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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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233/296

233.戦いは終わった

「撤退は順調に進んでいますか?」

担がれた玉座に揺られながらクイーンは自らの手の爪を眺め、さして興味もなさそうに尋ねた


「はい……全軍移動し続けております、人間の追撃も今のところ確認できません」

リーフはそんなクイーンの傍で視線を伏せ、力なく答えた


全軍撤退はできた、追手もいない

確かにそれはそうだった


けれど……



「どのくらい減りましたか?」

クイーンは事も無げに、リーフが一番口にしたくないことを聞いた

リーフはその質問にわずかに言葉を詰まらせ、やがて覚悟を決めた


「……300名程度、犠牲になっている可能性があります」

「そうですか、思ったより少なくて何よりです」


この300名は戦死ではない

クイーンが背中から放った炎に呑まれ、蒸発して死んだ数だ


仲間の為、未来の為、そしてなによりクイーンの為にと武器を取ったゴブリンは

よりにもよってそのクイーンに突然撃たれて死んだのだ


死の間際、それがクイーンの仕業であることに気付いていないことをリーフは心から願った


もし気づいてしまっていたら……これほど残酷なことはない



「戦闘による頭数の減少を考えると……補充するには半年くらいですか」

そんなリーフの思いなど知りもせず、クイーンは淡々とゴブリンの損失を粗く計算しながら頬に手を当てた


「命鉱石も大半使い切ってしまったし、数か月は増産に努めましょう」

「め、命鉱石を使い切った……?」


その言葉にリーフは我が耳を疑う

この戦いでどれほどの仲間の命が失われたのか、もはやリーフは想像もできなかった


「ゴブリンの数を増やす為のガラス容器が足りませんね……ゴブリンと違ってガラス容器は増やしにくくて困る」

「い、今なんと……!?」

「減るのは構わないが、無駄に減られてはたまりませんね ガラス容器は貴重だというのに……全く……」


思わずその目を向けるリーフに一瞥もくれず、ゴブリンの群れをつまらなさそうにクイーンは見つめていた

クイーンのその横顔はあまりに無機質で、あまりに無感情


自分の為に命を捨てた者のことなど既に忘れているかのようにクイーンは小さくあくびをした



「……人間達の被害も甚大、決して仲間の死は無駄ではないかと……」

「対して被害は出ていないでしょうね、神代王も無事でしょう」


仲間の死を価値あるものだったと主張しようとするリーフの言葉をクイーンは斬り捨てる


「あのような派手なだけで鈍重で指向性の低い魔法、低地に逃げれば被害はない……せいぜい街を消し炭にする程度が関の山です」

「そ、そんな……! クイーン様はそれを知っていて……!?」


「あんな攻撃で殲滅ができるなら人間など敵にはなりません、当たり前ではないですか」


クイーンは……わかっていた……!

あの攻撃に大した効果が望めないことを

わかっていて大量の命鉱石を消費して、味方を後ろから撃った……!



「そもそも、もうあの魔法は消滅しています どうやら人間達にもそれなりの魔法の使い手がいるようですね」

「で、では……では何故……!?」



リーフは甲冑の奥の表情を歪ませて聞く

では何故、それをしたのか?

何故仲間は無駄死にしたのか!?



