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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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248/257

248.私は貴方の味方

ステラの言葉に最初に反応できたのはガルドだった


「そうか……あの男ならそれくらいの事はするか、実に矮小な男よ」


神代王は自分の大事に作り上げた箱庭を壊されないためにその過ぎた力で世界のルールを都合よく捻じ曲げた

自らの世界を守る為の防衛策を貼らぬわけがないだろうとガルドは舌打ちをした



「という事はあの時戦ったシーサーペントみたいな魔獣が襲い掛かって来るかも知れないってことか……」

「あの男の卑劣さを考えればその程度では済まぬだろうな…… シーサーペントなどかわいく見えるような化け物が襲ってくると思っていいだろう」


既に魔獣と戦うことを前提とした話をし始めるリンファとガルドとは別に、アグライアは不思議そうな顔をして考えていた

そしてどうしてもわからないと言った感じでおずおずと口を開いた



「な、なぁ……少し気になるんだが」

「どうしました、アグライア」



「ステラさんにしてもそうなんだが、神代王はなんでそんな回りくどいことをしてるんだ……?」

ステラの顔を見ながらアグライアが困ったような顔をする

神代王がかつて今とは比較にならない程の強大な力で世界を改変させたというのは何となく理解できる

だが、理解できるからこそ理解できないことがアグライアにはあった



「神代王はこの世のルールを全て書き換えられたんだろ……? それならなんで全部都合がいい様に操らなかったんだろう、何て言っていいかわからないけど……」

要領を得ない疑問に、ガルドが少し苛立ちながら口を挟む


「何が言いたいアグライア、少しまとめてから喋れ……歯切れの悪い」


「私も何て言っていいかわからないんだけど、一声で空を燃やし生き物の存在を書き換えるほどの力を持った奴がなんでその神の手のひらという場所を隠すような真似をするんだ? その気になったらその場所を不可侵の聖域に変えたり、そもそも人間がそこに立ち入れないよう様な世界のルールを作ってしまえばいいじゃないか?」




