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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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251/256

251.再び、飛翔島

「お待たせしましたよーっと…… あんまり詰めすぎても前には進めないでしょうからお茶にしましょう」


何も知らないアグライアが人数分のお茶をお盆に乗せて慎重に部屋に帰ってくると、それを三人が同時に見つめる

3人の視線を不思議に感じながらもアグライアはお茶をこぼさないように慎重に扉を閉めた



「……なんです?私の顔になんかついてますか」

「あーいや……そういうわけでもないのだけどねぇ」



3人が茫然とアグライアを見つめながら多くを語らない

アグライアはとりあえず持ってきたお茶を落としたりしないよう、まずは机に置こうとゆっくりと三人の前を横切った


「おっとっと…… おーい、リンファー!悪いのだけどお茶を配るのを手伝ってくれるかー? おーい」

アグライアが声をかけるも、それに答える声はない


そしてアグライアはさっきから3人以外の人影を見てないことに気づく

絶対にいるはずの二人が、寄りにもよってあの二人の姿がないことにアグライアは表情を強張らせ立ち尽くした


そこにおっかなびっくりとヴァレリアが近づき、言った

「ガ、ガルド君がリンファ君巻き添えにして飛翔島に行っちゃった……転移で……」

「はぁっ!?」


その言葉に反射的に振り向いたアグライアの手元からお茶がカタパルトダッシュ


「ア"ッヅィ"!!!!」


やっとの思いで掘り出したメガネもろともヴァレリアの顔面にあっつあつのお茶が降り注いだ




「ひ、飛翔島に行った……? よりにもよってリンファとガルドが……!?」

わなわなと震えるアグライアの目をファルネウスは必死に避け明後日の方向を向いた


「り、リンファーーーーー!?」

アグライアの叫びはリンファの耳には当然届かなかった――――







――――――――――――――――


「き、気持ち悪い……体中が痛い……」

リンファは人のいない7番居住区のボロボロの建物が並ぶ路地裏で座り込んでいた


「ふがいないな穢れ、魔法耐性がないのはやはり生物として致命的な欠陥があると言わざるを得んな」

「う……うるさいぞガルド……うぅ」


しゃがみこんで唸るリンファをよそにガルドは転移に使った転送陣に魔力を注ぎ込み、刻まれた魔法陣を焼き切り破壊していた


「な、なに……してるのさ……?」

「ゴブリン共が仕込んだ小型の転送陣だ、大陸中のあちらこちらにあるのでこうやって利用させてもらっているが残しておく理由もないのでな」


ガルドはそういうと魔法煙が立ち上り完全に焼け焦げた魔法陣の状態を確認してからその場に唾を吐いた


「こ、こんなところにもゴブリンの手が……」

「先日の戦争から転移術の使用は王都の力で干渉されているから大した問題ではないがな、とはいえ卓越した使い手にそんな干渉など通用しない」



さりげなく自分の力がすごいって言いたいのかな? とリンファは勘ぐったが、気分の悪さにそれどころではないので敢えて言葉にはしなかった



「私ほどの魔法の使い手となれば他者が設置した転送陣を簒奪するなど造作もないのだ」

敢えて相手にしなかったことなど知りもせずガルドは更にぐいぐい来る


「はいはいすごいすごい……そんな使い手さんなら次は耐性のない相手でもダメージを負わない転移をお願いするよ……」

そんなガルドに若干あきれながらリンファは適当な返事をした



いつまでも座り込んでいるわけにもいかないのでふらつきながらリンファは辺りの様子を見まわしていく

いくつかの建物には修繕の跡が見られるが、目に見える建物のほとんどはボロボロで人が住んでいる気配がない


「あ、ここって……」

そんな風景を改めて目にしてリンファは思い出す

かつてリーフと初めて戦い、そして負けた場所がこのあたりだった

よく見ればその建物があったとみられる場所には不自然なほどにまっさらな土地がポツンと佇んでいた


『あの時の戦いの影響だろうな……』

リンファはあの日の戦いとリーフのことを思い出し、少しだけ気分が落ち込んでいく

覚悟はしているけれど、いつかまた戦わなければいけないということが憂鬱でないかと言えば噓になる


そんな感傷に浸りかけたところにガルドの無神経な怒鳴り声が響き渡りリンファは現実に引き戻される


「というわけで飛翔島に到着したぞ穢れ! さっさとそのリオだかマオだか言う奴のところに案内しろ!」


「え?」



ガルドの要求にキョトンとした顔をしたリンファは不思議そうに小首をかしげた


「え?ではない! 一刻を争うのだ!早くしろ!」

「早くしろ!って言われてもなぁ……」


噛みつかんばかりに吠えてくるガルドを前にリンファは困った顔をして頭をポリポリとかいた


「僕、リオの家とか知らないんだけど……」


「え?」「え?」



ガルドがこれまで見せたこともないような素っ頓狂な声を上げてリンファの顔を見たまま固まる



7番居住区の路地裏に、寒々しい風が吹いた……





――――――――――――――――――――――――――――――――――――


この街の人間たちには嫌な臭いが漂っている


土も草の匂いも感じられない、出来損ないのような臭いに気分が悪くなる

屋台らしきところから漏れてくるとってつけたような食べ物であろう臭いも醜悪だ


仲間の中にはこういった臭いや食べ物を好む者もいるらしいが、私には不愉快に感じる

蜂蜜を湯に溶かせばそれだけで十分な御馳走だ、それ以上望むものなどない




溢れる人の波に身を潜めて、人の目を避けて市場を進む

どこを見ても人がいる、中には見たこともない人間らしき者も居る



警戒もせず、浮かれた顔をして歩き、物を売り、物を買い、物を食う

醜悪な人間どもめ、今すぐにでも視界に入ったすべてのものを殺してしまいたい




だが、そんなことをしている暇はない

私には調べなければいけない事がある


仲間の誰にも言わず……クイーン様にも御裁可をいただかず単独で人間の巣に潜り込んだのだ

もしこの事がクイーン様が知るところになれば、私はきっと重大な罰を負わされることになるだろう



それでも私は知らなければならない

ゴブリンの事を、自分が知ったつもりでいたゴブリンの真実をこの目で見なければならないのだ




目指すは【緑の民】とやらが棲む居住区……

場所の見当はついている、あとは慎重に進むだけだ






賑やかな声が響く活気ある天空市場

その隙間を縫うように黒いローブを身に包んだ何者かが歩く


その隙間からは緑の皮膚……そして真っ赤な瞳が見えた―――





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