詰まってうまく形にならないリーフの言葉を理解したかのようにクイーンは優しく微笑んだ



「それはね」



そして優しく微笑むその口が、醜く歪む





「嫌がらせです、あの化け物にね」





そういうと再びクイーンは視線を外し、退屈そうにゴブリンの群れを眺め始めた


リーフはその言葉を聞いて、無意識に自らの兜に埋め込まれている髑髏に、すがるように手を置いていた―――






――――――――――――――――――――――――――――――――――


「リンファくううううううううんんん!」


戦火くすぶる道をアグライアを抱きかかえながら歩いてくるリンファに、ヴァレリアは叫びながら走った


「あ!ヴァレリアさーん!」


リンファはアグライアがずり落ちないように慎重に持ち替えると、ヴァレリアに大きく手を振った



「無事かい!? 生きてるかい!? あぁこんな大けがして……すまない!ごめん!ありがとう! 何言えばいい!? 生きててよかった!ごめがとう!!!」

「ご、ごめがとう……?」


ヴァレリアは飛び掛かるようにリンファに近づくと泣いているんだか笑っているんだかわからない顔でリンファの手を掴んでブンブンと振り回す

リンファは少し困ったような顔をして、それでも嬉しそうにヴァレリアに微笑んだ



「君のお陰でこの街を焼け野原にせずに済んだ……多くの兵も助けられた……! 私は君にひどいことをお願いしたというのに……この恩をどう返せばいいか……本当にありがとう!」

「そ、そんな……僕だけの力じゃないですよ」


リンファはそういうとアグライアの方にチラリと視線を送る

元々ほとんど残っていなかった魔力を根こそぎ吸い取られた影響か、疲れ果てて眠るアグライアは小さく寝息を立てていた



「本当ありがとう……さぁ!帰ろう! 私の屋敷は更地みたいになっちゃったけどお茶くらいは出せる! ゆっくり休んでおくれ」

「あはは……ありがとうございます」




「生きていたか、一緒に氷漬けになってくれれば手間も省けていたのになぁ」


その声にリンファのこめかみがピクっと動く


「どうした? お前の窮地を救った英雄がわざわざ来てやったんだ、平伏してその首を差し出すくらいはしたらどうだ?」


黒づくめのローブに身を包んだ性格の悪そうな男が上空からリンファの眼前に結構な速度で着地し、泥まみれの雪をまき散らす

リンファはその汚れた泥雪からアグライアを守るように体を入れ替えた




「嫌だよ、平伏するのも首を差し出すのも 殺す気満々じゃないか」

リンファが嫌そうな顔を隠そうともせず言い返す


「いずれ貴様は私が滅するのだ、今であるいずれかであるかの違いなのだから気にするな」

「気にするよ、だいたいなんでお前ここにいるんだよ」

「貴様に教えてやる義理などない、死ね」

「こ、こいつ……!」



子どもの様な悪態の応酬にリンファは思わず絶句する

そのやりとりを見てヴァレリアは吹き出さずにはいられなかった



「いやー、我が領地の救世主たちは実に仲がいいねぇ!」



「眼鏡ごとその首吹き飛ばすぞ貴様」

「ヴァレリアさん、さすがに笑えないです」

「あれ? 僕すごい怒られてない?」



タイミングばっちりでヴァレリアを非難する二人は、とても息が合っていた



そんなやりとりをしていると街の方から大勢の人間がやってくる足音が聞こえ始める


「お、どうやら君を出迎えたくてしょうがない奴等がやってきたようだね」

「わ……すごい……」


街の方に目をやれば、青い空からのぞく日の光を浴びながらたくさんの人たちがリンファに笑顔で手を振っていた

その格好からその多くはエタノー領の人間達……よく見ればリンファの見覚えのある人たちも含まれていた



みんなどこかしらに怪我はしていたけれど、それでも嬉しそうにリンファに手を振り喜びの声を上げていた



「生きててくれた……!」

「君のお陰だよ、誰が何と言おうとね」


その光景を呆然と見つめるリンファに、ヴァレリアは優しく声をかける



「さて、と」


ヴァレリアは少しわざとらしく首を鳴らすと、大きく背伸びをした



「ここからは、僕たちの仕事だね」

「え……?」



その時、街に大きな旗が上がる

それは王都の紋章、神代王が駐留していることを示す大げさな旗印


青い空の下にうるさいほどにその華美な装飾が反射し、自己主張を始める

半壊し煙がまだ上がる街にはあまりに不釣り合いな旗が、風になびいた





「あ、あれ……」

「ふん……実に悪趣味な自己顕示だ 」



その旗を見ながらヴァレリアがわずかに拳を握る





「大丈夫だよリンファ君、もう君を好きにはさせない」


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