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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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262/289

262.ゴブリンは……

「こりゃ驚いた……まさかこの国でこんな古い文字を見るだなんて想像もしてなかったわい」

リオの祖父、テンドは古文書を見るなり驚きを声を上げた



「読めるのかご老人?」

「そりゃ読めるともさ、少し見慣れない文体はあるがウチの爺さんたちが当たり前に使っていた言葉だもの……しかしこんな言葉がこの国にねぇ……」


焦りを隠し切れず質問するガルドにテンドは大きく頷く

その力強い肯定にガルドは思わず小さく拳を握りしめた


「まさか他の大陸の人間が読めるとはねぇ…… 今までの苦労は何だったのかと思うべきか、この日まで保存と研究をし続けてよかったというべきか……」

「都合がいいように受け止めておきなよ、ヴァレリア」


テンドの言葉に力が抜けたように座り込むヴァレリアに、ファルネウスは軽く肩を叩いて励ました


エタノー領の領主が代々守り、解読に挑み続けた古文書の内容が一人の老人の手であっさり読み解かれていく

これまでの時間は無駄足だったのかと疑ってしまう気持ちも、仕方がないといえるだろう



「……読めるが、わからんな」

「どういうことだ、ちゃんと内容を翻訳していただけるか?」


ガルドはテンドの言葉に苛立っているようだったが、それでもガルドなりの敬意ある振る舞いを絶やさない

老人はそんなガルドの雰囲気に気づきもしないで、首を捻りながら言葉を必死に選んでいた


「ガルド、おじいさんを焦らせるなよ……こんな遠いところまで来てくれたんだからさ」

「黙れ穢れ……そんなことはわかっておる 口を挟むな!」

「そういう声を出すから止めてるんだろ!」

「なんだと!?」「なんだよ!?」


リンファの諫める言葉に瞬間湯沸かし器の様に湯気を上げて声を荒げるガルド

そんな二人を見ながらアグライアはため息をつきながら二人をなだめた


テンドはそんな二人にキョトンとするが、ガルドが必死であることに気づいたのか小さく咳払いをして口を開いた



「うーん…… 全部を読んでみない事には何とも言えんが、目に入った内容をそのままお話しますぞ」

ガルドの気持ちを察したテンドは覚悟を決めたようにその本を指さしながら話し出す



「まずこの本を書いたのはゴブリンの一族だとしっかり書かれております、北の山脈に棲む雪の街に棲むゴブリンとのことです」

「雪の街……? 」

「そうです、雪の街のゴブリンはエタノー王国と長く親交を深めていたとあります」


ガルドは少し苛立ちながらもテンドの話に相槌を打つ

本当であれば『神のてのひら』以外の情報など知りたくもないのだが、どこにその情報がちりばめられているかわからない以上端折らせるわけにはいかないと感じていたからだ


「まずここなんですが、かつて雪の街のゴブリン……雪の民はエタノー王国に住む女性を花嫁として迎え入れていたそうです エタノー王国ももちろん公認したうえで……読む限りでは非常に協力的な関係だったと書かれています」

「ご、ゴブリンに人間を嫁がせるだと……!?」

思わず声を荒げて頭を抱えるガルド、今にも『馬鹿なことを言うな!』と言いながら掴みかかりそうな顔つきになっていたが、自分の体を腕で掴み必死にこらえていた



「た、多分それは本当だと思う……」

「知った風な口を挟むな穢れぇぇぇ!」


恐る恐る口を挟むリンファに、ガルドがここぞとばかりに噛みつく


「いや、リンファ君の言う通りそれは事実だろう 人間側にも『ゴブリンの花嫁』の話は残ってる というかその辺までは読み解いていたんだが……テンドさんと同じ解釈だったみたいで安心したよ」


ヴァレリアもまたリンファの言葉を後押しするように口を開く

ガルドはその言葉にも驚きを隠せないようで、「そんなバカな……」と小さくブツブツと声を独り言を言いながら、机に手をついて必死に体を支えていた



「ガルドほどではないが、私もその事実はにわかに飲み込めないな……だがそういう情報が残っているのは事実か……」

アグライアも少し驚いた様子で小さくため息をつく

少し前の神聖騎士団にいた頃であればガルド以上にその言葉を拒絶していたかもしれないとアグライアは考える

だがリンファに会い、たくさんのゴブリンを知った今ならその可能性は十分にあるだろうと思っていた



「で……ここからがわからんのだ というか、『やはりそうだよな』というべきかのう」

「な、なにが書かれているのだ……ご老人……!」



ふらつきながらもガルドは必死にテンドの言葉に耳を傾ける様子に、リンファは少し戸惑っていた


「ガ、ガルドはなんであんなにショックを受けているんだろう……?」

「自分の思っていた事実とは違う、信じがたい事実を目の当たりにしているからだろうね……私だって少しだけ同じような気持ちはある」


不思議そうなリンファの肩に手をやりながら、アグライアが呟く



王都がこれまで害獣の類とし、また国に住む全ての人間が疑いもせず駆除し続けた化け物 ゴブリン

そんなゴブリンがかつては人間に嫁がせる程の交友関係にあったなど、ガルドやアグライアには俄かには信じがたかった




「じゃあそのまま読むぞい……気をしっかりして聞くんじゃよ、若いの」

「わ、わかっております……!」


見て取れるほどに顔を蒼白をしているガルドに、テンドは気遣わずにはいられない

いうべきではないのでは……とも思ったが、ガルドの真剣な表情にテンドは咳払いをして声を上げた




「ゴホン……では行くぞ


『私たち雪の民は女の数が少なく、どうしても人口を増やすことができなかった

人手などはエタノー王国から来てくれる人間達が力になってくれたが、雪深い冬の季節となるとエタノー王国側も当然ながら人手を出す余裕はなくなってしまう』


『真冬となれば南に出稼ぎに出るべきだが、そもそもの人口が少なく、また若いものも増えていなかったためそうすることもできなかった』


『そこで我々雪の民は森の民、土の民などのゴブリン達と話し合いの上で、初めて人間の花嫁を娶るに至った』


『最初はゴブリンの女達から反発が来ると予想していたが、その予想はいい意味で裏切られた

ゴブリンの女たちは人間の女を歓迎し、人間の女もまたゴブリンの女に敬意を払ってくれたのだ』


『その申し出にエタノー王は真剣に受け止め、民に自由意志の元でこちらの申し出を受けるものを募り、多くの人間の女が名乗りを上げてくれた

この話の前からゴブリンと人間で恋愛の関係にあった者の話も聞いてはいたが、多くの名乗りに驚いたものだ』



『雪深い街に故郷を離れて嫁いでくれる人間に辛い思いをさせてはならぬと、われら雪の民は必死に万難を排し迎え入れた

老若男女問わず、嫁いでくれる人間の花嫁を歓迎し、愛した 花嫁の玉座を作り、歓待の儀式も行った』






『我らゴブリンは、人間を愛した 人間もまた、ゴブリンを愛してくれたと思う』





……だ、そうだ」




ガタンと音を立てて、ガルドが近くの椅子をひっくり返しながら座り込む

アグライアやファルネウスもまた、その事実に目を丸くしていた





リンファは口元に手をあてて、少し神妙な顔をして考え込む

驚いてはいた、けれどどこかでそうだろうなぁと思う心があったのだ






ゴブリンクイーンの城に侵入したときのあの不自然なほどの広い建物と多くの部屋

あれはきっと、人間を迎え入れるための居室、そしてかつて隆盛していた街の跡



ゴブリンはほかの種族と同じように雌雄があって、言葉があって、社会があった





ゴブリンは獣などではなかったのだ――――――



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