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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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230/256

230.天より降り注ぐ命鉱石に、リンファは走る

「お、恐れながら申し上げます!」

剣を構える神代王の数メートル後ろからひれ伏した兵士が顔も上げずに叫ぶ

神代王はその剣を構えたまま呼吸を整え、必死に平静を装った



「……構わん、申せ」

神代王はその兵士に顔を向けることなく、その言葉を待つ

だがその目は常にリンファの眼に向けられ、そしてその目の形はわずかに怒りと焦りに歪んだままだった



「ゴ、ゴブリンの軍勢に動きあり! 軍勢の後列が山に向けて移動をし始めています! なおも行動は継続中!」

その言葉にリンファ以外のその場にいる全員が驚き、ゴブリンの軍勢に目を向ける


「な、なんということだ……!」

マンダリアンがその様子を見て思わず声を漏らす

前列のゴブリン達は動かず人間と睨みあったままだったが、後列のゴブリン達は既に移動を開始しているように見える


吹きすさぶ風雪でその視界は定かではないが、群れが徐々に動きつつあることはだれの目にも明らかだった



マンダリアンはそれを見て追撃の進言をするかどうか悩んだが、その心を読んだかのようにファルネウスが首を振る

「追撃戦なんて仕掛けたら我々も一緒に凍死しかねません、その判断が向こうの方が早かった……それだけです」

「ファルネウス殿…… そ、そうだな……確かに……」




「リンファ! ゴブリンが……ゴブリンが撤退していくぞ! 戦いを止められたんだ!」

アグライアが少しだけ頬を緩ませてリンファの元に駆け寄る

リンファは神代王を見つめたまま少しだけ微笑み、アグライアの言葉に反応した



アグライアが魔法で風雪を凌いでくれる暖かさを背中で感じながらリンファは神代王に言った


「もう戦う理由も相手もいなくなった……後はあなたの一言だけです」


神代王は構えた剣を震わせながら未だにリンファを睨みつける

そして凍り付きそうな冷や汗を拭いもせず、それでもまだ自らが覇者であると取り繕いその言葉を吐き捨てた




「……進軍準備、追撃を仕掛ける」



その一言に全員がざわめく

神代王はそのざわめきに苛立ちながら更に言った


「聞こえなかったのか! 今が殲滅の好機である! 下賤な化け物如き……この大地が凍り付く前に始末して見せろ!」

神代王の檄が飛び、兵士の動揺が広がっていく


武器を持つ者、持とうとしない者……

兵士の士気は寒さで既に散り散りとなっており、とても戦いを始められるような状況ではなかった



神代王は檄を飛ばしてなお動かない状況に苛立つ

ファルネウスはそんな神代王を見てかつてヴァレリアが言っていたことを思い出さずにはいられなかった


『神代王の力にも限界がある…… やはり間違いないのか……!』



「ファルネウス!何をしている! 指揮を執れ! 全軍前進せよ!」

「恐れながら神代王! この風雪での追撃戦は不可能と具申いたします、敵を退けた以上我々の勝利と言えましょう」

「構わん! 死すればそのまま死兵として追撃させればよかろう!」



その言葉を放つと同時に神代王の構えていた剣の切っ先がまるで木片の様に折れてふき飛ぶ

キンッという甲高い金属音が響き、その剣の欠片は櫓の床に転げ落ちた



「今、何て言った?」

リンファの眼が見開く


「貴様……!」

パキン、パキンッ


小気味のいい音を立てて神代王の華美な装飾の剣が短く折れていく

リンファの手は開いたまま、はた目から見れば何も動いていないようにすら見える

だがリンファはその手刀を以て神代王が動くよりも速く次々とその剣をへし折りその距離を詰める!




「今、死んだらゾンビにすればいいって言ったのか?」

「くっ……!」



神代王がその剣を思わず突き出し、リンファの喉を刺す!


