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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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257/258

257.僕を信じなくてもいいから

アバカスとガルドは揃って信じられないものを見るような顔でリンファに視線を向けた


「心臓を止める……だと? なめるなよゴブリンハーフ! この子が助からぬと思って介錯でもするつもりか!」

「穢れ……貴様には失望したぞ」



二人の刺さるような言葉を胸に受けてもなおリンファの目はたじろぐどころか、さらにその目の力を込めて二人の視線を押し返した


「そういう意味じゃない、治すために心臓を止めるんだ!」

「な、治すために……だと……!?」


リンファがルイの顔を撫でる、その目にはあきらめがないことをガルドは感じ取った


「お前の企みを話せ、穢れ……どうせ荒唐無稽の夢想だろうが聞いてやる」

「……僕がルイ君の心臓を数秒間停止させる、その間にアバカスさんが魔鉱石を切除して、ガルドが治癒するんだ」


その言葉にガルドは表情を変えなかったが、アバカスは驚愕で目を丸くする


「心臓を数秒止める……だと!? そんな都合のいい魔法があってたまるものか! 例えそんな魔法があったとしても魔鉱石がその魔法に反応したら心臓にどんな異変が起きるか分かったものじゃない!」

「魔法じゃない、僕が発勁を打ち込んで心臓をショック状態にする これは魔法じゃない」


リンファはアバカスの目を見て言った


「僕は……ゴブリンハーフは魔法を使えない それをよく知っているはずだ」


その言葉にアバカスが息を飲み、ガルドがニヤリと笑う


「そうだな、貴様はこの世界で唯一魔法が使えない不気味で下賤な化け物だ……そして不可思議な技を使うこともよく知っている」

ガルドがその言葉に納得したのか、立ち上がり複数の詠唱を開始する



「この私にカウンターヒールの真似事までさせるか……つくづく気に食わん」

「か、カウンターヒール……?」

「致命傷が刻まれる瞬間に治癒魔法を打ち込むことでダメージを相殺させる技術だ、早すぎれば治癒の意味はないし遅すぎれば死ぬ」


ガルドは笑う


「つくづく不気味な奴よ……心臓を止めるだと? その間に切れだと? そしてそれを動くまでに癒せというのか……馬鹿者が!」

そういいながらガルドは複数の詠唱を次々と完了させ、いつでも発動できる準備を整える

その輝きは全て治癒魔法、眩いばかりの神聖な光が辺りに降り注いだ




「私はお前を納得も信用もできていない、そんなお前が私に信じろというのか? そんな見たことも聞いたこともない力にこの子の命を預けろというのか!」

アバカスは不安な顔を隠そうともせずリンファを怒鳴りつける


「こんなバカな賭けでこの子の命を天秤にかけていいわけがなかろう……! 貴様ら命をなんだと思っているんだ!」


アバカスが目の前の小さな命をかばうように叫ぶ

ここにきてなおリンファの言っていることもやろうとしていることも理解できないアバカスは、それを拒否する


「いずれこのガキは間もなく死ぬ、血液の循環は繰り返しているがそれでも失っている量を考えると数分が限界だろう」

「適当なことを言うな……人間!」

「それは貴様がよくわかっているはずだ、今からその傷を縫合したところで肉体のダメージを考えれば早晩命はなくなる このガキが痛みに負けて自分に魔法を打ち込んでも終いだ」



ガルドが冷たい目でアバカスに言い放つ

それを聞いたアバカスは、狼狽しながらも視線を伏せてわずかにうめく


「図星か そうよな……ここまでの事ができる貴様がこのガキの容態を理解できていないわけがないからな……」

「だ、だがそれでも……そんな命を捨てかねないようなやり方には賛同できない……!」



「命なんて捨てない、僕らが揃ってそんなことには絶対ならない!」



リンファがうつむくアバカスの目を穿つように睨みつける

その目はあまりにもまっすぐで、力強い意志に満ちていた



「ここにいる3人が自分の最大限の力を出せば、この子は助けられる……そうでしょ?」

「ふ、ふざけるな……!」


アバカスは瞳を揺らすが、リンファはその目をなおも見つめる



「アバカスさん、あなたは僕を信用できない、それでいい でも僕じゃなくて、僕の力を信じてほしい」

「お前の……力だと?」


アバカスはそういわれてリンファの手を見る

その手はいくつもの傷痕が刻まれ、戦いの印が残る


「僕だってあなたの全てを理解できないし、信用もできない けれど……けれどあなたのその力と気持ちは信じてる」


アバカスの瞳が揺れるのをやめる

あぁそうだ、私はこの手に何度も苦渋をなめさせられた

どんなに叩き潰そうとしても立ち上がり、這い上がり、絶対的な力で打ち負かされた目の前その拳


私たちの前に立ちはだかる、ゴブリンの血塗られた運命から外れた化け物の拳!



「アバカスさん、お願いだ」


リンファがその頭をゆっくりと下げ、アバカスに願った



「僕たちにルイ君を助けさせてください……頼みます!」




その拳の力を信じろと、お前は言ったのか?



その言葉に、アバカスの表情から恐れが消える


アバカスの口から小さなため息が漏れると、治療器具の中から濡れるように威容を放つ切れ味鋭いひと振りのメスを手に取った


「お前等を信用などできるわけがない」

リンファと目を合わせようともせず、メスの刃筋を睨みつけるように丁寧に確認するアバカス

そしてそのメスの背を右手の人差し指で押さえて構えると、自らのメガネを左手でクイっと持ち上げた



「だがお前の何度でも立ちはだかってくる理不尽な力を……認めざるを得ない」

眼鏡の奥が冷たくリンファを睨みつける


それは明確な殺意

その殺意を感じたリンファは、臆することなく強く睨み返す



「私の持つ力を見せてやる、だからお前らもせいぜいその力を見せつけるがいい……!」


アバカスがまるでリンファに襲い掛からんほどの圧力でメスを握り、睨みつける

けれど睨みつける先はリンファではなく……




「3秒だ、3秒よこせ」

「……わかった!」



アバカスはルイの心臓を睨みつけ、リンファはルイの頬を撫でる 

ガルドはそんな二人を見ながら、その瞬間を見極めんと術式を展開させる






ルイの息は浅くなり、その緑の血は徐々に危険域まで失われていく


そんな状況でも誰一人恐れてはいなかった



長い3秒間が、始まる―――



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