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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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292/315

292.それは泥の中で咲く

リンファは狼狽した

もう絶望も戸惑いもしないと決めたのに、震えるその手は止まってくれない


あの時とは違う

あのエタノーの夜と違って、僕はここにいた

こうならないように誓っていたのに……!


僕の……僕の大馬鹿野郎!




「そもそも我が相手をしようというのがそもそもの間違いであった、やはり王たるもの戦いは大上段で構えておらねばな」

形勢逆転と言わんばかりに神代王が勝ち誇った顔を見せる


そして神代王の手が無造作に開かれ、地面に糸の切れた人形の様にアグライアが崩れ落ちる


「アグライアさん!」


リンファは叫ぶが、その声にアグライアは反応しない



「やはり化け物が無様に叫ぶ声は醜怪よのぉ」


神代王は必死に叫ぶリンファの顔を見て、心から楽しそうに笑う

そして突如その右手を後方に突き出し、強大な防御壁を展開



その展開と同時に空気を裂くような爆発音が響き渡り、石の杭と電撃の多重魔法が防御壁に激突し霧散していった




「ちっ……!」


「お前なら躊躇なくこの女を殺しに来るとわかっておったぞ、ガルド……蛮龍!」



蛮龍はその言葉に呼応して雨雲を呼び、人間の拳ほどの大きさの氷柱を大量に生み出して一気呵成にガルドに発射!


地面の形がすさまじい速度で変形していくほどの夥しい量の氷柱がガルドに降り注ぎ、ガルドはそれを捌くのに集中せざるを得なくなった




「おのれ小癪な……! 穢れ! 殺せ!アグライアを殺せ! そうなってしまったらもう無理だ! 殺せずとも戦え!拳を握れーー!」


ガルドは降り注ぐ氷柱に翻弄されながら必死に叫ぶ

だがその声はやがて氷柱の雨に飲まれ、かき消されていった



「ガルド……! 卑怯だぞ神代王! 僕と戦え! 僕だけを狙え!」


「貴様の様な下賤な化け物が我に命令するか、つくづく不遜! なんたる無礼!」


リンファの怒りの声に更なる怒りと侮蔑で返す神代王

言葉こそ尊大であるが、もうその男にかつて見せていた威厳は微塵も感じられなかった



「そこの無礼者!頭を下げんかぁ!」

神代王が目を見開きながら指先から閃光を放つ!



次の瞬間、後方から魔鉱石を神代王に向けて投げつけようとしたグリフにその閃光が直撃!

手に持っていた魔鉱石が神代王の閃光に感応し爆発を起こし、グリフは小さな悲鳴を上げて吹き飛ばされた



「グリフさん!」

「痛ぇ……! チクショウ、すまんリンファ……役に立てねぇ……!」


致命傷こそ負ってはいないようだったが、グリフから流れる血はリンファの冷静さをますます奪っていく




「まったくどいつもこいつも無礼なウジ虫共よ……! しかしこの状況、愉快ではあるな……」

辺りを見回す神代王が、何かを思いついたかのようにアグライアの傍に立つ


「アグライアさんに近づくな! 神代王」

「おぉっと動くなよ化け物……、余興の出し物を壊してしまいたくなるからな」



怒りを露にしながら構えようとするリンファに神代王が牽制する

神代王の手にはアグライアの首が掴まれており、その細い首がわずかに軋んだ




「おぉそうだ、余興であればもっと楽しくしてやろう……!」



神代王はそういうとアグライアに向かって楽しそうに口を開く





「アグライアよ」

「心と顔だけは支配を免除する 【従え】」



その言葉にリンファの目が見開く

なんという悪意、反吐が出るようなひらめき




アグライアはその身をゆっくりと立ち上がらせると、地面に落ちていた自らの剣を拾い上げ、顔を上げる


「リンファ……!」


怒りと苦しみに歯を食いしばりながらアグライアがその剣をリンファに突き出す


「アグライアさん……!」


リンファは瞳を震わせながらどうしていいかわからないようにその手を差し出し狼狽える



あぁ、あの時と同じだ

僕はまた、こんな思いをアグライアさんにさせてしまった


僕がやるって決めたのに、僕が倒すって誓ったのに!

誰も巻き添えにしないって決めたのに!


リンファの心にたくさんの余計な言葉が渦巻き、瞬く間に視界が濁る

あれだけ強く心に誓った多くの事を、あっという間に見失っていく



リンファの差し出した手が力尽きるように降りようとした時……





「リンファぁ!」





突如として響き渡るその澄んだ声に、ビクリとその手が持ち上がる


剣を突き出し、足を踏み込み、殺意を見せる


その剣の切っ先を、リンファは怯えるように見つめてしまう

それでもアグライアはいつものあの美しい瞳でリンファを見つめていた



「構えろ! 拳を……拳を開けリンファ!」


アグライアの歩が進む

神代王は動き出したアグライアを見て、下卑た笑いを浮かべ腕を組む



リンファはその言葉震えながら、下ろしかけたその手を必死に前に突き出した



「アグライアさん……!僕……!」


「リンファ、あの時とは違うぞ…… 似てるかもしれないが、絶対に違う!」



リンファの心を見透かしたように、アグライアが優しく微笑む


「お前は強くなった、そして私も強くなった……」


「つよ、く……?」


アグライアの切っ先がリンファの喉に向く

一歩一歩と触刃の間合いに近づいていくというのに、それでもアグライアは笑っていた




「そうさ、お前は強くなった でもお前だけじゃないんだからな! 私だって、グリフだって……みんな変わった、強くなったんだ!」


神代王によって植え付けられた殺意の刃がリンファにさらに近づく

けれどリンファは、気づけばその切っ先に視線を向けてはいなかった




「僕だけじゃ、ない……?」


リンファが今しっかりとアグライアの目を見つめ返す

その目を見て、アグライアが心からの笑顔を向けた



「あの時とは違うさ、私はお前を信じている」




その言葉にリンファの中の何かが繋がる


恐れて震えたその手は定まった

けれどその拳は石の様に固まりはせず、華のように開いた







先生の言葉を、その時思い出した


リンファと言う名前に意味をくれたのは先生だ


なんでこんなことを忘れていたんだろう





『リンファ……いい名前だねぇ』

『林の華……いや、もっと美しい』



『泥にあって美しく咲く、蓮の華 君に相応しいとってもきれいな名前だ』




『リンファ、咲きなさい 泥の中に在っても君は美しいのだから』



蓮華は泥の中で、咲く―――――






触刃の間合い


アグライアがその剣を一気に振り上げ、リンファの体を袈裟懸けに斬りかかる

けれどその刃が浮き上がった瞬間、リンファの体はアグライアの懐に踏み込む



刹那、その凶刃がリンファに向かって切り落とされた

だがその斬撃をリンファは跳ね上げる手の捌きにて弾き飛ばし、そのまま攻撃に転じる




むき出しの正中線

むき出しの急所


リンファは息すらすることなく、魔力の流れを視る

そしてその手をまっすぐ鋭く、踏み込みながら突く


【八極剛拳 蓮華双纏手】




リンファの両手が、アグライアの心臓に叩き込まれた―――――



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