288.リンファ、空を跳ぶ
「でかいだけのトカゲめ……!電撃の唱え方を教えてくれるわ!」
ガルドは拮抗させた魔法を維持しながら、ポケットから更に青い魔鉱石をばらまき多重詠唱を展開する
詠唱にて展開される魔法陣が電撃の柱に絡みつくように広がり、電撃の稲光が散逸する
そしてその散逸していく電撃が棘の様に高質化し、まるで意志を持っているかのように十重二十重と蛮龍の体に突き刺さった!
「このガルドが放つ電撃、五臓六腑で味わうがいいわぁ!」
突き刺さった棘のような電撃から、大量の稲妻が蛮龍の体に注ぎこまれる!
まるで電球にでもなったかのように蛮龍は内部から眩い光を放ち、閃光と共に悲鳴を上げた
「ふははは! そのまま黒焦げになってしまえ……ば……」
高笑いするガルドの顔がみるみる青ざめていく
悲鳴を上げさせ甚大なダメージを負わせたと思ったその巨大な光は、みるみるその体中に稲光を纏わせ、やがてその稲光は体表の何かに反応してみるみる炎に変わっていく
「な、なにぃ!?」
「愚かだなガルドリック、万物の王たる蛮龍とこの神代王を相手にそのような児戯が通用すると思うたか!?」
そしてまるで炎の翼を背負っているかのような姿に変わった蛮龍が、その翼をはためかせ、炎の竜巻を繰り出しガルドに打ち放った!
奇しくもそれはガルドが得意とする多重詠唱に似た攻撃!
双翼から生まれし左右の炎の竜巻が、電撃魔法で動くことのできないガルドを黒焦げにせんと迫る
「おのれ……!おのれえぇぇ!」
叫ぶガルドに竜巻が直撃する寸前にリンファが割り込み、その竜巻を螺旋の動きにて制御し直撃を避ける
だがそのあまりに巨大な竜巻は消しきることができず、二人はその炎の余波にその身を焦がした
「ぐうう……! な、なんて大きさだ! しかも火勢が強すぎて消えてくれないなんて……!」
「穢れ! どこで油を売っておった……! あまりに遅いからあの男の首を一人で引きちぎるところだったぞ!」
「よ、よく言うよ……! あと少しで黒焦げだったじゃないか」
蛮龍から繰り出される電撃はなんら衰えを見せず、今にも飲み込まれそうだというのにガルドはリンファに弱音を吐こうともしない
この劣勢の状況でも軽口を叩くガルドにリンファは少しだけ笑ってしまった
「何がおかしい! おのれの下卑た存在に自嘲か!?」
「どさくさに紛れてとんでもないこと言うなお前は! ……ガルド、どっちがいい?」
「なんだと……?」
リンファからの突然の提案にガルドの眉がピクリと動く
「……不本意だがトカゲにしてやろう、だが殴れる場所は残せよ」
「わかった、ちょっと耐えててくれ!」
わずかなやり取りでその意図を確認しあった二人は視線を敵に向け即座に行動を起こす
「はあああ!」
「なに……!? あのゴブリンハーフ何を企んでいる!?」
空中にいる蛮龍の足下に、リンファが滑り込むように進入し魔導発勁を練り上げる!
【八極剛拳 地烈爆震脚】
リンファの強烈な震脚が灰の様に白い大地の奥深くに響き渡り、間欠泉の様な土石を噴き上げる!
だがその間欠泉の勢いがいくら強くとも、その土石は空に飛ぶ蛮龍にとっては大した効果はなく……当然何の痛痒も与えることはできない
「ふん、所詮はゴブリン崩れ、知恵が足りぬか」
一瞬その攻撃に身構えた神代王がその様子を見て、侮蔑の笑いを向ける
だが次の瞬間その笑いは一気に消え去っていった
「なっ……! 蛮龍! 撃ち落とせ!」
神代王が泡を食ったように声を上げる
焦る神代王の眼下に映るは、小さな人影
その小さな人影はその勢いを増しながら急激に巨大化していく!
リンファが、空を跳んだ
魔法を使えぬゴブリンハーフがその空を我が物顔で跳躍している
地烈爆震脚で吹き飛ばした土砂土石は蛮龍に当てる技でなく、足場を作る為!
それに気づいた神代王が慌てて迎撃しようとするが、リンファは迅速に間合いを詰めた
「遠くからの攻撃が通用しないなら、直接叩くしかないよ……ねぇ!」
「く、来るなぁ! この化け物めがぁ!」
巻きあがる土砂を八艘飛びでもするかのように肉薄してくるリンファに叫びながら神代王が蛮龍に命令を下す
蛮龍はその声に瞼一つ動かすことなく無感情に大気を震わせ、何もない空間に 杭の様な物体を大量に生成し リンファに向けて発射した!
「ど、どこからあんなものを……!?」
「大気中の砂埃を再構成したというのか……!トカゲの分際で小癪な真似を!」
ガルドがその杭の正体を即座に看破すると、多重詠唱にて氷の散弾を討ち放つ!
それと同時に他方から撃ち込まれた光の鎖がまるで投網の様に広がり、迫る杭の進路を妨害しその威力と速度を殺していった
光の鎖に進路を塞がれた杭の散弾が、ガルドの氷の散弾で次々と粉々にされていく!
「リンファ!今だ!」
「ありがとう!アグライアさん! それとガルド!」
「物のついでの様に抜かしおって……! さっさと決めんかぁ!」
全ての杭の散弾が防がれたことにわずかに瞳を動かす蛮龍と、驚愕の表情を浮かべる神代王の目の前に
青い目を輝かせた緑色の姿が舞い降りる
「おのれ!ゴブリンハアアアアアフうううう!」
神代王がその姿を見るや否や術式を展開してリンファに魔法の狙いを定める
高い魔力で織り上げられる強力そうな魔法の錬成
だがこれまで神代王の攻撃を見てきたリンファはその姿を見て直感する
「神代王! 勝負だ!」
リンファの蹴り脚が豪弓の如く引き放たれ、神代王がそれをあの華美な剣の鍔で受け止める
走る詠唱、練り上げられていく魔導発勁
リンファはその直感を鵜呑みにはしない
それを当てにはしない
だが、肌で感じる
『神代王、お前……弱くなってるな!』




