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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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242/258

242.私の神は

今こいつは私を守ると言ったのか?


動かない体でガルドはその言葉に驚いた

転生? 寄生? 私を赤子の頃から知っている?



自分が知らない何者かが自分の事を深く知っている

その顔を覗き見ようとしても指先一つすら動かない


背中から伝わる熱は仄かに熱く、温かい

そしてその手は今もなお恐怖の為か震えている


だが不思議な事に

全く持って不思議な事に、ガルドはそれを不快にも恐怖にも感じなかった





『その願いはあなたの存在と矛盾します、再設定をお願いします』

「できない、これ以外の願いを私は望まない」

『……あなただけを例外にすると言う事でよろしいですね?』



「だめ……! 例外は認めない……!」



ガルドを包む手の震えが強くなる

顔など見なくてもこの震えの正体はわかった

この手の主は恐怖している、それも強く……


それが何を意味しているのかは、光の塊の次の言葉で理解した



『その矛盾を解決する場合、貴方はこの世界の拠り所を失ってしまいます それはつまり存在の抹消……あなた方で言うところの死と同義です』



「死」という言葉を聞いてその手はビクンと震える

けれどその手は震えながら、強く言葉を返した


「わかってます、でもそうじゃないと駄目なんです……だってもし私を例外にしたらガルドちゃんの体を私が乗っ取ることになるでしょ……?」


『その通りでございます 願いを叶えた時点で転生すると言う事になりますので、その素体の主導権はアオヤマ様のものとなります』


光の塊が感情のこもっていない声で告げる言葉に、ガルドを抱きしめる手の主が猛然と声を上げる


「それじゃ駄目なの! ガルドちゃんの人生はガルドちゃんのものなの! 誰にも奪わせちゃいけないの!」


『ご再考ください、この矛盾を解消する別の願いを推奨します』



光の塊はなおも食い下がる

だが……



「管理人さんは言った!【どんなことでも】って! これ以外の願いはいらない、これ以外の望みを私は持ちたくない!」


ガルドを強く抱きしめながら、その震える声は毅然とその願いを言い放った


何者かはわからないけど、その手の主が自分を必死に守ろうとしている事は痛いほどに伝わった

けれどその守ってくれている手を握り返すことすらもできない自分の不甲斐なさを、ガルドは呪った




わずかな沈黙の後、光の塊の声がゆっくりと響く


『忌避項目の照会を完了……今回の願いは明確な忌避項目に該当しない為、転生者の願いを最優先に実行するという原則に伴い受理いたします』


その言葉と共にガルドを包んでいた手の力が抜け、まるで溶けていくかのようにその感触がなくなっていく


「お、おい!? どうした!」

「ガルドちゃん、あのね 君は強い子だよ、だから思うままに生きてね 私の事は忘れてね……ごめんね」


ガルドの体から重みが消える

その手の感触も、温もりも、存在感も消えた

ガルドに残ったのは、首筋に残る仄かな涙の冷たさだけ……




『転生者『サクラコ・アオヤマ』の願いを行使します』





その言葉と共にガルドの視界が真っ白に輝き、世界のひび割れが巻き戻されるように元の形に戻っていく

それと同時にガルドの脳が大きく揺さぶられ、立つことすら叶わずガルドは牢獄の冷たい床に倒れ伏す


どうしようもない吐き気に思わず嘔吐するガルド

だがそんな状態のガルドのことなどお構いなしに、ガルドの脳に襲い掛かるものがあった




それは改ざんされた記憶と、侵略されていた記憶の残滓

神代王の手によって好き勝手に操作されたこれまでの事がまるで津波の様にガルドに流れ込んでいく!


