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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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250/262

250.俺じゃねぇよ、緑の民だ

入室早々とんでもない爆弾発言を何気なく放ったグリフに、国の重役と危険人物が揃って血走った眼を向ける


「うわ怖ッ! な、なんだよ! オイラなんか変なこと言ったか!?」


3人のあまりの気迫にたじろぐグリフの頬のそばを何かが掠り、グリフの背後の石壁に軽快な音を立てて何かが突き刺さる


「その情報を言うまで逃がさんぞ・・・異国の小僧!」

「あぁ・・・予備のメガネが・・・」


石壁に綺麗に刺さったヴァレリアのメガネをグリフは三度見した後「ひゅっ」という声にならない悲鳴を上げる

ガルドはその手に光る鎖をジャラジャラと纏わせながらジリジリとグリフににじり寄る


一見すると常軌を逸した動きに見えたが


「本に影響が出ないように炎や水じゃなくて神聖魔法を選んであたりまだ冷静だな」


とアグライアはため息をつきながらツカツカとガルドの背中に立ち、淹れたての熱いお茶を丁寧にガルドの背骨に引っ掛けた



「うぼわぁっ! ・・・貴様! アグライア! 何をする!」

「冷静になれガルド! グリフが罠にかかった小動物みたいに怯えてるだろう!」

「私は冷静だ!至って真摯に紳士的だ!」

「その物言いが既に冷静じゃないと言ってるんだ! 宰相も領主様もその血走った目を一回落ち着かせてください、こんな状況でまともに話なんてできるわけないでしょう!」



視野のすっかり狭くなったおっさんたちをアグライアがビシッと窘める

ワナワナと口を震わせるグリフにリンファがてふてふと近づき、半笑いでそっとお茶を差し出した


「お、お疲れ様ですグリフさん・・・」

「り、リンファ! なんだこのおっさん達! 頭どっかでぶつけたんじゃねぇのか!? いかれてんぞ!」

「み、みんな疲れてるんですよ・・・きっと・・・」





ひとまず落ち着いたことにしたおっさん達は、それぞれが椅子に座っているグリフを囲んだ


「皆さん、目を伏せて距離を取ってください、これでは尋問です・・・」

「あ、あぁ・・・ごめんよ、つい」

「質問はいつでも尋問に変わるぞ・・・!」「黙れ、お前は壁とでもしゃべってろ」


全員の鼻息が落ち着いたのを見計らってわざとらしく咳ばらいをしてアグライアがチラリとグリフを見る

グリフはアグライアの促しを感じつつも話す気力をすっかり削られてしまっていた


「私はもう一回お茶を淹れて来ますから、みんなおとなしく話をしてくださいよ?」

アグライアは念押しで三人に釘を刺してから、空になったコップを持って部屋を出て行った



若干のピリピリムードを打ち破ってしゃべりしたのは、意外にもグリフだった



「んー・・・、さっさと済ませちゃいたいから言うけど、飛翔島で見たことあるよ、この文字が書かれた本」

「ひ、飛翔島ぁ!? 」

グリフの言葉に素っ頓狂な声を上げる飛翔島の一番偉い人のファルネウス

そしてそんな全身の毛を逆立たせたままのファルネウスをエタノー領で一番偉い人がジト目でにらみつけていた


「ファルネウスお前・・・」「違う違う知らん知らん聞いたことないよ私!?」


そんな二人をよそにガルドがグリフににじり寄る


「見たことがある・・・ということは貴様が読めるわけではないんだな? この文字を読める者が島にいるという認識で間違いはないか?」

落ち着きながらも声にドスを聞かせながらガルドが問いかける



「そ、そうだよ・・・オイラじゃなくて・・・その・・・」

グリフは言いかけた口をすぼめ、少し視線を上に向ける

なにやら若干言いたくなさそうな感じでグリフは「あー」だの「うーん」だの口ごもった


「貴様・・・ふざけてる場合じゃないということをその体に教えてやろうか・・・!?」

「怖っ いや怖いって! 睨みながら詠唱すんのやめてくれない!?」

「ガルド! すぐそうやって凄むのやめなよ! そんなんじゃ話せるものも話せなくなるよ!」


グリフの前に割って入ったリンファは凄むガルドを睨みつける

暫くにらみ合いをした二人だったが、やがてガルドが舌打ちをしながら引き下がった



「ごめんねグリフさん・・・せっかく来てくれたのに・・・」

「別にリンファ悪くねぇから気にすんなよ・・・おっさん達が必死ってのはよくわかったし」


申し訳なさそうにするリンファの顔を見て少しバツが悪くなったグリフが観念したように口を開く


「これ読めるのはオイラじゃねぇよ・・・リオとルイんとこにいるじいさんだ」

