303.浄化の光が輝き、吠える
滅王は怒りに震えながら、その強大な魔力を力任せに解き放とうとしていた
神代王として君臨していた時の、どんな命令でも従わせることのできるあの絶対的な力こそ失ったが
蛮龍を介して得られたこの圧倒的な破壊力に比べればあんな力必要がないとすら感じる
だからこの力を一刻も早く多くの生物が持つ場所で解き放ちたい
暴れるだけ暴れて、全てを破壊したい
どうせこの姿になった時点で老い先は短いのだ
その為に、その前に……
この世界で最も壊したいものを破壊しておきたい
ことごとく自分の邪魔をし、立ち向かってくる異常者
世界のルールが通用しない、薄汚い緑の化け物
コイツだけは壊したい、身も心も全て
だから……だから……
『それを邪魔する貴様等を、瞬く間に塵芥に変えてくれるわあああ!』
滅王はそれを邪魔する矮小な三匹を消し飛ばすと、心から決めたのだ
「来るぞ! アグライア、やれぇ!」
ガルドが魔力を膨張させる滅王をみるやいなや叫び、アグライアがその声に反応して詠唱を完了させる
すると詠唱の完了と同時に数十本の青白い光の柱が滅王の周囲を囲むように立ち上り、一気に滅王を包み込んだ
突如として現れたその光の柱を見回し、滅王は驚きを隠せない
『こ、これは浄化の光……!? いつの間に我の周囲に張り巡らせた? そんな気配は感じられなかったぞ!?』
滅王はその浄化の光そのものよりも、自分の周りにいつの間にかそれが展開されていたことが解せなかった
「その巨体では我々の様な小物の動きは掴み切れなかったと見えるな? なんとも愚鈍!」
慌てふためく滅王を眺めながらガルドがあざ笑う
そしてそんなガルドの構えた杖には大量の魔力が集約され、その大地を震わせる
足元には光を失った蒼魔鉱石がゴロゴロと転がっており、それをグリフがせわしなく回収しては新しい魔鉱石を設置していた
「グリフ!供給が遅いぞ! 3人で仲良く消し炭になりたいか!?」
「無茶言うなよおっさん! こんなに次々空っぽにされたら追いつかねぇよ!」
グリフの泣き言になど聞く耳を持たず、ガルドは着々と詠唱を重ねていった
『浄化の光…… そうか、そういうことか!』
滅王は周囲を囲む青白い浄化の光を見つめながら、その意図に気づき焦りの色を見せる
『この局面でこんな死体処分用の魔法を何故と思ったら……我を覆う魔力を消し去る為か!』
滅王がそう言いながら両手の魔法とは別に、広げた翼に雷撃の魔法を蓄え始める!
「あの腫物がこちらの意図に気づいたようだ、なんとも愚鈍だな おいグリフ、笑ってやれ!先ほどの様に『イキったおっさん』とな!」
「だからオイラを巻き込むな! 悪口は自分の責任でいってくれよおっさん!」
グリフにたいしてかどうかは不明だったが、滅王は怒りの形相を見せながら翼から電撃を解き放つ!
『浄化の光など使わせるか! 喰らうがいい!』
数十本の電撃がランダムな起動を描きながら3人を襲う!
「ちっ……そんな小賢しい妨害もしてくるか! つくづく小物だな滅王!」
『詠唱を中断して回避せねば死ぬるぞ! どうする!? フハハハハ!』
アグライアが一瞬魔法を解除する仕草を見せるが、ガルドがそれを制する
「展開をやめるな! あれをかわしたとて滅王の力が撃ち込まれればどちらにしろ終わりだ!」
「くっ……! わかったよ!」
『理解したところで無駄だ! 死ねぇい!』
無防備な三人に、無慈悲な電撃が降り注ぐ!
だが直撃の瞬間、3人を囲むように小さな障壁が展開されてその電撃を弾き返した
『な……! 障壁だと!? 小娘もガルドもそんな余裕はなかったはず! 誰だ!』
その障壁は3人の頭上のみを防御し、その規模も少し大きめの傘程度の粗末な障壁だった
そしてその障壁は即座に力を無くし、消滅した
『な、なにぃ……!?』
「あ、あぶねぇ……間に合ってよかった……! これだから普通の魔鉱石で障壁張るの嫌なんだよ! すぐ効果が切れる!」
滅王が目を見開きその言葉の主に注目する
男は滅王の視線に気づこうともせず、近くにいるガルドに恨めしい視線を投げかけていた
「よくぞやったぞグリフ! 穢れよりもよっぽど役に立つ!」
「うるせぇよおっさん! 蒼魔鉱石だったらまだしも、普通の魔鉱石で障壁展開するの怖いんだからな! 次はないぞ!絶対にないぞ!」
「安心しろ……!」
グリフの言葉にガルドがニヤリと笑う
「これで決着がつく……! アグライア!」
「行くぞ! 彼の者を照らし出せ【浄化の光】よ!」
ガルドの号令にあわせ、アグライアがその魔法を解き放つ!
