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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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260/285

260.さらば飛翔島

ルイの祖父は泣きながらリンファの手を握りしめ、ただただ頭を下げお礼を言った


「忘れ形見の孫を救っていただき、なんとお礼をすればよいか……!」

「あ、頭を上げてくださいお爺さん…… 僕一人でできたことではないので……」


リンファは目上の人間に深々と頭を下げてもらってることが歯がゆくて慌ててそれを止める

けれど祖父はその頭を決して上げようとはせず、お礼の言葉を言い続けて落涙していた



リンファが困っていると家の外がにわかに騒がしくなり、数人がツカツカを上がり込んでくる



「リンファ様!」

「あ、ルカさん お久しぶりです」

「何を悠長な…… 慌てて駆け付けました 大事ありませんか?」

「はい、大丈夫です…… ルカさん、来たばかりで申し訳ないんですがルイ君を見てあげてもらえませんか」



リンファがそういうとルカはすぐにルイの傍に座り、治癒魔法を展開させながらその傷の様子を見ていく

祖父とリオが不安そうに見つめる中、ルカは小さくため息をついて魔法の展開を停止させた


「リンファ様、診てみましたがルイ君に問題ありません……ですが」

「ですが……? 何かあったんですか!?」

「いえ……なんでもありません むしろ問題がなさ過ぎて驚いているくらいです」


ルカは不安そうな顔をしてみつめてくるルイの頭を優しくなでながら笑顔を向けて安心させてやる


「血を吐いて倒れた子ども、更に回復魔法に効果を認められないと聞いた時には肝を冷やしましたが……損傷個所がどこかわからないくらい丁寧に治癒されていました」

ルカはそういうとリンファをじっと見つめたまま、何か言いたそうな顔をしたまま無言を貫いた

リンファはその表情に気づき、少しだけバツが悪そうに苦笑いを浮かべた



「おじいさん、大丈夫ですよ まだ検査と経過の観察は必要だと思いますがこの子に差し迫っての異常は認められません」

「あ、ありがとうございます……! まさか中央のこんな偉い方に診ていただけるだなんて……」

「今回の件は労災案件として報告を上げるように鉱山部門に通達しておきます、 この子が無事で本当に良かった」



ルカが祖父に対して色々な説明をする中、リオがリンファの袖を引っ張る


「リンファさん…… ありがとうな リンファさんたち来なかったら……ルイは……」

「気にしなくていいんだよ、助かってよかった」

「ほかの人にもお礼言いたいんだ、どこにいるか教えて……リンファさん!」



リンファはその言葉に少しだけ喉を詰まらせる


「あの黒いマントの人は、リーフ兄ちゃんの友達だって言ってた……兄ちゃんの話も聞きたいんだ、頼むよ!」


必死にせがむリオに、リンファはただ困って笑顔を浮かべることしかできなかった――――





――――――――――――――――――――――――――――



「ガルド」

日も暮れてきた町はずれの廃墟の一角で、わずかに魔法の光を輝かせながら男が座り込んでいるガルドにリンファは話しかける


「穢れか、随分時間がかかったが何をしていたんだ?」

「それはこっちのセリフだよ……こんな廃墟の奥で一体なにやってるのさ?」


ガルドは無言で魔法の光を一層強く輝かせると、その光とともにわずかに燃えるような音が一瞬弾ける

魔法の展開をやめたガルドたちに周りは一層薄暗く闇が落ちた



「あのゴブリン、本当にゲートの場所を教えていたのでな……知ってしまった以上面倒だが潰しておいたのだ」

「そうだったのか……お疲れ様」

「貴様に労われるいわれなどない、これは人間……引いては神の宝を守るために必要な措置だ 王や国などは役にも立たんからな」



