252.弟のルイが
「おぉ、アンタか! 久しぶりだな~元気してたか?」
「はい、おかげ様で・・・」
「そうかそうか! この島で元気にやってるなら何よりだな!」
リンファはあの後ガルドと散々もめ倒した後、やっとのことで思い出した場所に何とかたどり着く
そこは7番居住区の宿舎事務所、路地裏の建物ほどではないが古びてはいるが手入れの行き届いたその建物をリンファはなんとか見つけ出したのだ
かつてここはリオがこの居住区に連れてきてくれた時に最初についた場所
鉱山区で働く緑の民の出退勤を管理する詰所のようなところだった
「そういえばリーフの事知ってるか? アイツどうやらこの島を逃げちまったらしいんだよ心配だよなぁ」
相変わらず他人の事情をペラペラと話すその男にリンファは軽く苦笑いをした
「あの、リオに用事があってきたんですけど・・・実はリオの家を知らないんです、教えてもらうことはできますか?」
「ん? あぁいいよ 36番地の・・・えっと、ここから見える通路から3つ目の十字路を右に曲がって5つ目の家だよ あそこのじいさん芋を干してるからすぐわかると思うぜ」
男は詰所の出窓から身を乗り出してリンファに道を教えてくれた
「あ、ありがとうございます 行ってみます! 」
「いいってことよぉ、元気づけてやってくれやぁ」
大きく頭を下げてお礼を言うリンファに男は手を振って答え、そのまま詰所の奥に戻っていく
そのまま机に戻った男は何の気なしに出窓から見えるリンファの背中をなんとなく気にしていると
「ほら! 行くぞ! っていうか歩けよ!」
というリンファの声が聞こえて、男は小首を傾げた
「なんだありゃ? 独り言にしちゃずいぶんと声がでけぇな・・・?」
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「・・・あのさぁ」
教えてもらった道を一人歩きながらリンファが話し出す
辺りに人影はなく、リンファは誰もいないその路地で不満そうになおもしゃべり続けた
「ガルド、なんかそれ気になるんだけど」
『気にするな、私は気にしない』
「僕が気にするって言ってんだろ?」
誰もいない道でリンファが自分の足元に向かって話し続ける
人影がなかったから良かったようなものの、誰かが見ていたら完全に不審者のそれだった
そしてそんなリンファの傍から見れば独り言の言葉に、足元の影が流暢に返事をする
「別に重くもなんともないんだけどさ、なんか影に潜まれるのすごい嫌なんだけど・・・!」
『何をいまさら、私なぞ貴様の存在そのものが嫌だというのにそれに耐えて影に潜んでやってるのだ、伏して感謝しろ』
「・・・このまま地烈爆震脚撃ち込んでやろうか?」
『やってみろ、逃げ場がないほどの落雷と業火をお見舞いしてやる』
リンファが苦虫をかみつぶしたような顔をして教えられた道を進む
「教えてもらったのはこの辺なんだけど・・・どこだろう」
『芋がどうとか言っていたが、私はその説明を直接見ていたわけではないから詳細はわからんな ちゃんと人の話を聞いてたのか?貴様は』
まるで他人事の様に言うガルドに、リンファはこめかみを引きつらせる
「こ、こいつ・・・! 少しは探すの手伝ってよ」
『お断りだな 私はお尋ね者だぞ? 貴様がいらぬ騒動に巻き込まれぬように隠れてやってることに少しは感謝したらどうだ?』
そもそもここに来たのはお前の用事で巻き込まれてるのは僕じゃないか・・・と言いそうになったが
もう言ったところで言い合いが長引くだけだと思ったリンファは唇を尖らせながら言われた建物を探した
「わ、お芋がいっぱい干してある・・・! ここかな?」
『声をかけてみて違ってたら次に行けばよかろう、さっさと動け時間がもったいない』
「はいはい・・・ ごめんくださーい! 僕リンファと言います、リオ君のお宅はこちらでしょうかー?」
入り口前で大きめの声でリンファが声をかけると、一拍待ってから室内よりドタバタする音が段々と大きくなり、やがて入り口が壊れそうなほど大きな音を立てて開かれる
「り、リンファさん・・・!」
「や、やぁリオ・・・久しぶり・・・」
久しぶりの再会にリンファは少し緊張しながら声をかける
だが次の瞬間、そんな空気は即座に消え失せる
