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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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249/258

249.地下の大図書室へ

久々の戦場の臭い、やっぱり好きには慣れねぇよなぁ

故郷から逃げた日を思い出しちゃうんだよなぁ


鼻をさす焦げた臭いに辟易しながらグリフは顔をしかめる

リンファがあの日断罪の丘を飛び出した後、グリフはすぐに馬を駆ってリンファの後を追った


さすがのリンファでもあの道を走り続けられるわけがない、途中で拾ってやらなきゃな!と必死に手綱を握って追いかけた


だがいつまでたっても追いつく様子もなく、グリフが頭に浮かんだ疑問符でいっぱいになった頃

対面から歩いてくるボロボロで疲れ切ってはいるけど、どこか安堵した軍勢を見てグリフは全て察した


手綱を緩めゆっくりと馬を歩かせ、なんなら街道の屋台でゆっくり菓子を食べてお茶まで飲む始末

そしてその屋台の主人から話を聞いて自分の予感が当たっていた事に大きなため息をついた



飛翔島のエース(笑)のグリフが戦場に到着する前に、なんというか戦争は終了していた

それもゴブリンハーフとかいう化け物が戦場に乱入して人間を助けたという話だ



そして断罪の丘から数日して、グリフはエタノー城下町にたどり着いた



屋台で買ったエタ芋の団子をパクつきながら戦火の爪痕を眺めそぞろ歩くグリフ

街の人間がもう復旧を始めてるところにタフさを感じながら、グリフは清々しいほどの青空を見上げた



「あぁー!やっぱりリンファはすげえなぁ!」






―――――――――――――――――――――――――――――――



リンファは色々と初めての事を目の当たりにした



堅牢な石で組み作られた頑丈な地下室

湿気を逃すために常に流れる風を送る設備



そしてその地下の奥深くに作りこまれた巨大な図書室

どこを見ても本、本、本の山……


世界が全て本に変わってしまったのではないかと錯覚するほどの本が並ぶその部屋で


大の大人が半泣きになり、大の大人が切れ散らかし、大の大人が感情を無くして調べものに集中しているところをリンファは初めて見ていた





「さっさと……さっさと解読しろ! 割れ眼鏡! 貴様の頭蓋骨も割ってやろうか!?」

「め、眼鏡はさっき取り換えたよぉ……今はただの眼鏡だよぉ」

「いっそ割れてたほうが読めなくていいから楽なんじゃないか? まぁ読めないって時点で大問題なんだけどねー」




ステラが去っていってから、ガルドはすぐにヴァレリアの首根っこを掴み拘束した

ヴァレリアは最初復旧作業やらの陣頭指揮を執ったり戦後処理が忙しいから……とごねていたが



「領主さん、大丈夫っす!俺たちやれるっす!」と領民の皆さんがとても爽やかな笑顔でヴァレリアを放逐

事前にファルネウスが「この黒服の男はこの街を救った英雄の一人だ」と言ってしまったため、街の人間は心からの善意でヴァレリアに街の修復は任せとけ!と言い放ったのだ



そこに飛翔島のギルド長バルセルクなど多くの人材がファルネウスの元で街の修復に費用込みで全面協力することになったからヴァレリアにとってはたまらない

もちろん要所要所では領主の判断を仰ぐことにはなるが、当面は街の英雄を助けてあげて欲しいという結論になってしまった


「いいか!何かあったらすぐ呼べ! 瓦礫の撤去とか!お茶くみとか!とにかく必要だと感じなくてもすぐ呼べ!」

と最後まで往生際悪くヴァレリアはもがきながら地下室に消えていった



「すごいなぁ! さすがヴァレリアさん、街の事になるとすごく気合入ってるんですね」

と無邪気に感心するリンファ


「わ、私には封印の壺に最後までもがくモンスターみたいに見えたけどな……」

とアグライアは半分呆れながら呟いていた



それからこの地下図書室にまるで半ば監禁状態で解読に移ってから2日ほどたったが、当然ながら進捗は芳しいわけがない

なんせヴァレリアが領主になってから10年以上、暇を見つけたときだけとはいえ時間をかけて翻訳してきたうえでまともな解読に至っていないのだ



今さら雪隠詰めして作業させたところで劇的な進歩などするわけがない




「り、リンファ君! この単語!この単語なんて聞こえるか教えて!【ゴジャベ●※ギ==ヴァ】!」

「え、えーっと……強いて言うなら『おがくずがご飯を作ります』……?」

困り果てながら空耳を必死に言葉に直すリンファの答えにまたも半泣きになるヴァレリアと怒髪天を突くガルド



「はっはー、ゴブリンの台所にはおがくずが立つのかー! すごいなー!ヴァレリア君ー!ねー!はははー!」

もはやどういう感情なのかわからないファルネウスが読んでいる本から目を離さないままゲラゲラと笑っていた



「ご、ごめんなさい……僕がゴブリンの言葉を読めたらよかったんですけど……」

「い、いいんだよリンファ君、君は何にも悪くない! むしろ街の英雄をこんな薄暗いところに閉じ込めて申し訳ないと思ってるよ……はは……ははは……」

