289.刹那の空中戦
神代王の繰り出す炎の魔法は、強烈だった
莫大な魔法力からなる大出力の爆熱はまるで溶岩でも噴火したかのような高位の大魔法
確かにそれは強く、確かにそれは優秀だった
だが、リンファからすればその魔法は所詮その程度の物だった
「蒸発させてくれる! 死ねぇゴブリンハーフ!!」
神代王がその魔法を放ちながら叫ぶ顔を目の当たりにして、リンファの心は逆に冷静になっていく
巨大な炎の塊がリンファに直撃し、神代王は不敵な笑顔を浮かべた
だがその炎は瞬く間に螺旋の動きを描き大気にかき消される
炎の残滓を包むように冷え冷えと寒い雪の影がわずかに漂い、同じように霧散した
「すごい魔力だ、直撃すれば僕なら致命的だろうね」
霧散していく炎から影が見える
その掌からは美しい銀毛が輝き冷気を漂わせる
「でも、こんな魔法……」
その影の前から炎が消え去り、その青い目が神代王を睨みつける!
「僕に当てられると思うな!神代王!!」
リンファは小さく息を吐き出すと両手をわずかに引き絞り、構えを作り上げる
その動きに反応して神代王が自らの剣の横腹を突き出し防御の姿勢を取るが、リンファは一切の躊躇を見せず自らの両手を叩き込んだ!
【八極剛拳 白虎双掌打】
リンファの練り上げられた掌底が、神代王のガードの上から突き刺さる!
構えた刀身ごと神代王の体が跳ねるように弾き飛ばされ、神代王が蛮龍の頭から空に投げ出された
「き、貴様ぁ!」
神代王が叫びながら飛翔魔法を唱えようとするが、そうはさせじと更にリンファが追撃を仕掛ける!
「おちろぉぉ!」
落下する神代王よりも更に速いスピード、まるで流星の如くリンファが猛追
【八極剛拳 天隕流星脚】
まさに詠唱をしている神代王にその蹴り足が炸裂し、更に落下の速度を増していく神代王
だがさすがと言おうか、神代王はリンファの一撃を寸でのところで、詠唱を中断した上で防御壁を展開し、直撃を避けていた
「ば、蛮龍! 我を援護しろ! 何をしている!優先を誤るな!」
リンファはその声を聴いて頭上から蛮龍が攻撃を仕掛けてくると感じて注意を向ける
「あ……あれ……?」
だが、想定とは違う姿にリンファは思わず小さく声を上げる
墜落しながら叫ぶ神代王に蛮龍は冷たい視線を向けて、電撃を放ち続ける
その目には焦りなどの感情もなく、下らないものを見るような侮蔑に満ちた冷たい目
見る見る小さくなっていく神代王を見続けながら、やがてため息でもついたかのように翼を揺らし、リンファに一瞬視線を向けた
「な、なんだあの目……?」
その動きを不審に感じたが、そんなリンファの隙を狙ったかのように足下から打たれた炎の球がリンファの頬をかすめる
「気を散らせている場合じゃない……!」
リンファは蛮龍の事を気にしながらも、目の前の敵に集中し構えを作る
神代王は重力制御で落下速度をコントロールしながら、同じく落下してくる空中のリンファに向けて大量の火炎弾を叩き込む!
「上空では回避しようがなかろう! 消し炭になるがいい!」
「馬鹿にして……!」
リンファは次々と撃ち込まれる火炎弾を最初は全て回避するつもりだったが、すぐにそれを思い直し両手を火炎弾に向ける
「お前は仲間を巻き添えにするつもりなのかああ!」
リンファは叫びながら迫る火炎弾をかわそうともせず、全て捌きと討ち払いで無力化を図る
あまりに大量の火炎弾に捌ききれずにリンファの体を焼いていくが、苦痛に顔を歪めながらもリンファはその動きを変えようとはしない
「蛮龍をかばっているのか!? 愚かの極み!やはりゴブリン風情の化け物よなぁ!」
こんな火炎弾が蛮龍にとって何の痛痒にもならない事を知っている神代王はリンファの行動を愚行と笑う
だがリンファはそんな神代王の下卑た顔を見ながらそれでも火炎弾を無力化し続ける!
「愚か者は……どっちだあぁぁ!」
リンファは体中に熱傷を作りながら、落下速度を上げ神代王に迫る
急激に迫る地面、間もなく両者が墜落というタイミングで神代王は重力制御の力を急激に強めて地面を横滑りするように急制動!
だがリンファはそのままの勢いで地面に激突するように着地してしまい、大量の土埃を舞い上げてしまう
その隙を逃さず神代王が術式を展開、光の渦を巻き起こし収縮させる
「今だ!死ねぇ」
収縮した光は光線と化し、地面を半円に削りながらリンファに向かって発射される
その光線がリンファ着地した箇所に着弾し、光の爆発反射と共に更に大量の土砂を巻き上げた
「愚か者が……!我に……神に逆らうからだ! 馬鹿者がぁ!」
神代王がわずかに笑いながら大声で叫ぶ
だが次の瞬間巻き起こった上空の爆発に神代王は目を奪われた
「へ……?」
見上げた神代王の頭上では信じられない事が起きている
さきほど神代王が撃ち込み、リンファが捌ききれなかった火炎弾がまるで時間差の様に次々と上空で爆発し霧散していった
蛮龍は電撃を今だに放ちながら動きを見せず、ただ神代王を見るのみ
であれば……その正体は……
【八極剛拳 旋風劈拳】
土埃が風に巻かれて、視界が戻る
そこには掌を上空に突き出したまま肩で息をするリンファと、それをかばう様に肩で息をして障壁を展開するアグライアの姿!
「リンファ……あんまり無茶するなよ……! 間に合わないかと思った……!」
「あ、ありがとうアグライアさん……! アグライアさんの姿が見えたから安心して撃ち落とせました」
二人はお互いの姿を見ないまま、少しだけにやりと笑いあう
まるで見なくてもお互いがどんな顔をしているか分かっているかのように
「おのれ……おのれ下賤な愚か者共め……!」
神代王は焦りと共に怒りを燃やす
戦いはまだ、始まったばかり――――――――




