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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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237/256

237.盤石が脅かされていく

ファルネウスの言葉に神代王は何も語らない、だがその胸中は驚愕に震えていた


どこで間違えたのか?どこが分岐点だったのか?

退屈なほどに盤石だったはずの自らの地位が、権威が、その暴力が揺らごうとしている事に震えずにはいられない



神代王は自らの汗ばんだ手を握っては開く

これまであらゆる局面を乗り切ってきた・・・いや、ひっくり返した絶対の命令の力はまだ回復していない

かつては大河の如く溢れていた最強の力は気が遠くなるほどの年月を経た今、バケツ一杯分の力しか満たず、日に数度の力しか使えなくなった


この地にて授かったその力は人の心どころかその命の因果にも干渉できた

人だけではない、森羅万象全ての存在に干渉し生きとし生ける全ての存在を作り変えてきた



魚を空飛ぶ生き物に変えることもできた

伝説の王龍を心から屈服させることも容易かった

人に関わる種族を獣に陥れることなど造作もなかった


だが今その力の多くは失われ、自らが大事に守り育んできたはずの箱庭のペットが牙を向こうとしている


それをひっくり返すための絶対の力は・・・今や・・・




神代王は目の前のファルネウスが怖いのではない


全てが盤石で全てが思い通りだったはずの自分の世界が崩れるかもしれない、そういう不安に神代王は震えていたのだ





「我があの化け物を作った・・・? 何を言っている 妄言を吐きすぎて気でも触れたか!」

神代王がファルネウスに向けてドスの利いた声を放つ


これまでの神代王の苛烈な処刑とその力を間近で見てきたファルネウスは肝を掴まれる思いだったが、それを必死に顔に出さないように歯を食いしばる

わずかに膨れた尻尾に気取れられぬように、ファルネウスはその懐からある布を取り出した



「ファルネウス、あったのか」

「あぁ・・・見つけたのは私ではないがな」


ヴァレリアはファルネウスが手にした布切れに触れて、わずかに声を上げる


「お前の予想が当たったな・・・」

ヴァレリアの言葉に困ったように微笑むとファルネウスは神代王を睨みつける

そしてその布を無造作に投げつけた



「神代王、これが貴方のしでかした所業の結末です」

「な・・・に・・・!?」



神代王は投げ付けられた布を思わず手に取る

どす黒い赤と緑の血が付着したそのゴワゴワの布切れが魔力を放つ


リンファが大事に持っていたあの形見と同じ柄の布が、血に刻まれた呪いの言葉を吐き出した




『この言葉に触れた者に告げる 私はミリア=オルネスト かつて神代王の命令であの化け物を産まされた上に育てることを命令された人間の女だったものだ』


恨みと憎しみだけで紡がれているような呪いの様な言葉が神代王に襲い掛かる


『あの日、数万のゴブリンを呼んだのは私だ ゴブリンに対し神代王の力と同じ力を持つに至った』


言葉だけのはずなのに、ミリアの顔が視界に浮かぶ

憎しみに顔を歪ませ、赤い涙を流し、血の泡を口から零し叫ぶ女のにじみ出るような恨みの言葉に神代王は目を見開いた



『私は憎む、私の人生をたやすく踏みにじった神代王を憎む、私の人生を狂わせたゴブリンを憎む、私を蔑み石を投げた全ての人間を憎む、そして何より我が腹から生まれ落ちた化け物を憎む!』


憎しみの言葉がまるで見えない手を生やし、神代王の首を締め上げるようにまとわりつく

その憎しみの声に神代王は思わず顔を歪ませた



『私はこれよりこの国に住まう全ての人間を滅ぼす敵となる、憎い全ての者を屍の山とする為にはなんだってしよう、我が身を化外に堕とすことも厭いはしない』



地の底からその叫びが聞こえる

それはもう、人間の声ではなかった





『私は化け物の王・・・ゴブリンクイーンとなり、この国の全てを腐らせて滅ぼしてくれる』




神代王はその言葉終わるか否やと言ったところで感情のままその布を炎で焼き払う

血染めの布は瞬く間に灰となり、風にまかれて空に消えていった



「あの女・・・! こんなものを残して・・・!」



神代王が肩を震わせながら唾を吐き捨てる



「その口ぶり・・・やはり大叔父はゴブリンクイーンの正体がわかっておられたのですな」

怒りと憔悴に震える神代王に、ヴァレリアが話しかける


ヴァレリアはファルネウスからリンファの形見の話を聞くまで、想像もしていなかった


だが思えば10年前のあの日の大量のゴブリンとゴブリンクイーンが台頭してきた時期はあまりに近い

何故ゴブリンが突如として巨大な群れと化し、人間を繁殖以外の目的で襲うようになったのか?