家の中から慌てるように現れたリオの顔が、明らかに憔悴している
ワナワナと肩を震わせ、目にいっぱいの涙を溜めて恐怖に震えているリオ
「・・・どうしたの? いったい何があった?」
「リンファさん・・・ルイが・・・ルイが・・・!」
その言葉にリンファはがっしりとリオの肩を掴み、その目をゆっくりと見つめる
「落ち着いて、大丈夫だから 一体何があったの?」
「ルイが・・・ルイが死んじゃう・・・! さっきまで元気だったのに!急に血を吐いて倒れちゃった!」
必死に言葉を吐き出すや否や、リオは感極まって大声で泣き出す
リンファはそんなリオの手を取って部屋の中に飛び込んだ
「ガルド!」
「ルイとかいうガキはこっちだ、急げ穢れ!」
リンファが言うよりも早くガルドは影から飛び出しルイの傍に膝をついてその顔を触る
身長100センチくらいの小さな体とは思えないほどの大量の血を吐いて、ルイは苦しそうに息をしている
リオは弟のルイが口から血を出してせき込んでいるのを見て、更に泣き出してしまった
「原因がわからんが外傷はほとんどない・・・だが治癒魔法をかけても手ごたえがない!」
ガルドはルイの状況を見て即座に治癒魔法を詠唱し回復を試みるが、その効果が感じられない
治癒の光で多少は痛みは和らいだのかルイの表情は柔らかくなったが、それでも口からはポタポタと血が流れ続けていた
「ど、どういうことだよ!?」
「この感じ・・・体内のどこかに出血箇所があるのやもしれん、だがそれがどこかわからん!」
ガルドは治癒魔法をかけ続けてダメージの箇所を探り、更に詠唱を重ねる
「魔力の流れに少し乱れがあるが、だからと言ってこんなに血を吐くことは考えられん・・・」
「流れ・・・? 僕にも見せて!」
リンファはルイの手を取り、その体の魔力の流れを視る
ルイの体に循環する魔力は徐々にその勢いを弱めていくことに焦りを感じながらもリンファは必死にその流れを読む
そしてその時、その流れに妙な違和感を感じ取った
「な、なんだろう・・・右の脇腹の奥の方に・・・ルイ君以外の魔力の塊がある気がする・・・すごくちっちゃいけど、明らかにルイ君の魔力じゃない!」
「なに・・・どういうことだ?」
その言葉を聞いたリオが何かを思い出したように目を見開いた
「ま、まさかあの時の・・・?」
「リオ、何か心当たりがあるの?」
リオは涙で詰まらせながら必死に言葉を吐き出した
「一週間くらい・・・前に・・・採掘場で・・・掘り出した魔鉱石の集積場でルイ・・・ころんじゃって脇腹にケガした・・・でも、でもちゃんとお医者さん行ったよ!治してもらったよ!もう大丈夫って!大したことないって!ああああああ」
「リオ、大丈夫だよ!落ち着こう! ・・・おうちの人はいる?」
「じ、じいちゃんは今買い物に行ってる・・・、けがが治ったから御馳走にしようって・・・」
涙の止まらないリオをリンファは優しくなでてやる
そうしながらもリンファはルイの魔力の違和感を見続け、その原因を必死に探す
「ガルド・・・これって・・・」
「恐らくだが、その怪我をした際に魔鉱石の欠片が血管か何かに侵入してどこかに刺さっているんだな・・・これは厄介だぞ」
ガルドはそういうと治癒魔法の詠唱を弱める
ルイは治癒魔法が弱まったせいか、また苦しそうにせき込みだした
ガルドの行動にリンファは思わず声を上げる!
「な、なんで治癒魔法を弱めるんだよ!」
「原因が魔鉱石なら魔法に反応するのだ、そうしたらどうなると思う・・・!」
ガルドはリンファの声に感情的にならずに、ゆっくりとリンファの目を見る
「魔鉱石なら、その魔法に反応して増幅するんじゃないの・・・?それなら傷が治るだけなんじゃ」
リンファの言葉にガルドは小さく首を振る
「それだけでは終わらないのだ 小さくとも魔鉱石だ、治癒魔法を打てばお前の言う通り増幅しその場で強力な治癒魔法に変換される・・・そうするとその傷口が過剰回復されて本来の形ではない修復になりかねない」
「そ、それってつまり・・・!?」
ガルドの深刻な顔を見てリンファは思わず息をのんだ
「血管だった場合、過剰回復で変形した傷口が血管を塞いでしまうかもしれない、そうなったらかなり危険な状態に陥る―――」