アグライアはここまで言いながらも思考のまとめ方がわからず頭を抱える

それとは対照にリンファとガルドはハッとした顔をする


どんな敵が襲ってくるか、どう戦うかばかりを考えていた二人はアグライアに浮かんだ疑問を欠片ほども思いつかなかった




ステラはアグライアの言葉を聞いて何かを言おうとしたけれど、開きかけた口を迷った末に閉じる


「ステラさん、何か心当たりがあるの?」


そんな様子を不思議そうに見ていたリンファが声をかけるが、ステラはゆっくりと首を横に振った

「いえ……昔そんなことを考えたことはあったけど、その理由は思いつきませんでした」





「ただあの男を長年見てきて思ったことは、たとえどんな力を持っていてもどうしようもなく人間だった……ということでしょうか」

「どうしようもなく……人間……」


人の心などまるで持っていないような非情で傲慢な男が、どうしようもなく人間だったとステラは言う

けれどその意味がリンファにはあまり理解できなかった

ただその言葉はやけに心にひっかかり、リンファは首を捻った



「ふん、ふりかかる火の粉は全て殺してしまえばいい、大事なのはそこに至る道があるということだけだ」

ガルドが下らなさそうにため息をつく


「そ、そんな言い方……!」

リンファがガルドの言い方を咎めようとしたとき、ステラがそれを優しく制する


「ありがとう、でも貴方にはそういう敵がこれから待ち構えているということを話しておきたかった……それと」

リンファの頬を優しくステラが舐める


「私達は貴方に希望を託します、リンファ」

「僕に……希望を……?」


ステラの宝石の様な目をリンファが不思議そうに見つめる


「私達がもう諦めてしまったものに怒り、泣いてくれた貴方にこの世界の希望を託したいのです」


ステラの言葉に呼応して街を囲んでいたステラーハウル達が次々と吠え、その気配を消していく

その咆哮と共に空を覆っていた分厚い雲が消えていき、美しい青空が冴えわたっていった



「私達の仲間が貴方達の敵にならぬと誓ってくれました 故あれば助けになってくれる……と」


ステラは青い空の向こう側を遠い目をして眺める


大事な仲間同士で信じられなくなったとしても、それでもステラ達の胸にはお互いを愛さずにはいられなかった


「貴方達の力になれなくてごめんなさい、けれど私はリンファの無事をずっと祈ってますよ」

「ステラさんのお陰でアグライアさんやみんなを助けることができました、本当にありがとうございます」


ステラの言葉に精一杯のお辞儀でリンファが返すと、ステラは微笑みながらゆっくりと氷の息吹をリンファに纏わせた


「わ……すごい……! グローブが直っていく……!」

ステラの息吹に包まれたリンファのボロボロのグローブが、銀毛が編み込まれ修繕されていく

手の甲に埋め込まれた魔鉱石のまわりには美しい刺繍が彩られて、その輝きが更に彩られた


「以前よりも魔力の編み込みを増しておきました、あの時よりも更に激しい戦いをしてきたのですね……」

「うん、ステラさんの編んでくれた銀毛のお陰で何度も助けてもらったよ、ありがとう」


少しはにかみながら笑うリンファを愛おしそうに見つめると、ステラは立ち上がりゆっくりをその尻尾を振った


「私はいつでも貴方の味方です、リンファの傍に、私はいつでもいますからね……」


そういうとステラは地面を強く蹴り、空に舞うように飛んだ

銀毛が太陽に反射して美しい光がリンファに降り注ぐ



「ステラさん、行ってしまうの!?」

「いつまでも人の里には居られません、狼と人は一緒には居られないのですよ」


そんなことを言いながらステラは笑いながらリンファに向かって小さく尻尾を振って答える

そしてそのまま空に消えるように上昇し消えていった


青く広がるそらのはずなのに真っ白い雪が少しの間降り注ぐ

その雪が降っている間、リンファは大きく手を振ってステラを見送った




「ステラさん!ありがとう! 必ずまた会いに行きます!」

リンファはもう見えなくなったステラに向かって何度も何度も声を上げて手を振った





「ふん、獣風情に殊勝な事だ……化け物同士、気が合うのであろうな」


そんなリンファを横目で見ながらガルドが鼻で笑う


「そんな言い方をせずともいいだろう、ガルド! 何故わざわざ余計な言葉を付けるんだ……全く!」

「やかましいぞ、保護者面は本人の前にだけにしとけ馬鹿馬鹿しい それよりもアグライア」


ガルドが急に深刻な表情になったのを感じ、アグライアはわずかに驚いた


「な、なんだガルド? 急に険しい表情になって」



そういうやいなやガルドは何かを懐から取り出すと相手の動きも見ずにそこそこの速さでアグライアに投げつける


急に飛んできた固い何かを慌ててキャッチし、その衝撃で俄かに手先をしびれさせた

 


「お、お前……! こういう時は普通に渡せばいいだろう、こんな近距離で投げて渡す奴があるか!」

「黙れ、四の五の言わずにそれを左手に付けろ」

「大体お前は! ……なんだこれは、ブレスレット……か?」



アグライアは投げ付けられたそのブレスレットをしげしげと眺める

青い色の魔鉱石が削り出されて肌に当たる部分に申し訳程度に革細工が施されている無骨で飾りっけのないその腕輪にアグライアは小首をかしげた



「魔力を少しだけ流せ、後は勝手に展開される」

「なんだというのだ…… お、おぉ!?」



アグライアが言われるがまま魔力を注ぐと、金色に輝くカイトシールドの様な魔力で形成された大振りの盾が展開される


「よし、展開できたな 形状のイメージはある程度変形できるようにしておいた、大きさで魔力の消費量は変わるからその辺は自分で管理するんだな」


イメージに応じてバックラー、スクトゥムなどの小型から大型まで様々な形にその魔力の盾が変化させることができるそのアイテムにアグライアは驚き、ガルドに目をやる



「これを私に預けると言う事か…… 何故?」

「フン、預けるのではない、くれてやるのだ 貴様の様な愚鈍で戦闘センスの欠片もないような奴には盾の一つでもないと明日には墓の下だからな」

「き、貴様……! まぁ預かっておくよ ありがとうガルド」

「その魔鉱石は魔力を蓄積できる 残量が空になっても勝手には砕けん……魔力の補充は自分でするんだな」


礼を言うアグライアに目も合わせず、ガルドは背中を向けた


「お、おいガルド!」

「これからの戦い、来るなと言っても貴様はあの穢れについていくのであろう? ならば生き残れ 貴様が生きていればあの穢れはどこにも堕ちぬ」

「そ、それは……」



「貴様にできないことと、貴様にしかできないことを見極めろ それが穢れをきっと救うだろう」

「それは一体どういう意味だ?」


「さぁな、そんな気がするだけだ だが貴様が穢れを残して死ねば穢れは壊れるのは明らかだ……精々私が成敗するまで共々生き残るがいい」



背中を向けて歩きながらそう言うと、ガルドはツカツカとその場を離れて行った

アグライアはその腕に光る無骨なブレスレットを少し複雑な表情で撫で、リンファの元に走っていった――――――――


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