「手が止まっているぞ割れ眼鏡! 街の英雄様との約束を一刻も早く叶えてもらおうか!あぁん!」



笑顔を浮かべて気遣うヴァレリアにガルドの怒号が飛び散る

最初はガルドの言い方を咎めようとしたリンファだったが


『あれは僕らには救えない者だ』と言わんばかりにファルネウスがゆっくり首を振って答えた為、それ以来リンファは困った顔でそれを見ているに留めていた

とはいえ手持無沙汰なのでリンファはその辺にあった薄くて絵がたくさん載っている本をパラパラとめくる


丁寧なタッチで描かれている雪山の風景画や季節ごとの街並などをスケッチした絵を見て、リンファはキラキラと目を輝かせていた

当然その目の前ではおっさんたちが醜く言い合いながら作業をしているのは言うまではない、天国と地獄である



「み、みなさん……お茶を入れましたが……どうされますか?」

「アグライア、そのお茶は熱いか?」

「そ、そりゃ沸騰したお湯で煮出したんだから熱いに決まってるだろ」


ガルドが親指をクイっと指し示す


「コイツの背骨にかけろ、本には雫一滴零すなよ」

「できるかバカ野郎!!」


アグライアは思わず粗野に言い返し、ヴァレリアは涙目でアグライアに頭を下げた


「しかし……王都建国前から存在する書物がこんなにも残っているとはな……」

場の空気を入れ替えようとわざとらしくファルネウスが声を出す


「この地下室を見つけたときは驚いたよ、最初は入口を石で埋めた上で領主の館を建ててたんだからな……処分されないように厳重に保管していたんだろうなぁ」

「王都建国前はかなり大規模な戦争を仕掛けたらしいからな……当時の神代王が国土もろとも他国の情報はほとんど焼き払ったみたいだからからこれだけ残ってるのはすごいねぇ」


ヴァレリアが本から目を外し、ファルネウスと言葉を交わす

ここに積まれている本の全てがゴブリンの言葉で書かれた古文書ではなかったが、その書籍の量は相当なものだった

古代の言葉なので判読は難しいが、当時の歴史資料としてかなり貴重なものが揃っていた



「エタノー領だけはゴブリンの侵攻を防ぐための壁の役割があったから街を焼き払えなかったんだ、だから神代王の身内が統治することになったんだとさ」

少しでも作業の手を止めて休憩しようとヴァレリアがわざとらしく説明を入れる

こんな話はファルネウスとヴァレリアの間で何回したかわからない程の既知の内容だったが、ファルネウスは敢えてその話にわざとらしく頷いていた


「サボるな、貴様の眼鏡を私自ら直々に焼き溶かしてその肌に貼りつけてやろうか?」

「脅しがイチイチ具体性があって怖いんだよお前さん!」


そんな茶番がガルドに通用するわけもなく、二人はそそくさと解読作業に戻る


そんな時に頭上から階段を少しだけどたばたと下りて来る音が聞こえ、全員がその手を止めて視線を送った




「お、おぉ~……すげぇ オイラこんな本の束見たことがねぇ」

何者かが目に飛び込んできた風景を口を開けながら呆然と見上げて入場してくる



ずんぐりむっくりで身長はリンファより低いが体はガッチリ、どこかひょうきんな顔で頭に小さな角を生やした男……




グリフがのっそりと地下図書室にやってきた





「グ、グリフさん!」

「おー、リンファ! 元気そうだなお前!」

「はい!すごく元気です!」

「そうかそうか! ご苦労さん! あとで屋台にご飯食べに行こうぜ!」



グリフの姿を見るやいなや嬉しそうに椅子から跳び上がるリンファに、それを見てこれまた嬉しそうに笑うグリフ


そんな二人の微笑ましいやり取りを見る暇もなくヴァレリアは半泣きで書物とにらめっこをしていた

その隣ではガルドが鬼の形相で何やら詠唱を始めていた、よく見ればその手元がバチバチと火花を散らしている


「……なんかあそこの空間、上よりキナ臭えんだけど」

「は、ははは……」


大の大人が机にかじりついて半泣きになってる状況にジト目で引くグリフに、リンファは困った笑顔を浮かべた



「ファルネウス様、アンタまでこんなところに引きこもって何してんの? ルカさん心配してない?」

「ルカ君には連絡してるから心配するな、ここまで来たお前さんを歓迎してやりたいがのっぴきならない理由でそんな暇はないんだ、すまんな」

「あとでボーナスもらえるんなら何でもいいんだけどさァ……なんか大変だねぇ」



事の深刻さを全く理解していないグリフが空気も読まずにファルネウスの読んでいる本を横から盗み見る


「あ、見たことあんなこれ」

「「「はっ?」」」」


グリフがなんとはなしに言った言葉に大の大人三人が凍り付いたように固まり視線を向ける




「い、今なんていったお前さん……今はそう言う冗談をいうのはやめとけ?本当にやめとけよ」

「こんな面白くもなんともないこと冗談で言うわけないじゃん」



グリフはもう一回じっくりと古文書の字を見て再度言った





「うん、オイラこれ見たことあるよ、間違いない」



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