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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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238/256

238.武器持つ者と、武器持たぬ者達

「何故だ……何故生きている!? そこの化け物ならいざ知らず、貴様には……!」

「『貴様には命令をかけたことがある』ですかな? 神代王」


ごみでも捨てるように掴んでいたリンファの足を投げ、ガルドは神代王を見て笑う

リンファは難なく着地するも、何故ガルドが無事だったのかがわからず混乱していた



だがそのリンファ以上にその力を神代王は驚愕に打ち震えていた


虎の子で残していた絶対の力が効いていない

その相手はかつて何度もその命令の力を持って意のままに操ってきた相手だというのに


自分にとって取るに足らないモブだったはずのガルドに絶対の力が効いていないことに神代王は冷や汗を止めることができなかった



「神聖騎士団の頃には随分と貴方の力に操られましたなぁ……」

「き、貴様……何故覚えている!?」

「覚えているのではありません、思い出したのです」


神代王は腰に携えていた剣を抜きガルドに向ける

それを合図にしたかのように親衛隊が白杖の先端に刃を取り付け槍とし、同じくガルドたちに向けて構えた




作業をしていた兵士達は戸惑いながらその様子を呆然と見守る

一触即発の空気は更に緊張感を増し、ピリピリと肌を刺す


神代王とその側近たちは既に刃を抜き放ち、逆らったとみられるファルネウス達は武器も構えず悠々と腕を組み立っている

その様子に他の兵士達は目を離すことができなかった





リンファは不敵に笑うガルドの隣にゆっくりと立つ

ガルドはその様子をチラリと見ると、わずかに笑い声を漏らした


「寄るな、この異形の穢れが……フハハ」

「その不愉快な物言いが聞けなくなるかと思って心配したよ、余計なお世話だったけど」



ガルドは手に持った杖を構えようとはせず、肩に担ぎ憮然と神代王を睨む

神代王はワナワナと震えながら右手で剣を突き出しながら左手で炎の魔法の詠唱を重ねる

親衛隊はそんな神代王を援護するように、槍の穂先に電撃を纏わせて槍衾を展開して鋭い視線で構えていた



「ガルド……わかってると思うけど」

「ふん、貴様の考えていることがわからぬ私だと思っているのか?」



ガルドはため息をつきながら自らの杖を投げ捨てると、ゆっくりとその手を開く

その手には詠唱の予兆すらなく、少しだけ皺の入ったゴツゴツとした手がはっきりと見えていた



「だからさっきの蹴り足も掴んでやったのだ、感謝するのだな」

「あ、あれは! しょうがないだろ……危ないと思ったんだから……!」



国の最高権力者が刃を抜き放ち殺意を向けているというのに二人にまるで緊張感はなく、それがさらに神代王を苛立たせる



「貴様等……誰を前にしているのかわかっておるのか!?」

神代王がたまりかねて声を上げるが、二人の態度は何も変わらない



「大叔父こそ、この状況が見えておられるのか?」

怒りに燃えるエタノーの兵士を手で制しながら、ヴァレリアが口を開く


「なんだと……?」

「落ち着いて周りをご覧になるがよかろう」


神代王は怒りに震えながら、周りを見渡す


武器と魔法を構えた自分と、槍衾にて構える側近たち

その様子を固唾を飲んで見守るマンダリアンとその兵士達



そして……目の前のリンファたち

リンファ、ガルド、ファルネウス、ヴァレリア、そしてその配下の一兵卒に至るまで



誰一人武器を抜かず、構えてすらいなかった



ファルネウスが未だに膝をついたままのマンダリアンに話しかける


「マンダリアン殿?見えますよな?」

「……あぁ」


「何?聞こえないよハゲ!」

「誰がハゲだこの毛玉が!……言わずともこの状況はこのマンダリアン、しかと見届けている」






武器を構え、殺意をむき出しにする神代王

それに相対するリンファ達は誰一人として戦闘の意志を示してはいなかった



「こ、こやつら……!」

「神代王、我々はあくまでも一臣下としてリンファ君への処刑、処罰などその一切について反対し、拒否いたします」

ファルネウスとヴァレリアがリンファ達に並び、神代王の前に立ちはだかる


「大叔父、臣下の心からの訴えを聞かぬばかりかその剣を抜くのは……王として正しい振舞いですか」

ヴァレリアが神代王を睨む

もうその目に強大な力に怯える心は微塵もなかった


「我々は命を懸けてこの街を救ってくれたこの子を救わねばなりません、そう……命を懸けて!」

その言葉にエタノーの兵士がリンファ達の後方にズラリと整列する

みな先ほどまでの戦いで満身創痍……痛々しい傷から血を滲ませ、骨すら折れている者もいるというのに、誰もが真剣なまなざしで整然と背筋を正していた



「正義や道義で語るのならば武器を納めて我々に説いてください、その力を示すというならまず私からお斬りになるがよかろう」

ヴァレリアがその槍衾の前に立ち、神代王に言ってのける



「だがもし戦端を貴方が開いたのであれば、そこからはもう刃を交わす以外に決着はありません」


武器を持つ者がわずかにたじろぎ、武器を持たぬものが圧をかける


「そしてこの結果を国がどう判断するか、それをお考えください……大叔父!」


「ぐ、ぐぬぬ……!」

神代王が苦渋で顔を歪める



「きええええええ!!」

その時、神代王の後方から奇声があがりその場にいる全員の注目が集まる


先ほどまで地面を舐めるように平伏していたミアズマが突如立ち上がり、涎を垂らしながらどす黒い瘴気を発しながら相手の命を刈り取る術……呪殺を詠唱!


「ゴチャゴチャとうるさぁい! とにかくその化け物が死ねばいいんだ! しねぇぇぇぇぇ!」

「や、止めぬか! 誰か奴を止めろぉぉ!」




神代王が目を見開き叫び、側近の親衛隊たちが慌ててそれを止めようとするが槍襖の展開が災いして間に合わない!


「死ねぇェェ!ゴブリンハーフぅぅぅ!」


どす黒い呪殺の力が撃ち放たれると同時にミアズマが親衛隊に制圧される

だがその殺意に満ちた魔力は鋭い刃の様に一直線にリンファに迫った



「セイクリッド!チェーン!」



リンファに呪殺が突き刺さる寸前に聖なる鎖が交差してその黒き刃を粉々に砕く

それと同時にアグライアがリンファの肩に腕を回し、かばう様にその身を繰り出した



「ふん、アグライアか・・異形の穢れがミアズマ如きの魔法で死ぬわけもなかろうにご苦労な事だ」

「黙れガルド!……大丈夫か?リンファ」

「だ、大丈夫です!ありがとうございます」



どす黒い瘴気の残滓が、青い空に消えていく


神代王はミアズマに怒りの視線を向けた後、ゆっくりとその視線を戻す

リンファ達の目が、神代王に注がれている


武器を構えず、手にすらせず

それでも鋭い視線はまるで研ぎ澄まされた刃の様に神代王に突き刺さっていた



「戦端は……開かれてしまいましたな」

ヴァレリアが半眼で睨み呟く



「く……っ!」

神代王はその苦境に眉をひそめ歯を食いしばった






「さぁ、神代王の御心は如何に……!」

ファルネウスが神代王に強く問いかけた――――




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