リンファの言葉に笑顔一つも見せず、ガルドは無表情で立ち上がり膝についた砂を払う

「あのガキはどうなった? まぁなんの問題もないとは思うがな」

「う、うん……」




「そうですね、何の問題もありませんでしたよ ガルド」




少し離れた物陰から呼ぶ声にガルドはわずかに怪訝そうな表情を浮かべる







「ほお、誰かと思えば…… 中央の腰巾着ではないか」

「あの治癒魔法の痕跡を見て貴方だとすぐわかりましたよ、騎士団の頃からあなたは卓越した魔術を使いこなしていた」



ルカはガルドにそういうと、その両手に治癒魔法を纏い構える

そんなルカを見て、ガルドは見下しながらわずかに笑った



「治癒魔法の術式を拳に宿して手傷をよけずに戦う……相変わらず下らぬ下品な戦い方をするようだな、腰巾着」

「犯罪者風情が随分と偉そうに吠えますね、今ここで貴方を亡き者にしてもお咎めはないのですよ?」

「ほぉ……やるか?」



着火剤の様に即座に二人の間の空気がキナ臭く焦げ付いていく


「ま、待って待って!」

リンファが慌てて止めに入るが、二人はにらみ合ったままだった

いつ戦闘が始まってもおかしくないほどに空気が張り詰めたが


ルカはそんな空気に針でも刺したかのように大きなため息をつき、戦意を消失させた


無表情でルカを睨み続けるガルドとあっけにとられるリンファを前に、「なんでこんなことを……」とブチブチ小声で愚痴を言いながらルカは胸元のポケットから何かを取り出して言った



「ファルネウス様から話は聞いています、これはリオ君のおじい様の国外移動許可証です、印鑑は押してありますので戻ったらファルネウス様に魔力を込めてもらってください」

「え、あ……ありがとうございます、ルカさん」

「さすがに家族全員の許可証は無理でした、ですのであの子たちはお爺さんが戻ってくるまで責任もって中央区で預かります」



ルカはそこまでいうともう一度大きなため息をつき、リンファの瞳を見る

「この度の戦争……大変でしたね 何も力になれずごめんなさい そしてファルネウス様やアグライア様を助けてくれて……ありがとう」

「ち、違うよルカさん!僕はなにもできてない……むしろみんなに助けてもらったんだ」

「それでも言わせてください、ありがとうリンファ様」




慌てて手を振るリンファに、それでも頭を下げるルカ

そしてゆっくりと頭を上げると、殺さんばかりの視線でガルドを睨みつけた



「一応礼儀的には貴方にも礼を言うべきでしょうね、ガルド 感謝します」

「心が欠片も籠らぬ謝辞などハリボテ以下、むしろ不愉快だな」


ルカはこめかみにうっすら血管を浮かべながら、眉間に指をあてて何度目かの大きなため息をついた


「ゴブリンの転送陣……ゲートのいくつかは潰しておいてやった、後は貴様らで処分しておくのだな ここは何が紛れ込んでいても見分けがつかんのだ、努々警戒をしろ愚か者どもめ」

「……ご助言感謝いたします、ファルネウス様から捕縛無用の指示を受けているのでさっさとここから失せなさい、犯罪者」

「言われなくとももうこんな風船の様な島に用はない さぁ戻るぞ穢れ!我々には時間がないんだ!」




ガルドはそういうとツカツカとリオの家に向かって歩き去っていく

リンファは小さくため息をつきながらルカに頭を下げた


「リンファ様、あの男には注意してください」

「うん、わかってる ありがとうルカさん」


ルカはリンファの手を取ると、その少し冷たい掌でしっかりと包み込み言った


「私にはわからない事ばかりだけど、私たちは貴方を心配してますからね……アグライア様にも伝えておいてね」

「ルカさん……」



「あなたは一人じゃないってこと、忘れないでね」

「……はい!」




ルカの言葉に笑みを浮かべると、リンファはガルドの名前を呼びながら走り去っていく


ルカはその背中を目で追いながら、星が輝き始めた空をゆっくりと見上げた―――



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