『く……!浄化の光……! 我の体を覆う魔力が削げ落ちていく! おのれぇぇぇ!』
滅王は焦りながら両腕にため込んだ膨張する魔力の詠唱を切り替え、射撃体勢に移る!
だが滅王の動きよりわずかに速くガルドの杖が煌めき射撃体勢を完成させた!
「一手遅いぞ滅王! その土手っ腹に我が一撃で風穴を開け絶命させてくれるわぁ!」
その言葉に上空の蛮龍たちが怒りと驚きで叫び、リンファが目を見開く
「ガ、ガルドやめろ! 殺しちゃだめだ! 殺すんじゃない!」
「あきらめろ穢れ! こいつは殺す! 私はコイツを殺して先に進む!」
ガルドが叫び、リンファはそれを目を開いたまま見つめ続ける
リンファの叫びにガルドもまた、その目をわずかに見開いて見つめた
「その心臓をぶちまけろ! くたばれ滅王おおお!」
ガルドの杖より滅王に向けてするどい閃光が放たれる
その閃光は螺旋を描き、まるで巨大なドリルビットの様な形で滅王の心臓に向けて一直線に撃ち込まれた
「その巨体では回避などできまい! 終わりだ!」
ガルドが叫ぶ!
だが
ガルドより撃ち放たれた閃光は何かに激突し滅王への直撃を阻まれ、その形を失いながら散逸していった
煌めく閃光の残滓がまるで雪の様にガルドたちの視線を舞い、大気に消える
『馬鹿者が…… 自分たちでできることが、何故我にできないと思ったのか?』
目の前の光景に驚愕の目を向けるガルドたちに、滅王がほくそ笑む
滅王は気が付けばリンファから手を離し、その赤く染まった手を広げ詠唱を完了させていた
滅王の両手から展開された魔法陣はガルドの膨大な魔力で練り上げられた閃光を完全に弾き切るほどの強固な……
幾重にも重ねられた強固な防御壁が展開されていた!
ガルドは我に返ったかのように杖を構えもう一度詠唱を始めるが、滅王はそれを鼻で笑い捨てた
『もう遅いわ…… 消しとべ』
「や、やめろ!やめろおおおお!」
滅王の邪悪な笑顔にリンファが必死に叫ぶ
だがその笑顔が消えることはなく
滅王が支配する蛮龍の巨大な両腕より、その大きさを認識することすら困難な大きさの光球が
ズズズと音を立てながら見た目には恐ろしくゆっくりと撃ち放たれ
三人ごとその大地を包み、瞬く間に光の奔流が爆発
一瞬遅れて大地を割り砕く世界中に響きそうなほどの轟音が響いた
リンファの足元には光と音しか見えず、その頬に爆風が殴りつけてるのみ
けれど……
『フハハハ……どうだ! どうだゴブリンハーフ! 貴様の仲間が光に消えた感想は! 教えろ!その絶望を我に口にするがいい!!』
滅王は立ち尽くすリンファを見ながら、ことさらに下品な笑い声をかき鳴らす
だが立ち尽くしているはずのリンファは
リンファは、その拳をゆっくりと華開いた
「どうにかしてやったぞ、穢れ」
次の瞬間、まるで腫物をナイフで切除されたかのように赤く染まった滅王の体が宙に浮く
『……は?』
あまりの事に何が起きたのかわからない滅王が、切り離れたままなんとも情けない声をあげながら視線を泳がせる
そこには……
そこには杖の先に光の刃を変えて横薙ぎ一閃の体勢のままで残心を取るガルドが立っていた
ガルドの体には転移の魔法の残滓が漂い、その残滓の糸はリンファの腰に続く
その腰のポケットにはグリフが渡した転移魔法のゲートを示した羊皮紙が入っていたのだ
『リンファにも持たせてる、オイラじゃうまく使えねぇけどおっさんなら使えるだろ?』
あの時のグリフの言葉を思い出し、ガルドは小さく鼻で笑った、そして
「やれーーー!」
ガルドが叫ぶ
そしてガルドが叫ぶより疾くリンファがその身を走らせ強く踏み込む!
そして腫物が切り離されむき出しとなった蛮龍の頭骨に向かって
「おおおおおおおおおお!!!」
リンファの一撃が炸裂した――――――――――




