290.リンファの背中に奴は笑う
「神代王には接近しないでください、アイツには恐ろしい力がある」
リンファの言葉にグリフは目を白黒させ、アグライアは小さく息を呑む
ロードの門をくぐって進む中、リンファは深刻な顔で二人にそう告げた
「あのどんな命令で従わせるという力……聞くところによれば死すらも命じることもできる奴か」
「はい……あの力に掛かると普通の人間なら耐えられない、でも……」
リンファはガルドの方をチラリと見る
そんな視線に気づいたガルドは億劫そうに鼻を鳴らした
「私にその力は効果がない……そこの緑色の穢れもそうらしい、同列に見られるのは甚だ心外だがな」
ガルドの言葉に少しムッとしながらもリンファは二人に真剣な視線を向ける
「ガルドの言う通り、僕らには効果がないんです だからアイツの相手は僕らでやるから……」
「補助に徹しろってことね、おーけーおーけー」
「承知したよリンファ、少々不本意ではあるけどな」
二人は不安を隠し切れない真剣な眼差しのリンファを勇気づけるように力のこもった返事をする
リンファは二人に笑顔を返す
神代王の恐ろしい力はロードの話からも明らかだ
その力があったからこそ、あの男は王として君臨しているのは間違いない
リンファは誰にも気づかれないように拳を強く握る
なんとしてもあの力は使わせない、僕がやるんだ
僕が、やるんだ―――――
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落下してきた時以上の土煙を打ち上げながらリンファが一気に距離を詰める
神代王は強襲するリンファの動きに備えきれず、驚きの表情で構えすら作れていない無防備な姿をその前に晒してしまう
「一気に決めてやる!うあああああ!!」
「こ、この化け物めがあああああ!!」
リンファの右足が地面に踏み込まれながら、その刹那の拳が一気に華開きながら神代王の水月に突き刺さる!
【八極剛拳 青龍掌底】
余りの衝撃に大地どころかその大気すら割れんばかりの強烈な爆発音が響き、衝撃が空気を震わせる
常人であれば骨どころか体がバラバラになりそうなほどの掌底だったが……
「こ、こいつ……!」
「少しだけ……少しだけ痛かったぞ……! 許さ嗚呼あああああん!!!」
直撃したと思ったその腹部に幾重にも刻まれた術式から展開される防御壁がリンファの一撃を阻む
リンファの魔導発勁でその鉄壁の防御壁はほぼ打ち破られ、ほぼ薄皮一枚で耐えきったことに神代王は生唾を飲み込んだ
「貴様など!貴様など魔法が当たれば死に絶える不良品なのだ!死ねぇ!!」
神代王が叫びながら8つの詠唱を同時に完了させる
ガルドより明らかに速く、そして強大な魔力の魔法が数々展開しリンファに襲い掛かる!
「こんなもの……!」
リンファは襲い掛かる魔法の群れが織りなす多数の魔力の流れを視て、ヒュッと小さく息を吐く
数は多い、威力も高い、そして速い
けれど
「こんな……こんな見え見えの起こりと流れの魔法なんか食らってたまるかぁ!」
全ての魔法に虚実はなく、有体に言ってしまえば全てが見え見えの攻撃
大振りのテレフォンパンチなど威力こそあろうが熟練者からすれば恐ろしくもなんともないのと同じ
ただ派手でただ喧しいだけの魔法の束を、リンファは一瞬の間にそのほとんどを叩き落した!
一瞬のうちに漂う消し飛ばされた魔法の残滓に神代王が目を見開きながら、恐怖に青ざめる
次の詠唱を展開しようと手を突き出すが、それよりも早く身を繰り出そうとするリンファを目の当たりにして強張る神代王
しかし、次の瞬間リンファはその身を隙を作ることも構わず神代王に背中を向け、踵を返す
その行動の理解が追い付かない神代王は詠唱することも忘れてその動きを目で追ってしまう
「このおぉ!」
リンファは神代王に背を向けると即座に逆方向に向かって爆ぜるように踏み込む
それと同時にリンファの足元で小さな爆発が巻き起こり、魔力の残滓が先ほどと同じように漂った
その視線の先には……
「グリフさん! けがはない!?」
「お、おう! 助かった! ありがとうリンファ!」
破れかぶれで詠唱した魔法の一つ、大地を這う石柱の先に人影
それはあのゴブリンハーフが連れてきた役立たずの一人……
『こいつ……あのゴミを守るために背中を向けたのか!?』
この万物の頂点、力の象徴である自分を前にこの不良品は隙だらけの背中を見せる
それも保身の為ではなく、下らぬゴミの為に!
神代王は振り返ろうとするリンファに気取られぬようにその顔を隠す
そうかそうか、そんなにゴミが大事か
神代王はリンファに見られないように笑いを堪えるのに必死になった―――――




