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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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255/284

255.助けさせてくれ

緑の肌に赤い瞳

だがゴブリンという乱暴で凶悪なイメージとは程遠い、理知的ではあるが神経質そうなその顔つき

丸い黒縁眼鏡をクイっと上げると、アバカスはリンファたちを睨みつけた



「こんな雑菌だらけの家屋で治療など無知の極みと思っていたが…… なるほど、こういう処置の仕方があるのか 君らの評価を一部訂正しよう」

アバカスはルイを中心に展開されている障壁を見ながら勝手に納得していた



「アバカス!この子をどうするつもりだ! なぜ飛翔島にいる!答えろ!答えなければ……」

リンファがアバカスを睨みつけながら膝をゆっくりとアバカスに向け、構えを作る

腕は変わらずルイに沿ってはいたが、その足はいつでも踏み込めるような形を作っていた



「それはやめろ、ゴブリンハーフ」

「なにぃ!?」

「貴様と一戦を交えることに何の躊躇いもないが、この家とこの子の兄、そして何よりその子を巻き込みたくはない」


アバカスはカバンからメスなどの器具や小瓶に入った薬を取り出し、テキパキと治療の準備を進める

リンファはアバカスの態度の変化に戸惑いながら、それでも油断せず構えを崩さなかった




「り、リオに会ったのか……」

「あぁ、今は祖父を呼びに行っている、こういう時に保護者がいないというのは心細かろうからな」


リンファはその言葉にわずかな違和感を覚え、足に力を込める


「リオは頭のいい子だ、どうして見ず知らずのお前を信じてルイを置いてお爺さんを呼びに行ったんだ……おかしいだろ」


リンファの問いかけに治療の準備をするアバカスの手が止まる

刺して感情を籠っていない目でアバカスはリンファの視線を受け止め、表情一つ変えることなく言った


「貴様に説明する義理はないが、何も嘘は言っておらんよ 洗脳の類でもない」

「そんな言葉で信じられるわけがないだろ……!」



リンファの足元がわずかに揺れる

そしてその近くで状況をガルドもまた視界をなくしたまま詠唱の展開を完了させていた


「戦う気はないと言っている相手にそこまで牙を剥くか……、度し難いな貴様らは」

「黙れゴブリン風情、貴様の様な獣の言葉を鵜吞みできると思うか?」


「相手の姿も見えていない様子だが随分と強気だな人間? このまま二度と光を拝めないようにしてやろうか」

「下賤なゴブリンなど見えずとも臭いでわかる、貴様が一呼吸する前に消し炭にしてくれるわ」




お互い敵意をむき出しにしながら、ガルドとリンファは臨戦態勢を崩さない

アバカスは手に武器も持たず治療の為の準備を広げていたが、やがて埒が明かないと感じ小さなため息をついた



「リオだったか……あの子は確かに私を信じて祖父を呼びに行った これを見せた上で説明をしたからだ」


アバカスはカバンから布を取り出し、リンファに見せる

リンファはその布を見て、思わず息を飲んだ


「あ、青いバンダナ……」

「リーフから預ってきたこいつを見せた上で信じてもらったんだ、『私はアイツの盟友だ』とね」



その青いバンダナはかつて自分が身に着けていたものと同じ柄

母の形見として大事に持っていたもので、リンファが知る限りそれを持っているのは自分以外はリーフただ一人



「これを見せたから信じろといわれても無理かもしれん、だがそれでも私はその子を助ける この子の兄と約束したからだ」



リンファはアバカスを見つめながら息を飲む

信じるべきか信じざるべきか、その心は揺れる



ガルドはやっとの思いで眼球の洗浄を済ませると、まだ定まらない視界のままアバカスを冷たく睨みつけていた



「貴様らに理解してもらえるなど思っていないが、私は友の名を出した以上、その名に泥を塗るような真似はしない」


アバカスは身に着けていた服をすべて脱ぐと、カバンから卸したての様な真っ白い服を取り出し着替えていく

それは治療をするにあたって汚れを持ち込まないという表れであり、自らが武器一つ隠し持っていないということをリンファたちに指し示す行為だった



「あ、アバカスさん……あなた……」

「心配するな、丸腰だ 心配ならコイツも渡しておく」


アバカスはカバンから赤い石を取り出して障壁の前に並べる

それは命鉱石と呼ばれる魔力の塊であり、ゴブリンの命が変わり果てたもの


アバカスにとってはかけがえのない同胞たちの形見と言って差し支えのないものだった



「魔鉱石か……丁度いい、差し出すというなら使ってやろう」

「ダメだ! ガルド……これは使っちゃだめだ……!」


血相を変えて止めてくるリンファを見て、何かを察したガルドは小さくため息をついて攻撃の詠唱をやめて氷の刃の錬成を再開する

「そうか、わかった ならば貴様が決めろ どのような決断でも私のすることは変わらん」



「クイーン様にではない、私の友リーフに誓う リーフの生きた場所でありリーフを大事にしてくれた彼らに悪しざまな真似はせん」



アバカスはゆっくりと立ち上がり、一歩だけリンファに近づく

その目にかつて見た憎悪はなく、澄んだ赤い瞳が宿る


そしてその赤い瞳がゆっくりと伏せられ、リンファに頭を下げた


「私にその子を助けさせてくれ、頼む」

「今……僕に頼むと言ったのか……!?」



リンファはアバカスの手を見る

これまで何度もアバカスと拳を交え、そのたびに分かり合えないままだった

今でもアバカスの考えに納得はできないし、きっとこれからもお互いが納得することはないかもしれない


けれど……


「ガルド……」

「……わかってはいるが、敢えて貴様の口から言え」



リンファは目を伏せ、リオの顔を見ながら言った


「障壁を開けてくれ」

「……わかった おいゴブリン、何か怪しい動きをしたらその場で空気の塵に変えてくれるぞ」




ガルドはリンファの言葉に一切の反論を見せず、その言葉を汲んで障壁を開放する


アバカスは何も言わず手術器具を手に持ち障壁の中に足を踏み入れた





「ゴブリン、大口を吐いたからには腕に覚えはあるのだろうな?」

ガルドが入ってくるアバカスの目も見ずに言い放つ


その言葉にアバカスは自分の手を見ながら自嘲するように笑った






「あぁ、これまで何千もの同胞の体を切ってきた……これからもきっと切るだろうよ」





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