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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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258/265

258.3カウントの対決

リンファはわずかな緊張とそれ以上の覚悟でその身を一瞬震わせる


先生から教えてもらった本来の八極剛拳の技

自らの気を相手に打ち込み相手を内側に影響を与える力を、リンファは初めて戦い以外で誰かに撃ち込もうとしている

先生は「この力は相手を壊すだけの技ではない」と教えてくれた



何度も繰り返し稽古を積んできた

やり方だって身に着けている、だからと言って絶対にできるとは言い切れない


けれどその不安は腹の底に抑え込む

できるかできないかじゃない、やるんだ

これだけに集中するんだ


自分にできることに集中して、あとは二人の力を信じるんだ





「穢れ、貴様のタイミングでいい 貴様がミスをすればそれで終いだ」

「人間、ゴブリンハーフに余計なプレッシャーを与えるな……! 犠牲になるのはこの子なのだぞ、言葉を慎め」


ルイを挟んでガルドとアバカスがにらみ合う

そんなことをしながらもガルドはずっとルイの血液を循環させ続けていたし、アバカスは少しでも出血量が減るように処置をし続けていた




「わかった……アバカスさん、3秒立ったらすぐに心臓を復帰させます それ以上もそれ以下にもしません お願いします」


リンファはルイの右手側に膝をついて座り、ルイの肩に触れながら大きく深呼吸をする


ルイの小さな呼吸に合わせるように自らの呼吸を合わせて、まるで同じ肺で呼吸をしているかのように息を合わせるリンファ

鼓動すらも合わせるように、リンファとルイの拍動が一体化していく


やがて一人の人間になったかのような状態になったリンファを見て、アバカスは目を丸くした


「こ、こんなことが……」


そしてそんなアバカスを見て、ガルドが鼻で笑う


「これだからこの化け物は始末が悪い、私では理解できない力を平然とみせつけてきよるからな…… 自分のことに集中するんだなゴブリン、ほかの事に意識を向けている余裕などないぞ」



アバカスは怒りの視線を向けるが、言葉にはせずメスを患部の傍にそっと置いた


今も動き続ける緑色の心臓の太い血管にまるで突き刺さるように生える魔鉱石がその鼓動とともに踊る


アバカスはこれまでたくさんの手術をしてきた

同胞の臓器を切り取り、その臓器を多くの同胞に移植してきた


そうしなければゴブリンの社会を発展させることができないというクイーンの教えに従って、緑の血を浴び続けてきた

誰かがやらなければならないなら自分がやると、率先してメスをふるってそのやり方を多くの同胞に教えてきた


今やゴブリンの社会では誰かが誰かの犠牲になることが当たり前になってしまった

当たり前になりすぎて、それを気にも病まないものもいるだろう


だが、アバカスはその事実にずっと苦しんできた

考えれば考えるほど、それは納得していい事柄ではないとアバカスは心を痛め続けてきた


社会がそうなっているから仕方がない、クイーンの教えだから仕方がない……

けれどそれは本当にそうか? だから今目の前の生まれたばかりの赤子や勝手な線引きで選別した仲間を殺していいのか?


言葉を覚え、考えることが鮮明になってからアバカスはずっと考え続け、悩み続けてきた

けれどその流れを拒否することもできず、ずっと血に濡れてきた



そして今、アバカスは初めて緑の血で染まり上げたその腕を誰かを助けるために振るおうとしている

忌むべき人間と、誰よりも憎んでいる仇敵と共同して命を救おうとしているのだ




決してこれは協力ではない、仲間などでは決してない

アバカスは小さく息を吐いて、呼吸を止めた


『こんな戦いも、あるんだな』


そう思い、アバカスは静かにその瞬間を待った









リンファの体内に気が巡る

魔導発勁とは違う、リンファの血と肉の流れがルイに伝わっていく



空気が震え、その場の全員が息を合わせる


そしてリンファがその手をわずかに浮かせて、言った



「……いきます!」



ルイの鼓動がトクンと打った瞬間、リンファの肩が沈んだ


リンファの鼓動が部屋を揺らすほどに響き渡り、その手よりルイに力が撃ち込まれる




【 3 】


心臓はさきほどの鼓動を最後に、水を打ったかのように静まり返る

アバカスはその鼓動をまるで合図にしていたかのように魔鉱石が食い込んだ血管にメスを当てて切り開く




【 2 】


まるで最初から切り離されていたかのような流れでその血管は切り離されていき魔鉱石がそのささえを失っていく

アバカスは極力血管を傷つけないように、決して分断しないように魔鉱石だけを切り離し、それを患部から取り除く


ガルドははやる気持ちを抑え、その瞬間の為にを張り詰めた弓のごとくその魔力の解放を我慢した



【 1 】


アバカスは切り離れた魔鉱石を左手でメスごと掴むと、そのまま迅速に取り除く

リンファはその拍動を戻すべく、二人を信じて躊躇せずその心臓の拍動を再開させる

ガルドは魔鉱石が患部から離れたその瞬間、抑えていた光の洪水の如き治癒魔法を今にも血を噴出させそうな血管と患部に向けて全弾叩き込んだ!


【 0 】




ルイの心臓は動き出す

その血管はまるで何もなかったかの様に美しいビリジアンにも似た輝きを放ち、血の一滴も漏らしていない

そして心臓の力強い鼓動に応えるように、次々と緑の血を全身に流し込んでいった




「やった……!?」

リンファが小さく息を乱しながら、目を丸くする

ルイの魔力の流れに魔鉱石の力は感じられなくなり、リンファに視えるのは綺麗な流れのみ



安堵しかけたその時、リンファは目を見開いてその手を伸ばす

アバカスは歯を食いしばりながら自らの左手を必死に抑え込むが、その刹那握り込んだ左手から血が噴き出しながら光が漏れる


「こ、こんな……ぐあああ!」


アバカスの左手の中にはあの切れ味鋭いメスと、それで切り離した魔鉱石

切り離した瞬間動き出した心臓とともに、ルイの無意識に放った魔力に反応して魔鉱石が瞬時に活性化


むき出しの心臓をどうにか守ろうとアバカスは魔鉱石の活性化による発火と爆発に臆することなく、その手を握りしめ続けた

魔鉱石の熱がアバカスの左手をズタズタに焼き焦がし、収束する爆発の勢いが手のひらに伝わっていく

手を離さなければ指の数本は持っていかれるであろう衝撃を覚悟しながら、アバカスはそれでもその手を離さなかった!




「うあああああああ!」

「あ、アバカスさん! させるかぁ!」



アバカスの今にも爆発しそうな左手めがけて、リンファが即座に掌底を叩き込み、その内部の魔鉱石の魔力の流れを絶つ!

だがその爆発は完全には止まらず、アバカスは周りの被害を少しでも減らそうとその左手を高く掲げる



魔鉱石の爆発が自らの左手を包み込み、熱と光でその肉と皮膚を焼きながら粉々にしていく瞬間にアバカスは目を見開く



だがその刹那



爆発以上の膨大な光の繭にその手が包まれたかと思うとその傷が逆再生されるように消え去り

なにもなかったかのような緑色の掌を形作っていった



「え……?」

茫然とするリンファ



「ぐあああああ! ……あ?」

なくなったはずの指の感覚に戸惑い、アバカスはマヌケな声を上げる





そして、ガルドが



「う、運がよかったなゴブリン…… カウンターヒールというのはこういうものをいう……のだ……!」



弾む息を必死に抑え込みながら、不敵な笑みを浮かべていた―――――





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