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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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234/282

234.瓦礫に王が座る

『身内ながら滑稽なものだ』

ヴァレリアは街に掲げられた大小様々な旗印を見てため息をついた



割れた窓、砕けた壁、焼けた柱、ひび割れた石畳……

それら戦火の爪痕に、まるで派手なペンキでも塗ってごまかすかのように豪華な旗がたなびいている

まるで片付けのできてない部屋のゴミに布でもかけて隠しているつもりになっている子供の様でなんともみっともない



ヴァレリアは頭を抱えながら歩く最中、チラリと後ろについてくるリンファに目をやる

リンファは少し目を潜ませながら街の様子をみていた

そして時折哀しそうなため息を浮かべ、目を伏せる


「一番の立役者が戦いの惨状に心を痛め、王は呑気に旗を上げるか……全く……」


そんな独り言を言いながらヴァレリア達は俄かに活気づく街の広場に足を進めた









急ごしらえで作られた人を見下ろせる程度の高さの玉座に座り、神代王はいつもの仏頂面で兵士を見下ろしていた

陣幕すらまだ張っている最中のその広場に憮然と座り不機嫌そうな神代王は、まさに暴君という風体に感じられた

多くの兵士がガルドの簒奪魔法の影響でまだふらついている中、一番簒奪されたはずの神代王がさして影響もなさそうな顔で座っている辺りはさすがという感じがしないでもない




ヴァレリア達が広場にたどり着いた時、そんな疲弊していたはずの兵士達の空気が一変する

さっきまで徒労と倦怠感に包まれていたはずの兵士がリンファを見て緊張感を漂わせ、不自然なほどにリンファ達から視線を外そうと逃げるように作業に没頭しはじめた



そんな兵士の空気など気にしないふりをしてヴァレリア達数十人はズカズカと広場の中央に足を進める

神代王はそんな面々に気付きながら顔色一つ変えず、肘杖をつきながらリンファ達にするどい視線を浴びせてきた



神代王の傍でマンダリアンが直立し、神代王の席の後ろで呪殺士たちが膝をついて頭を垂れる

呪殺士の集団の一番端でボロボロのミアズマが地面でも舐めてるのかと言わんばかりに頭を伏せているのがひときわ悪目立ちしていた



ヴァレリアが先頭に立ち、膝をつき、それに合わせるように他の兵士達も併せて膝をつく

リンファとアグライアは兵士達が隠すように列の後方に回し、ひときわ大きいものが壁になって神代王から見えないようにした



「神代王、エタノー領ヴァレリア、並びにエタノー領兵、帰還いたしました」

「大儀であった」


命からがら生き残った自国の兵の帰還を一言ですまし神代王は口を閉ざす


「労いのお言葉、光栄の至り」

うるせぇ、光栄じゃねぇよ

ヴァレリアは心中にて毒づく



「ヴァレリア殿、ご苦労であった 此度のエタノー領の働き、魔法陸戦団として心より礼を言う」

マンダリアンがそんな空気を察したかのように深々と頭を下げる


毛髪一本すら見えないその頭皮が太陽を反射して眩しく輝くが、よく見ればその頭にはいくつもの傷が残っていた

ヴァレリアは『まぶしいんだよハゲ』と思いつつも、マンダリアンもまた苦労していたことを思って素直に頭を下げ返した


「お褒めのお言葉、感謝いたします ……そういえばファルネウスはどうされましたか?」

「あぁ、ファルネウス卿は街の損害状況の確認に走っておる 勤勉な奴よ」

「猫だからですかね? 相変わらず落ち着きがない」

「はっはっは、違いないな」




ヴァレリアとマンダリアンはそんな軽口を叩き笑い、その空気に兵士達もつられて笑う

リンファもその空気に少しだけ頬を緩めて笑っていると、アグライアの意識が戻りつつあることに気付いてその頭を支え直した




「口を閉ざせ」


そんな空気を打ち消すように神代王がポツリと呟き全員が水を打ったかのように静かになる


全員がさっきまでの空気をなかったことにするように口を閉ざし、目を伏せ地面を見つめる

だが兵士の多くはその意識を列の後ろ……リンファ達に向ける

リンファの前にいる者はリンファを列の隙間に囲み、守るようにその体を寄せ合った


リンファは兵士の優しさに感謝しながら、神代王の見下ろしてくる冷たい視線を見つめていた



「此度の戦い、我らの勝利である」

神代王が呟くが、兵士は頭を垂れたまま口を閉ざす……歓喜の叫びすらなく、全員が平伏したまま


誰もが勝ったなど露ほどにも思っていなかったし、こんな物が勝利であってたまるものかと感じていた

建物のほとんどは全壊こそしなかったものの復旧が困難なほどに傷つき、日常生活をまともに遅れない程に街は損害を受けた


兵士の多くは帰らぬ人となり、その亡骸の多くはあの山々の雪に今も冷たく眠っている

雪解けとなれば多少の回収はできるだろうが、敵本拠地の目の前である以上回収は明らかに困難……その多くの亡骸は家に帰ることすらできないだろう




ゴブリン達に与えた損害と人間の被った損害を比べれば、明らかに人間の損害が大きい

結局のところ、一方的にやられ続けた結果、ゴブリンが撤退したに過ぎない

それも神代王を始めとした人間達の力ではなく、人間達が嫌悪してきたゴブリンハーフという化け物のお陰で、だ



こんなものが勝利でないことはだれの目にも明らかであった


そんな気持ちを悟られぬように、だが納得など微塵もせずにエタノーの兵士は頭を下げ続ける


神代王もどこかそんな考えを感じ取っていたのか、兵士達の姿に大きな反応は示さなかった





「戦いが終わった以上、すべきことをここで果たす」

そういうと神代王はヴァレリアに目を向けた



「ヴァレリア、兵達に下知せよ 『この広場の瓦礫を全て撤去し、資材を整えよ』と」

「瓦礫の撤去はともかく資材……ですか? 一体どのような資材を用意せよと?」


ヴァレリアは尋ね返しながらその拳を握る

神代王が何を考え、何をさせようとしているのかわかっていたからだ




「知れたこと……断罪の丘まで戻るまでもない」

神代王が目を開き眉を上げる

それには嘲笑も愉悦もなく、ただ憤怒に満ちた空気が込められていた





「その異形の化け物、ゴブリンハーフとその仲間である人間の裏切り者をまとめて吊るすのだ」


神代王は何の迷いもなく、そして性懲りもなく言い放つ

ここに来てまだ、リンファを殺せとヴァレリアに命じた


しかも今度はリンファだけではなくアグライアも一緒に吊るせと言い放った


その言葉にリンファの眼が怒りに燃え、肩に力が入る

だがその瞬間、周りの屈強な兵士達がその身を優しく押さえて神代王の視線からリンファを守るように盾となる


その空気にリンファは思わず「あっ……」と小さく声を上げた





皆、怒っていた

表情は変えなかったけど、リンファはその空気を感じ取って思わず小さな声を上げてしまったのだ






ヴァレリアがその命令を聞いて、わずかに押し黙る

神代王の命令は絶対

神代王の言葉は文字通り神の言葉


神代王の前に議論はいらぬ、考えもいらぬ

白い物を黒と言われたのなら黒く塗るのが当然だった



ヴァレリアはそれを理解して、ゆっくりと頭を上げる



そして神代王の目を見てハッキリと言った




「お断ります、大叔父 これ以上我が領地の恩人を愚弄することは容認できませんな」




神代王に向けて、はっきりとその命令を拒絶した

何故なら誰よりも一番怒っていたのはヴァレリアだったからだ


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