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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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241/258

241.ガルドちゃんをずっと見てた

ガルドは自分の心が底なし沼に引きずり込まれるような感覚に襲われた

足掻き溺れるのは心だけで、その体はまともに動こうとしない


天井を見上げ何度も手を伸ばそうとするが、伸ばそうとする感覚が残るだけでその視界には天井だけが映る


意識では何度も腕を動かしているのに、現実の腕は地面に貼りついたように動いてはいない



意識と自我がどんどん奈落に落ちていく感覚に恐怖を感じるが、それを表現するための言葉どころか叫び声すら出すことはできない

ガルドは冷たい牢獄の床で、静かに心を失いつつあった



「立て」

神代王が声を掛けると、動けなくなったはずのガルドがむくりと起き上がる

見た目には先ほどまでと何も変わらない顔のガルドが、表情も変えずに神代王に目を向ける


「1週間後に貴様を処刑したことにして出獄させる、それまで変わらぬ態度をとっておれ」

「仰せのままに」


ガルドの口からガルドが一切意図していない言葉が放たれる

もう喋ることも黙ることも自分の意志ではどうにもならなかった




「ふむ、上等か……、この力すらも衰えを感じずにはいられんな」

神代王は命令通りに動くようになったガルドを見届けると小さくため息をつき背中を向ける


「このままでは『神の手のひら』へ呼ばれてしまう……それだけは許容できん……!」

見知らぬ言葉を言いながら神代王が足音を響かせながら闇に消えていく


ガルドは『神の手のひら』という言葉が耳にこびりついて離れなかったが、もう指先一つもまともに動かせずに意識が完全に消え去ろうとしてた


世界が縮む、音も光もどんどんと遠く小さくなっていく

ガルドの恐怖が限界に達し、声にならない声をあげる

けれどそれは喉を通ることはなく、牢獄は静寂に包まれていた


そしてガルドの世界だけが漆黒に沈もうとしたその時





その漆黒から何者かがガルドの手を引き、強く優しく引っ張り上げた

その手は驚くほどに柔らかく、また暖かった

遠い昔幼い自分の手を引いてくれた母にも似た、不思議な感覚だった




「もう決めた……ごめんねガルドちゃん 怖かったね、辛かったね……!」

柔らかいその手はガルドの頬に触れる

そしてその頬に冷たい何かが落ちて、皮膚を伝った



世界は暗いままだったが、消えかかっていた自我が戻って来る実感がわいてくる


「お、お前は……誰……だ……?」

「うんうん、そうだね わからないよね でも私は君の事ずっと知ってるよ、ずっと一緒だったよ」


姿は見えない、ただ感触と声だけが伝わってくる

その声にはどこか愛情と、それ以上の悲しみが込められているように感じられた



「ガルドちゃん、辛かったね 私もう決めたからね……今までごめんね」

「な、なにがだ……!答えろ! 説明をしろ!」





「管理人さん! 聞こえるでしょ! 私です……転生者のアオヤマ サクラコです!」

「転生者……!?」



頬に触れるその手にわずかな力が籠り、転生者と名乗ったアオヤマという何かが大声で誰かを呼ぶ

その時、世界中からひび割れる音が響き渡る


漆黒だった視界が突如光に溢れガルドの体に急激な落下とも浮上ともいえない感覚が纏わりついてくる

空気ではない、魔力とも違う力の風が体中を包んだ



「なんだ!? なんだというのだ! 貴様はなんだ! これは何だ!言え!答えろぉぉ!」

「大丈夫……大丈夫だからね……!」


何が起きているのかわからず混乱するガルドをあやすようにアオヤマは優しく声を掛ける


そんな時、目の前に眩しくて直視することができない程の光の塊に包まれた何かが現れる

光の塊の輪郭はわずかに人の形の様にも見えるが、そうではないようにも見える


ガルドは目を開けることも事も困難なほどの光を前に、ガルドは思わず身を守る

だが体は動かず、眩しいはずなのに目を閉じることもできない


体の自由が効かないというよりも、その全てが停まっている……ガルドはそう感じて思わず恐怖した





『聞こえています、アオヤマ サクラコ様 この呼び出しがあるということは転生の手続き再開の意思表示だと考えてよろしいのですね』

突如ガルドの体中が鼓膜になったかのような爆発的な声が骨の髄まで響き渡り、そのあまりの音の衝撃に体中が軋む


「ぐあぁ!?」

あまりの衝撃に声を上げるガルドの体をかばうように、温かい腕が肩越しに抱きしめる


「やめて! ガルドちゃんが苦しんでるじゃないか!」

