294.神代王倒れ、蛮龍が舞い降りる
神代王は背筋が氷の様に冷たくなっていくのを鮮明に感じた
自分の持ちうる力が次々と打破され、看破されていく
絶対の神、絶対の王としてこの大陸に君臨していたはずの自分の力が通用しなくなっていく
軍勢、魔力……この大陸に住まうあらゆる者より優れていたはずの力を手に入れたはずなのに
そして今、絶対の能力だったはずの転生の力すらも打ち砕かれた……!
神代王は恐怖した
リンファにではない、ましてやアグライアにでもない
この状況に恐怖せずにはいられなかったのだ
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「セイクリッド・チェーン!」
アグライアの手から光の鎖が幾重にも神代王に向けて発射される
命令の力が打破された事からまだ立ち直れない神代王は慌てたように防御壁を展開するが、アグライアはそれを見越していたかのように鎖をうねらせた
「ソードワーク!」
アグライアの追加の詠唱と同時に光る鎖はその結束を自ら分解し、その欠片が光の刃となって降り注ぐ!
「ぐああ! 小娘……きさまあああああ!!!」
前面からの攻撃しか想定しなかった神代王は防御壁の遥か上から放たれる散弾の様な刃をその体中に直撃させ、血を噴き出しながら悶絶
怒りの形相で攻撃を仕掛けようと顔を向けた神代王の目の前に
既に間合いに踏み込んだリンファが魔導発勁を練り上げる!
「神代王おおおおおお!」
「こ、この化け物がああああああ!!」
神代王は防御壁を展開しようと迷うが、その両手の詠唱を自らを巻き込むレベルの威力で電撃魔法に切り替える
だがその一瞬の逡巡は、リンファを相手にはあまりにも致命的な遅延となる!
「遅い!」
神代王の輝く電撃を携えた両手をすり抜けるようにリンファはその体を低く重く踏み込みながら、神代王の無防備な鳩尾に掌底を叩き込む!
その重い一撃に神代王の表情が激痛に歪み、その身が九の字に曲がろうとする瞬間、さらにリンファの動きが加速する
腹部に叩き込まれた掌から刹那の拍子で追撃の肘打ちが突き刺さり、神代王の体内の魔力が沸騰するかのように暴走する
防御の攻撃も間に合わない神代王が苦悶の表情でリンファに目をやろうとするが……
その間すらも与えない速度でリンファが更に踏み込んできた!
【八極剛拳 一閃無骸】
神代王はまるで瞬間移動でもしたかのようにはるか遠くに吹き飛ばされ、そのままその身を削り取られるように地面に激突する
リンファが鉄山靠を打ち込んだ構えのまま、神代王を視界に捉えたまま残心を取る
神代王は1秒にも満たない刹那の瞬間に必殺の三連撃を叩き込まれ、なすすべもなく吹き飛ばされ地面に激突した
体中に仕込んでいた緊急用の防御用、自動治癒用の魔鉱石などもその瞬間に全て砕け散り、その口元から赤い血を噴き出す神代王
もはや身動きもまともに取れずに浅い息を繰り返す神代王だったが、それでもリンファはその残心を崩すことなく慎重に構えを作り直した
「リンファ! 大事ないか!」
「僕は大丈夫です! でも油断しないで!」
アグライアはリンファの力強い声に安堵しつつ、自らの胸部のダメージに痛みを覚えながら治癒魔法を唱える
プレートメイルには傷一つついていないのに胸骨には響く痛みが未だに残る
つくづく恐ろしい技をその身に受けたものだとアグライアは小さく息を漏らした
神代王はその体を横たえたまま、微動だにしない
胸が上下していることから息はあるようだったが、指一本動かせないという風体
そんな時、リンファの体を吹き飛ばすほどの強風が突如として吹き荒れた
「な、なんだ!?」
驚くリンファの目の前に昼夜が逆転したのかと見間違うばかりの影が落ちる
その影は急激に大きくなり、その影の主が大地を揺らしながら舞い降りた
その影の主は……
「ば、蛮龍……!」
蛮龍がリンファの目の前に降り立ち、その翼をゆっくりと閉じる
ただそこに着地しただけだというのに、巻き起こる魔力の残滓でリンファの肌がわずかに灼ける感覚を覚えるほどだった
「が、ガルド!? ガルドはどうしたの! まさか……!?」
「勝手に殺すな! この無礼者がぁ!」
蛮龍の姿を見て不安そうに名前を呼ぶリンファの背中に罵声が飛ぶ
そこには肩を貸そうとするアグライアを振り払いながら不機嫌そうにゆっくりと歩いてくるガルドの姿があった
「貴様、今私が死んだと思ったか? もしそうならその首を差し出せ! そっ首刎ね飛ばしてやる!」
「う、うるっさいなぁ! 仕方ないだろ!?」
ガルドの罵声に怒鳴り返しながらリンファはその構えを蛮龍に向ける
ガルドも不機嫌な顔をしながら手に持った杖を蛮龍に向け、詠唱を展開し始めた
「どういう状況なんだよガルド……?」
「知った事か……! このトカゲ、戦闘中にも関わらず私に尻尾を向けて貴様に一直線よ、背中にどんなに被弾しようがお構いなしだ」
二人は視線を蛮龍に向けたまま会話をかわす
アグライアやグリフも二人のすぐ傍で武器を構えた
蛮龍はその小さき4匹をわずかに目を細めながら視界に収める
だが武器を構え警戒をする相手を前だというのに、蛮龍は攻撃の意志を示そうとはしなかった
「り、リンファ……コイツどうしちまったの? 何考えてるかわかんなくてオイラ怖いんだけど」
「ぼ、僕もわかんないですよ…… 言葉でも通じればわかるかもしれないですけどね……」
グリフの軽口に精いっぱいおどけて返すリンファ
その時
『緑交じりし小さき者よ』
内臓を掴むような低い声がリンファ達の体中に突如響く
「え……?」
そのあまりに重い響きに、リンファの目が開く
突然の声に何が起きたか理解が追い付かないリンファの目を蛮龍は見つめていた
「しゃ、しゃべった……? 貴方は……僕たちの言葉がわかるんですか!?」
『小さき者よ、願いがある』
リンファの驚きの問いかけには応えようとはせず、蛮龍はその首をわずかに下げて言葉を紡ぐ
かつて大陸に棲まう生物全ての頂点とたたえられた蛮龍がその頭をリンファに向けて垂れたのだ
「ね、願い……?」
蛮龍はリンファ達に気取られこそしなかったが、焦っていた
数百年、下手をすればそれ以上の長き年月を待ち続けた好機が今ここに現れた
この機会を逃せば、もう先はないかもしれない
そう考え、小さきリンファに恥も誇りも捨てて頭を下げたのだ
蛮龍は焦る気持ちを必死に抑え込み、目を伏せてリンファに乞うた
『小さき者よ、我を討て』
「な、なに……!?」
頼む、もう時間がない
『先ほどの技で、我を討ってくれ……小さき者よ』




