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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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235/257

235.処刑に反対する

「今なんと言った」

神代王が短く重い言葉で聞き返した

この言葉の直後に命を落としたものを何人もヴァレリアは知っている


それでもヴァレリアは作り笑いを崩さずにもう一度同じ答えを口にした


「大叔父、お疲れで耳が遠くなられましたかな? お断りだと申したのです」


広場に緊張が走る

他の部隊の兵士達はその空気に作業をやめ、その場に膝をつき顔を伏せていた

神代王の怒りの炎が自分に飛んでくれば命がない、そう思って必死にその場に平伏した



その場の序列で言えば神代王の次に権力を持っているであろうマンダリアンですら目を伏せその場に立ち尽くす

そんな中でヴァレリアは不遜に笑いながら神代王に真っ向から反論したのだ




「大叔父、あの子が何をしたかご存じですか?」

神代王の真っ黒な目がヴァレリアを睨みつけるが、その口は止まらない



「敵陣営に単身乗り込み敵兵力を無力したばかりか、この街を焼き尽くすほどの強大な炎に自らを盾にして守りました その炎がそのまま進行していれば街どころか私も兵士も、大叔父ですらただでは済まなかったかも知れませんな」


その言葉に神代王の眉がピクリと動く




「それどころか敵の奸計で不浄の地になりかけたあの山々をリンファ君とアグライア殿は文字通り命を懸けて浄化してくれた、我々はこともあろうに敵が穢した大地を利用して死者を操って戦っていたにもかかわらず!」


ヴァレリアは叫ぶように声を張る、その手はわずかに震えているが、その口は止まらない



「神の恩恵にて行かされてる我々が! 穢れた大地を悲しむどころかそれを利用して神の子たる人の亡骸を弄び! 戦争以下の愚行をしていた時に!この子達は命を懸けてそれを救ったのです!」


神代王が怒りの空気をまき散らしながら玉座から立ち上がろうとしたとき、ヴァレリアはそれに怯むことなく王の元に足を進める!

親衛隊がヴァレリアの動きに白杖をガシャリと鳴らした瞬間、ヴァレリアの後ろの兵士達が一斉に顔を上げて親衛隊を睨みつけた!



「我々はあの子に何をしましたか!? 唾を吐き石を投げ、暗く狭い牢獄に閉じ込め目の前で絞首台を作り上げさらし者にして、縁者も殺すと脅し、見世物の様に殺そうとしたのです!」