『これは失礼、とはいえその肉体にどのような損傷があろうと貴方が転生する時には最適化させますのでご安心ください』


最適化という言葉の瞬間、背中から抱きしめるその手に力が籠る

そしてその手はガタガタと強く震え、わずかに嗚咽にも近いすすり泣きがガルドに伝わった


「な、なんだ……どういうことなんだ……? 教えてくれ、お前は……お前らは一体なんだ!?」


『知る必要はありません、貴方は間もなく最適化されます 人間でいうところの死亡と同じ現象ですのでご安心ください』

「し、死ぬ……!? どういうことだ!? おい!」


体に響く声が告げるその言葉にガルドは狼狽する

死亡と言われた事よりも、それに脅しや冗談と言った雰囲気は欠片もなく、本当に淡々とそれをするという凄みにガルドは恐怖したのだ


「そんな事はさせない! 管理人さん……私の望みを言います ……絶対に叶えてくれるんですよね?」

震える声でアオヤマが管理人と呼ぶ何かに問いかける


『はい、転生者様の望む力をお授けいたします そう、【どんなことでも】 あなたが思い浮かび望むことであればその全てを授けることが可能です



そう言われてガルドを包む腕がビクっと跳ねる

ガルドは我が身に何が起きているのかわからない、自分の人生で考える限りこの世の物とは思えない事象が次々と繰り広げられている



「あのね、ガルドちゃん」

馴れ馴れしく自分をちゃん付けで呼ぶ、恐らくは女の声

けれどその声に不快感は不思議と感じない、どこか懐かしさも感じる

産まれてからずっと一緒だったような、むしろそれは我が身の一部の様な安心感だった



「私はね、この世界の人間じゃない……らしいの よくわからないんだけどね」

「らしい……?」


『それ以上の開示は控えていただけると幸いです 最適化前なので何を言われても影響はありませんがそれは秘匿事項となっています』


「……私はね、赤ちゃんだった貴方の体を使ってこの世界に転生するために呼ばれたんだって、何も知らないあなたの心に乗り移って人生やり直せって言われたの」



『だから…… まぁいいでしょう、冥土の土産ということにします』


光の塊の言葉を無視するように、ガルドの背中を抱く腕は話す事をやめなかった

その手は震え、恐怖で零れる涙が動くことのできないガルドの首筋に落ちた



「何も知らない、かわいい赤ん坊の君を消して私にもう一回人生やり直せっていうんだよ? お母さんの胸で眠るかわいい君は居なくなるって言われたんだよ」

「あ、赤ん坊……!? 私の故郷の人間なのか? 母の関係者か!? だが、私には……」


「うん、知ってる 君のお父さんは戦死して、お母さんは君を捨てて逃げたってことを私は知ってる ずっと見てた」

「ど……どうしてそれを……!?」



ガルドはその言葉に驚愕した

今までその話を他人にしたことはない

父が戦死したことを知る者は軍属に数人いるが、母の事は誰も知らないし話したこともない

そんなことを話し合えるような友も恋人もできたことはなかった


ガルドの人生を知る者などいないはずだったのに、それを知っていると、見てきたとその女は言った




「君はどんなにしんどくてもへこたれずに頑張って生きてきたのを、私はずっと見てきたの……優柔不断な私と違って、君は本当に強かった」

「し、知らない! 私はお前など知らない!」



「知っちゃダメだったんだ、私は君に知られちゃダメだったの 本当は君の知らない間に転生を辞退して消えなくちゃいけなかったの」


ガルドの首筋に顔が当たる

そして熱い涙が零れ落ち、嗚咽が響いた


「でも、怖くてできなかった……! 死ねなかったの、もう一回死ぬなんて……怖くてできなくて……30年以上も君の人生に寄生しちゃってた……ごめん……!」


震える声が懺悔を告げる

ガルドは動くことのできない身であったが、アオヤマが告げる言葉にもう混乱はしていなかった

その言葉の意味はわからなかったけど、不思議と納得できた

何故なら、その言葉が自分の一部が語ってくるような実感を覚えていたから




「でもね……もう許せない」

女の声が凛と響く


「一生懸命生きる君をあの男は弄んで、身勝手に操って……ガルドちゃんを踏みにじった!」

「あ、あの男……?」




ガルドの尋ねる声に、アオヤマは何も答えない

ただわずかに微笑む息づかいが伝わるのみだった




「だから君の心は私が守る、君を誰にも……何者にも踏みにじらせたりしない 管理人さん!」

『はい、貴方の望みを言ってください』



少女は言った

涙声で宣言した






「ガルドちゃんの魂を何人にも侵されない力で守って 神代王の力だろうと……私みたいな転生者からも!」



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