「リ、リオ? リオってあの・・・?」



「そうだよ、緑の民のリオだよ」




リンファはその名前を聞いて不思議な懐かしさを感じずにはいられなかった

ついこないだのはずなのに、なんだかすごく昔のようにも感じる飛翔島のリオとルイの名前に思わずリンファは笑みがこぼれてしまう



「そっかぁ・・・二人とも元気かな、なんだかんだであまり話せてないから今度お土産持って遊びに行きたいなぁ」

「行ってやれよ、喜ぶと思うぜ 次は屋台壊したりすんなよ?」

「あ、あはは・・・よくご存じで・・・」「そりゃまぁオイラも角牙の人間だからなぁ」



かつて飛翔島の天空市場にてリンファは故あって角牙の人間をひと悶着を起こし、そこの屋台をなんやかんやあって破壊した経緯がある

もちろん弁済を済ませてはいるしファルネウスなどの口添えがあったので既に問題は解決はしているが、リンファにとっては少し色々苦い思い出でもあった


そして・・・



「あぁそうか、君らと緑の民は仲悪いんだっけか」

バツの悪そうなグリフに向かってファルネウスがサラッと言ってのける


ここでは死んだ目でカビの生えた古文書の解読をするくたびれたヒゲを蓄えた猫だが、飛翔島では一番偉い立場の人間だから移民たちの関係や情報は常に把握していた

グリフたち角牙の民とゴブリンと特徴がよく似た緑の民は元々別大陸にすんでいた種族だったが、そこでの戦争が元で多くの一般市民が難民として王都に亡命してきたという過去が存在する


あれから年月は経過しているが、やはり両者には割り切れない遺恨があるのはどうしようもない事実だった


「仲悪いっていうか・・・まぁ割り切れねぇ奴は多いんじゃねえかな でもあそこの爺さんはそんなの関係なしにオイラと妹の面倒見てくれたよ」

「へぇ、そうなんだー 種族間の因縁ってのはなかなか難しいが、そういうのはいいなぁ」


困ったようなグリフとは対照的にすこぶる適当な返事をするファルネウス


「な、なんか割と返事軽くない? おいら泣いちゃうよ?」

「私としては両者の長年の感情や因縁に口を一番挟んじゃいけない立場だからな、気にはしているけどどちらにも肩入れはできんよ とはいえ言いづらいことを言わせてすまなかったなぁ」

「ま、まぁいいよ、言われてみりゃそりゃそうかって思うし」



そんな感じで少し空気が落ち着いたところに轟音が響き渡る

グリフとヴァレリアはビクッと肩を震わせてリンファは大きなため息をついた


ガルドだ


ガルドがそんな気遣いの空気であふれた空気を机ごとたたき割り再度ツカツカツカツカツカとグリフに詰め寄ったのだ


「今!貴様はこの古文書が読める人間をとうとう白状したな! 飛翔島の緑の民か! よし分かった! すぐ行くぞ! 手を出せ!早くしろ!この空間ごと削り取ってやろうか!?」

「一息ですげぇ怖いこと言うんだけどこのおっさん! ちょっと待ってくれよ!?オイラここに到着したばっかりでいきなり家に帰るのはさすがにちょっとヤダよ!休ませろよ!」

「用事がすんだらすぐにここに帰ってやるから安心しろ! 急げ! 時間がないんだ!」


転移の詠唱をこなしながら鬼のような剣幕で迫るガルドに必死に抵抗するグリフ

そんな二人にリンファが割って入り、ガルドを止めようとその手を掴んだ


「待てよガルド! それはあまりにいきなりだろ!」

「やかましい! 言っている通り時間がないと・・・!」


リンファに手を掴まれたガルドが、急にその剣幕を沈めて力を抜く

抵抗のなくなったガルドの動きにリンファは何事かとわずかにたじろいだ


「ど、どうした・・・ガルド? おーい、ガルドー?」

「・・・でよい」

「??? い、今なんて言ったガルド?」



力を抜いてうつむいていたガルドの肩が震え、その顔がゆっくりとリンファに向く

その顔は、とっても邪悪で嬉しそうな笑顔だった




「貴様もそのリオとかいう奴と顔見知りだったな! だったら貴様で十分だ! いくぞけがれええええええ」

「ええええ! ちょ!ちょっと待てガ―――」



リンファの叫びが終わるより早くガルドの詠唱が完了し二人は瞬く間に魔力の光に包まれて消え去った


一瞬の出来事に残された三人が三人とも何が起こったのか理解するのに数秒を要するほどだった


そして理解を完了させた各々がポツリと呟く

「なんというか・・・ 変なおっさんだねあの人」

「そうだねぇ・・・ 人間吹っ切れると勢いが増すんだろうねぇ・・・」

「メガネが壁から抜けないんだけど、誰か助けてくれる?」





残った三人は茫然とガルドの転移魔法により漂った輝く魔力の残滓を眺めながら茫然と立ち尽くした――――


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