神代王はその漆黒の瞳を大きく見開き、ヴァレリアを睨みつける、それはもう人間の目にはとても見えぬほど狂暴で不気味な相貌だった

だがその目に、人間らしい揺れる目でヴァレリアは睨み返した





「どちらが化け物か! どちらが外道か! どちらが人間らしいのか! 我らが神ルミナスにお聞きになればよろしかろう!」






気が付けばヴァレリアは神代王の目の前に立ち、同じ目線で神代王を睨みつけていた

神代王の目はもはや感情を感じられない、足元に這いずる薄汚い虫でも見るような顔でヴァレリアを見ていた



「ヴァレリア、貴様……我に弓を引こうというのか」


その一言で空気が恐ろしいほどに張り詰める

立った今血みどろの戦争が終わったばかりだというのに、血と煙の匂いが濃くなっていく気すらした



マンダリアンは思わず息を呑み、顔を上げる

だが口を挟めば更に泥沼になるだろうことは目に見えていて、何も言う事はできなかった




「大叔父、これが何故に反逆と取られるのですかな?」

ヴァレリアはわざとらしく表情を崩し不敵に笑う



「このエタノー領、並びに王都に多大な功績をもたらした戦士を賞するならともかく、罰するなどまっぴらごめんだと申しておるのです それだけでございます」



ヴァレリアが不意に神代王の手を取り、自らの首を掴ませる

親衛隊がヴァレリアを即座に囲み、エタノーの兵士が立ち上がる


一触即発の空気の中、ヴァレリアが神代王の手を強く掴んだまま言い放った



「大叔父、いや神代王! 我が首をかけてあの子とアグライア殿を処罰することに反対いたします それでも命を狙うならまずは私を殺すがよかろう!」


神代王がその目を見開きながら掴まされたヴァレリアの首に力を込める

だがその時、神代王の目は捉える



リンファが怒りに震え、わずかに大地を震わせながら構えていた

その目は青く燃え、その構えは張り詰めた弓の様にしなやかで鋭い



神代王がこの手を強く絞めるより、それどころか絶対の命令で命を奪うより早くリンファの拳は神代王の顔面を貫き砕くだろう

たとえその一撃で人間全てに追われ、数万の兵と戦うことになってもあの化け物はその拳を振るう

それが容易に想像できた神代王は、自らのプライドと保身に揺らぎながらヴァレリアを睨みつけたままとなっていた




「あんまりかっこつけないでよヴァレちゃん そういうのやるときは一緒にやるっていつも言ってたじゃないのぉ」


一触即発の空気を敢えて一切読まない声が響き、全員がその方向を向く



そこには泥と煙で汚れた自慢の毛並みを手で払いながら緊張感なく歩いてくる猫の姿をした者……ファルネウスが立っていた



「はは、ヴァレちゃんとかいうなこの毛玉野郎 あと遅いよ」

「わー、まじめに仕事してただけなのにこの言われよう」



軽口を叩きあう二人を前に、神代王は何も語らない


そしてファルネウスは当たり前のようにヴァレリアの後ろに立ち、その軽口を開いた



「ヴァレリア、あんなもの背もたれに置いてたら腰悪くするぞ、次からはもっと考えなよ?」

「そうかぁそれが原因で腰痛になってたのか、次から気を付けるとしよう」


二人はわざとらしく会話を交わし、ヘラヘラと笑う

表情を変えなかった神代王が、二人に感じた違和感にピクリと反応した



ファルネウスが回りの兵士に聞こえないように小声で何げなく呟く


「『城門の入り口の障壁を内側から半壊させた、外からやって来るゴブリンが侵入しやすいようにな』……でしたか?」

その言葉に神代王の目がわずかに見開く


ヴァレリアは半目で口元をゆるませると、ファルネウスは更に言葉を重ねる


「なるほどなるほど、『お前が障壁を張ってわずかばかりの兵を残したおかげで、あのゴブリン共を誘い込む餌場にすることができた』ですか これは恐ろしい!こんなことを言ってる奴は王都始まって以来の裏切り者ですねぇ」



最初は何を言っているかわからなかったマンダリアンだったが、それらの言葉が神代王の言葉だと勘づき目を見開く



「……どういうことだ」

神代王が目線を変えずに二人を睨む



「神代王の配下たる者、『治に居て乱を忘れず』に心がけておりましてね 策謀などで神代王の信頼を損なわぬ様にこうやって常に記録を残せるように研究を重ねておりました」


そういうとファルネウスは手元に小さな箱の様なものを取り出し、神代王に見せつける

そののぞき穴からは魔鉱石がわずかに輝き、その箱からはわずかな羽音の様な音が漏れていた



「飛翔島で開発途中の蓄音機でございます、まだ調整が難しく実験の域をでておりませんでしたがさすがに数日の記録は鮮明に残っておりました」

「それさぁ、うるさいんだよね 一人で執務作業やってるときずーっと虫が鳴くような音がするから耳障りなんだよ、どうにかしろよ毛玉」

「わー、自分で作れって言っといて注文が多い―」




神代王の目が怒りと屈辱に震える

二人はその視線に気づかないふりをして神代王を見つめていた


「……盗聴器か、ふざけた真似を」


神代王が漏らしたトウチョウキなど言う言葉に聞き覚えがなく、二人はわずかに眉をひそめる

当の本人は怒りに我を忘れているのか、その言葉を言ったことなど気づきもしていなかった



ただ不愉快で屈辱で心はいっぱいだった

自分に逆らう小物が徒党を組んで歯向かってきていることが、神代王はただただ不快だったのだ



そんな中、ファルネウスが当然のように言った


「ほとんどヴァレリアが言いたいことを言ってしまったのでなんともかっこ悪いのですが、天空宰相である私もエタノー領主と同じくあの子とアグライアを処刑することに強く反対させていただきます」


神代王が思わず歯を食いしばる

そしてそんな神代王に、ファルネウスは言った



「こんな失言、貴方のお立場なら大した危機にもなりますまいが……」



ファルネウスの瞳孔がわずかに開く







「貴方の言葉には、これ以上に聞き捨てならない言葉がありました」





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