「危ない!リンファ!」

アグライアが叫ぶが、リンファは身じろぎもしない



刺し貫いたはずの剣は既にその刀身を失い柄のみとなり、わずか残った刀身を支えていた金具がリンファの喉をわずかに傷つけるだけ

そんな傷に何の痛痒も見せないリンファはその剣を振り払おうともせず、怒りと恐れに歪む神代王の顔を睨みつけた



「この愚か者が!【不敬である】!えぇい!何故だ!何故死なん!!クソがぁ!」


神代王は叫びながら刀身を失ったその剣を必死に振り回し絶対の命令を唱える

その力は少し前の命令で使い果たしていたが、残っていたところでリンファには効果がない


それがわかってなお神代王は狼狽しながら自分の絶対だったはずの力に縋っていた




「この戦いを終わらせるんだ、その上で僕が憎かったらいつでもかかってこい」

リンファが神代王の砕けた剣を更に喉に押し当てて近づく


「いいか、僕だけに来い…… もし他の人に危害が及ぼうとすればその前にお前を叩き潰してやるからな!」




神代王がリンファの眼を見て歯を食いしばり動けなくなる

兵士達は寒さに震えながらその動向を見ながらざわめく


ファルネウスはその状況を注意しながらゴブリン達の動向を警戒する


吹きすさぶ風のみが荒れる沈黙がわずかに流れたとき、突如としてリンファがその沈黙を破りその身を翻らせる



「あ……! そ、そんな!」

リンファは神代王から跳びはねるように離れると、一目散に兵士の最前列に向けて駆けだした!


「ど、どうした!?リンファ!?」

「逃げて! みんなを撤退させて! 早く! みんな死んじゃう!急いで!!!!」



リンファの突然の行動にアグライアは慌てて声を掛けるが、リンファは立ち止まることなく一気に走り去る

ファルネウスはリンファの動きをおかしく思いゴブリンの群れをもう一度観察した



その時、ファルネウスもその異変に気付き声を上げる!


「な、なんだあれは……!? 空飛ぶ魔鉱石……? しかもあんな大量に……!?」

流星の様な魔鉱石がゴブリンの陣営に降り注ぐ


降り注いだ魔鉱石は魔力を放ちながら天に浮かび、その上空に法術陣を作っていく

あまりに大きく巨大なその魔力の奔流は舞う雪を溶かし雨と化し、その雨すらも熱で消しさった



「し、神代王! 撤退のご指示を……えぇい! 全軍撤退! 急げ!ファルネウスとマンダリアンの名において命ずる!一刻も早くだ!」

未だ動かない神代王に業を煮やしたファルネウスはとうとう独断で命令を発令

マンダリアンもファルネウスと同様に急いで撤退を指示


「魔法隊!撤退しながら障壁を展開! いいか!防ぎ切ろうなんて考えるな!着弾を少しでも遅らせろ! 街を超えて坂を下れ! 急げー!」

立ち尽くす神代王をよそにファルネウスとマンダリアンの必死の指示が飛び交う




そして兵士達は突如現れた巨大な法術陣と撤退命令に混乱しながら逃げ惑う



そんな中、リンファは走る

叫び惑う兵士をかき分け、その先端へ走る

アグライアを、ファルネウスを、そして

リンファに石を投げた人間を守るためにそのか弱き身を顧みず魔力の砲口へ向かって駆けて行った!




―――――――――――――――――――――



「何を……何をなさるつもりなのです!」

撤退作戦を遂行中、突如として集結した命鉱石を見たリーフはその中心地へかけつける



そこではクイーンが城より送り込まれた大量の命鉱石を空に並べ、巨大な法術陣を形成していく

そ法術は発動前から焼け爛れそうなほどの熱を放ち、命鉱石はその魔力を全て吐き出し次々と砕け散っていた


その魔力のふくらみは留まるところを知らず、炎のうねりが大気を歪ませ、空を赤く燃やす

その赤い光に照らされながらクイーンは楽しそうに笑っていた


「クイーン! まだ前方には人間の進行を食い止めるために展開している仲間がいるのです! そんなものを撃ったら……」

「仲間……?」


リーフが必死にその詠唱をやめるように叫ぶ

天すら焦がすほどに大きいその法術陣は、既に直下のゴブリンの肌を焼き痛みと苦しみの声を上げさせているほどだった


だがそんな悲鳴を聞いてもなおクイーンは止めようともせず、更に楽しそうにコロコロと笑う


「全軍に伝えなさい、一刻も早く撤退せよと 間に合わぬものは……」


クイーンがリーフに顔を向ける

その顔は、仮面をつけていてもわかるほどに不気味な笑顔で、心から楽しそうに歪んでいた



「間に合わぬものは、死ね」






『仲間がいる』

リーフがそう言ったとき、クイーンは確かに笑った

嘲りに満ちた表情がリーフの眼に焼き付いた

そしてリーフの叫びもむなしく……







クイーンの頭上から、天と地を焼き尽くす、巨大な紅蓮の龍が放たれた―――――






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