「うああ・・あああああ!!!」



―――――――――――――――――――――――――――


10年前のあの日、隊長の亡骸を前に立ち尽くすガルドに神代王は命令した


『ここに住んでいた親子の事は忘れろ、貴様ら神聖騎士団はゴブリンの暴動に対応するために戦い、そして多くの者が死んだ』


『この小屋には誰も立ち入れぬ、ゴブリンハーフの情報も全て破棄せよ 今後その情報が持ち込まれても記憶を改竄し、なかったこととせよ』


『ゴブリンハーフは忌むべき異形の穢れである その憎しみは決して改めてはならぬ 貴様がその憎しみの種火となれ……ガルド』



【従え】




―――――――――――――――――――――――――――


そしてあの日から10年後、神代王は再びガルドを弄ぶ


『ゴブリンハーフを殺せ、棲家の情報は過去に破棄した記憶から好きに選べ』


『ゴブリンハーフの住処を焼き払え、何も残すな 森全てを焼いても構わん』



『場所の記憶のみ開放を許す、過去何があったかについての記憶の回復は許さん』


『ゴブリンハーフはこの世界にあってはならぬ異形の化け物だ、その憎しみと殺意を消して絶やすな、憎しみ続けろ』


『この憎しみと我への忠誠心を心の最優先とせよ、邪魔するものあればけだものの如く牙を剥き殺せ、焼け、どんな手段を以てしても殺せ』




次々ガルドの脳に書き加えられる歪な信念と情動

思想すらも捻じ曲げられ、ガルドは己の心のままと信じて畜生にも劣る行いを正義とした


これまで生きていたガルドの人生で得た者、学んだもの、心の拠り所としたもの……

それらを神代王はその力で好き勝手に改竄し、簒奪し、弄んだのだ


神代王は最後に言った


『ゴブリンハーフは貴様の本心から憎み、そして殺せ 其れが成されたその時は……命を断て 全ての責は自らにあると書置きを残し、死ね』


【従え】





―――――――――――――――――――――――――――




「しん……だい……おう……! 神代王おおおおおおお!!!」

ガルドは飛び散る吐しゃ物などに構いもせず、怒りのまま叫ぶ


無我夢中で叫ぶ怒りの怒号は喉を傷め血を噴きださせる

それでもその叫びは止まらない



そしてその流れ込む記憶の端々に、見えてしまう

その命令に逆らおうと必死にか細い女の手がガルドの背中を掴んでいたことを思い出す


どんなに凶行を働こうとも、捻じ曲げられた正義を信じようとも

そのか細い腕は必死にガルドを引き留めてくれていた


だからガルドは意識の全てを失うことなく、神代王の操る獣ではなく人間でいられたのだ

辛うじて人として生きていられたのだ




神は子である人に干渉などしない

ただ見守り

ただ慈しみ

ただ嘆き、

ただ愛してくださる




ガルドは叫びながら泣いた

半身を失ったかのような喪失感と後悔に泣いた



サクラコは、自らの運命をガルドに押し付けることなく見守り続けた

ガルドの命を、人生を大事だと言ってくれた

だからこそ自らの命を干渉させず、ガルドをこれまでの人生全てを慈しみ、愛した



自分が生きるためにガルドを犠牲することを良しとしなかった

それどころか、ガルドの為にその身を投げ打った



震えながら、怯えながら、嘆きながら

それでも「ガルドちゃん」の為にその身を捨てたのだ




ガルドは泣きながら気づいてしまう


「これを……この方を自分の神と呼ばずして……何を神だというのだ!!」

ガルドの神は、ずっと傍にいてくれていたことに



失ってから気付かされてしまったのだ




「おい……管理人とやら」

ガルドは焼け付く喉から絞り出す様に声を出す


『何故…… あぁ、サクラコ・アオヤマの願いの影響か……まだ通信できるとは驚いた』


「答えろ……あの方は今どこにいる? 私の神はどこにおられるのだ」



『今も変わらず貴方の傍にいます』

「そのような都合のいい言葉はいらん!答えろ!」


曖昧な言葉にガルドが噛みつくと、管理人は姿を見せないまま淡々と答える


『事実を述べております 彼女は今も貴方の傍におられます ただもうこの世界への拠り所を無くしているため、誰にも感知することはできません』

「感知できないと……どうなるというんだ……!」




『今サクラコ・アオヤマは世界の全てから認識できなくなっています、だから彼女は何も見えません、何も聞こえません、何も触ることもできません、無の空間で自我だけが取り残されている様な状態です』




『この世界に肉体がないので物理的な死は訪れません、ですがその無の空間で彼女が考えることをやめた時……我々はそれを【死】と定義して処理する予定です』


抑揚のない、淡々とした言葉でガルドの神が死に瀕していることを管理人は告げる


ガルドは怒った

10年振りに、自分の心からの本音で怒り狂った

半狂乱になり叫び、泣いた


ガルドは怒りながら問うた


「我が神を救うための道を示せ! その為ならこんな力捨ててやる! 我が身とて必要ない!」

『その権限はあなたにはありません、願いの破棄は転生者本人のみが権限を有します』


管理人の感情のこもっていない言葉は、ガルドの神経を逆なでする

そして怒りのままに放ったその一言が、管理人をわずかに動かした





「ならば……!」

『ならば?』




「『神の手のひら』とやらについて答えろ! あのクソッタレの神代王が吐いた言葉の意味を教えろ!!!」




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