だがその話を聞いてからヴァレリアには確信にも近い疑念が思い浮かんだ

それは血がつながっていたからか、それともその力にわずかでも触れてきた者の直感か


『ゴブリンクイーンの力にある神代王の存在』をヴァレリアは感じたのだ



それから二人はその証拠となるものを探し続けた

そして今、それを神代王に突きつけるに至ったのだ






「あなたは10年前のゴブリン事件以来ずっと放置していたゴブリンハーフ・・・リンファの討伐を突如として神聖騎士団に命じた」


ファルネウスの問う言葉に神代王は何も答えようとしない

だがファルネウスはお構いなしにしゃべり続ける


「それはあの日死んだと思っていたミリア・・・リンファの母親がゴブリンクイーンとして生きていたことに気付いたからではありませんか?」



神代王の手がわずかに動く


ファルネウスは気づかなかった

神代王のその手がほのかに光っていることに、気づくことができなかった


「あの日の本当の目的はリンファ君の排除ではない・・・かつてあの親子が過ごしたあの家を焼き払い自らの凶行を隠そうとした・・・違いますか!」




神代王の手の光が強くなる


「だ、ダメだ! ファルネウスさん逃げて!」

誰よりも早くそれに気づいたリンファが、爆ぜるように大地を蹴って駆け寄る!


だがリンファよりも速く、神代王の光る手は無情にもそこにたどり着く


神代王は残していた

いざという時、その局面をひっくり返すための力をまるで宝石の様にその身に隠していたのだ


残された力で始末できる相手はわずか一人

それを誰にするかずっと神代王は考えていた


だが、もはやそんなことを考える余地もない

自らの安寧を乱す目の前の不埒な輩を、とにかく始末せずにはいられなかった!



神代王はその怒りのままに掴んだその手の感触に思わず笑顔を漏らす

そしてこれまでたくさんの敵を始末してきた絶対の力を込める!



神代王は笑いながら目を上げた

自分を脅かす存在が死に至るその瞬間を見届けるために



だがその瞬間、その笑顔はひきつるように困惑に変わった



「どうした? 顔が引き攣っておられるぞ・・・神代王」


ヴァレリアの影から這いずるように現れたその男が、ファルネウスをかばうように神代王の手を取り不敵に笑う




「貴様・・・一度ならず二度までも我を愚弄するか・・・よかろう!」


先ほど魔力を簒奪されるという屈辱を与えてきたその男に怒りを込める


もうこうなれば誰だっていい、この溜飲が下げられるなら何でもいいと言わんばかりにその力を解き放った!


「【不敬である】! 貴様から殺してくれるわぁー!」


神代王の絶対の命令・・・命すら容易く奪うその力が炸裂する!



「さ、させるかぁーー!」

リンファが射られた矢の様に神代王に飛び掛かるが、その手の光は更に勢いを増す


「間に合うものかよ・・・死ねぇ!」


リンファの蹴りが神代王に届く寸前、絶対の力がその男に注ぎ込まれる



だが次の瞬間、リンファの蹴りが何者かに掴まれる


「ばかな・・・!」

そしてそれを見て神代王は小さく絶望の声を上げた





「私に当たったらどうするのだ その汚い脚を今すぐどけろ・・・穢れ」

「な、何で、お前・・・?」


リンファはその蹴り足を掴んだ男を見て驚く

何故なら、その男は本当なら死んでいるはずだったから



「貴様、なぜ生きている・・・ ガルドォ!」


神代王は思わず金切り声で叫ぶ

絶対の力を注がれたはずのガルドは涼しい顔でリンファの蹴りを悠々と掴み止めていた――――



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