかめちゃめちゃ失礼な扱いを受けた気がする」


ジッと見つめてくるグリフの視線を見ないふりをして咳払いをするアグライア

「失礼しました…… ここまでの状態になれば撤退すべきとも思うんですが、それも難しいのですか?」

「これだけの怪我人を引き連れて移動となると、ゴブリンに襲われればひとたまりもなくやられてしまうでしょう、飛翔島から援軍を転送してもらっての移動も検討しましたが……」

「護衛の数が増えても怪我人の数は減らない……か……」

アグライアとグレイが揃って絶望を感じて天を仰ぐ



「それにそんな軍勢転移させるほどの魔鉱石使ったら、飛翔島側も転移魔法使えなくなっちゃいそうだもんなぁ、いやはや魔鉱石って重要だなぁ、貴重だなぁ!」

そう言いながらわざとらしく魔鉱石について強調し始めるグリフ

チラチラと懐に入っている小袋の感触を確認し、今か今かとその瞬間を推し量っているようだ




その時、部屋の外から何かがぶつかり壊れるような物音が響き渡る

「なんだ!どうしたというのだ!?」

慌てて外に出ると、外では多くの人間集まり騒動が起きている


その中心には包帯を至る所に巻き付けた痛々しい怪我人が、半ば錯乱しながら拳を振り下ろす

その振り下ろされる先には首元に青いバンダナを巻いた緑の肌を露にした人影……!



「リンファ!? なにがあったんだ!」

アグライアがそれを見て慌てて駆け付けようとする


「大丈夫です……止めないで!」


リンファはそんなアグライアを制し、されるがまま殴られる

鈍くたたきつける音が、拠点に悲しく響き渡った――



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