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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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254/256

254.眼鏡の奥、紅く光る

「緑色の血か……、こう見ると本当によく似ているな」

「ガルド、今はそういうことを言うなよ」

「似ていると言っているだけだ、それ以上も以下もない このガキが何者であろうと助ける」



ガルドはブツブツと呟きながら、淡々とルイ皮膚を切開し、少しずつ手術を進めていく

リンファはルイが痛みを感じないように魔導発勁を常に流しつつ、その目を優しく押さえてやっていた


「ガキの様子はどうだ、穢れ」

「今のところは息もしてるし、心拍も異常を感じない…… 魔力の流れも滞ったりもしてないから大丈夫だと思う」

「ガキが暴れて内臓なんかを傷がついたら終わりだ、しっかり面倒をみろよ」

「わかってる……ガルドの方はどうなんだ?」



ガルドは切除した後その手を止めて詠唱を始め、氷でできたメスのような刃物を再構成していた


「わかってはいたがこれだけ魔力を制御しながら切り進めるのは骨が折れるな……だが心配するな 問題はない」


二人は冷たい汗を額に浮かべながら、息を止めるように慎重に治療を続ける


今まで命を奪いに来る敵と切った張ったの戦いは何度も経験してきたし、大量の血を流してきた二人

傷を負うにせよ癒すにせよ、自らの力を押し通してきた


だが今この状況でそうはいかない

幼く小さな体の動きやうめきに全神経を集中し、その命を必死に支えなければならない

壊すのは実に簡単だが、壊さないのは恐ろしく難しい


リンファが流す魔導発勁一つとってもみても、その力のコントロールを間違えればルイの小さな体に潜む魔力を過剰に共鳴させて重篤なダメージを負わせかねない

ガルドとて体内を切り開くというほぼやったこともないような作業をぶっつけ本番で進めねばならず、しかも誤って傷をつけてもおいそれと治癒魔法も使えない


そんな不慣れな状況で、二人は必死にその手を動かし続けた



「魔鉱石の位置はどの辺りだ、もう一度指で指し示せ」

「右わき腹の少し上くらい……気持ち背中側に寄ってる」

「人間でいうと……肝臓くらいか このガキの体がどういう構造になっているかはわからんがな」


ガルドが一太刀進めるごとに大きな深呼吸をし、魔力を手元に集中させる

傷口や患部に治癒魔法はおろか下手に魔力を重ねることができず、ガルドはそのたびに冷や汗をかきながら氷の刃を構成しなおす


「くそ……、氷の雫が落ちないようにするのが実に面倒だ」

「傷口に当たるとまずいの……?」

「念には念を入れている……滅菌をしているから汚染の心配は少ないが、雫に万が一魔力の残滓が残っていたら魔鉱石は患部もろとも氷の棘と変化しかねん」



皮下を切り、ゆっくりと傷口を片手で広げるガルド

その動きにルイがピクッと体を震わせ、リンファがそれに合わせて魔力の共鳴をわずかに強くする



「穢れ、動かすな 手元がブレたらどうする……!」

「わかってる ごめんよルイ君、怖くないからね、大丈夫だからね……」


ガルドが舌打ちをしながら自分の羽織っているマントを噛み割き、切り裂かれた布部分から糸を魔力でより合わせた上で硬度を持たせ、広げた傷口を抑える

糸でより合わせたその器具がルイの体に接している部分に魔力が及ばないよう、さらにガルドは魔力のコントロールに神経をすり減らせた



時折目を大きく見開き歯を食いしばるガルドにリンファが少し不安そうに声をかける


「が、ガルド、大丈夫か……?」

「き、貴様に……心配されるいわれなどないわ……!」


リンファの気遣いが気に障ったのか、ガルドが自らの顔を平手でたたきつける

自分で自分を叩いたとは思えないほどの破裂音が鳴り響き、リンファはガルドの顔を見ながら白黒した


「黙って自分の仕事をこなせ、なんとしてもこのガキには助かってもらわねばならんのだからな……」

「わかってるよ……! 僕だってルイ君を絶対に助けたいんだ」

「ふん、わかっているならいいんだがな……」



ガルドが息を大きく吸い込み各機材への魔力の維持を展開し、氷の刃を再びルイにあてる

皮下を切り、その奥の開き、緑色の内臓がガルドとリンファの視界に見えた




「見えたぞ、恐らくは肝臓だ……魔鉱石の位置はどこだ!」

「そ、その奥だ……!その奥の、少し太めの血管にルイ君とは違う魔力の流れがある!」

「あと少し……これさえ取り除けば治癒魔法で回復ができる!」



ガルドが少しだけ目元を緩め、氷の刃を臓器の上側に張った薄い緑の膜を切り離す




その瞬間、その内側でたまっていた血が噴水の様に体外に噴き出す

そしてその勢いある血はそのまま患部を注視していたガルドの目に直撃!



「くっ……!」

ガルドは血がかかった目の刺激でブレる手元を、瞬間的に魔力の維持を解除して氷の刃や糸の器具の消失させ、そのままルイから離れてうずくまる


「ガルド!」

「くそ……こんなことで……! 穢れ、ガキの傷口に刃の水がわずかにかかった!変化はないか!?」

「待って……! だ、大丈夫……大きな変化はない……でも広げていた部分が閉じちゃってる」



ガルドは舌打ちをしながら目に入った血を水の魔法で洗い流す

だが咄嗟に瞼を閉じたせいで目の奥に血を巻き込んでしまい、目をうまく開けることができず視界が塞がれたままとなってしまった


「くそ…… 視力が戻らん! けがれ!ガキのコントロールを怠るな、すぐに回復させて再開する!」

ガルドはダラダラと涙がとまらない塞がった目で必死に精神を集中させて魔力をもう一度構成しなおそうとする

だがその魔力は集中を欠き、先ほどのような刃を錬成しきれずガルドの手元にポタポタと雫がこぼれる



「く……!」

「ガルド、ルイ君の体は僕が暫く持たせる! 中央区のルカさんを連れてくるんだ!」

「馬鹿を言え! それまでこのガキが持つわけないだろうが! あれだけを血を吐いてるんだ、一刻を争うんだぞ!」

「だけど!」





「やれやれ、随分と粗野で下品な手術をするんだな…… 人間という奴は」




その時、障壁の向こう側からこの場で聞くには耳慣れない声が二人の耳に響く

リンファはその声の主が誰かわかったが、信じられずにゆっくりとその方向に目を向ける


「な、何者だ……!? 穢れ!そこにいるのは誰なのだ!?」

「な……お、お前は……!?」




男は身に纏っていた黒いローブをバサッと脱ぐと、手に持っていたカバンを床に置く


バクンと大口を開けて解放されたそのカバンの中には、リンファが見たことがないようなたくさんの金属製の器具が几帳面にまとめられて収納されていた



男の肌は緑色で、真っ赤な目をギョロつかせる

一見すれば緑の民……だが男は緑の民では決してなかった


緑の民の象徴である獣のような毛皮に覆われた腕ではなく、緑の肌がありありと露出した腕

それは緑の民によく似た、だが決して違う種族



「どけ、この子は私が助ける 人間と化け物ごときがこの子に触れるんじゃあない!」

「な、なんでお前がここにいる……!」




リンファはルイから離せない両手を必死に抑えながら、その男を睨みつける


男はそんなリンファなど気にもせず、身に着けたメガネをクイっと上げてリンファを見下ろした




「その子から離れろ……ゴブリンハーフ!」




「なぜここにいる! 答えろ! アバカス!」


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