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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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228/256

228.僕は戦う

さっきまで闇に閉ざされていたはずの世界は、青い空が広がっていた

陽光が大地を照らし、温かさすら感じるこの戦場で


王は剣を構え、化け物はその拳を収めた




その有様を氷の狼が見つめる

戦火くすぶる街の塔の上で、その銀毛を風に漂わせながらただ静かにそれを見ていた


構える王の剣がどこに向くのか、その拳がどこに向くのか


氷の狼……ステラーハウルはその結末を見守っていた

まるでこの世界の答えを待つかのように――――










「この戦いが終わり……だと?」

神代王がその鋭い剣の切っ先をリンファの胸元に向けたまま、口元を歪めわずかに笑う

何も知らぬ下賤な化け物が何を言うのかと、嘲りの表情でリンファを見る目は歪んでいた



リンファは剣を向けられてもなおその拳は握ろうとせず、その身を切っ先にさらけ出す



「そうです、この戦いはもう終わりです」


這いつくばって見下ろされるべき下等な存在が自分と同じ視点でまっすぐ見つめて来る

神代王はその事実が既にたまらなく不愉快だった



「貴様如き地面を這いずるゴミが私と同じ目線で立つな!」

神代王はリンファに向けて手をかざし、詠唱もなしに紅蓮の火球を撃ち放つ

その灼熱の火球はその辺りをも焼き焦がしながらリンファに叩き込まれた


周囲の兵士がその熱量に熱傷を負い、慌てて氷系の魔法を展開する

それでもその炎は燃え盛り多くの人間を傷つけた




リンファに直撃した火球は炎の竜巻を巻き上げ一気に焼き尽くす

骨すら残らぬであろうその熱と炎に煽られ空の大気すらも歪んでいた



「思わず消し去ってしまったわ……愚か者が 地面を這いずるゴミが我に逆らうからこうなる」

少しだけ息を弾ませ神代王が唾を吐く


この国の全ての人間から畏怖を威厳を感じさせていた神代王とは思えぬ粗野な立ち振る舞い

そんな見苦しい振舞いを自分がさせられてしまったことに神代王は更に不愉快な気持ちとなる


燃え盛る炎の竜巻を苦々しく見つめながら神代王は歯を食いしばる


「不愉快なエラー品め……! 俺……我に逆らうからこうなるのだ!」



神代王が轟轟を燃え上がっていく炎を睨み吐き捨てたその時、異変が起きる

炎の竜巻の回転が急速に弱まり、天すら焦がしかねない程の紅蓮の渦がその勢いを消していく!


神代王が目を見開きその炎に魔力を注ぎ込もうとその手を向けた瞬間、その炎は噴き上がる一陣の風と共に消え去った!


否、消え去ったのではない

それは消し去られたのだ


その中心で消し炭になったはずの異形の穢れがその炎を手で払いながら悠然と神代王の前に立つ


神代王の紅蓮の炎の残滓はリンファの手のひらで遊ばれて、やがて天に消えていった



「リンファ、大事ないか?」

「はい、ありがとうございます アグライアさん」



リンファをかばうように、アグライアがその傍に立つ

輝く銀の外套がまるでオーロラの様に輝きリンファを覆っていた



「その銀毛の外套…… まさか!」

オーロラの様な冷気を放つその外套を見て神代王は何かに気付き、辺りを窺い何かに気付く


街の塔の突端、美しい青空に佇む巨大な氷の狼に神代王は目を奪われた

「ハウル族だと……? まだ生き残っておったのか……!」


その目に気付いたステラはわずかに顔を上げ、神代王を見下ろす

そんなステラを見て神代王はその目を不愉快そうに歪めた




「すごい威力の魔法ですね、でも仲間の兵士まで怪我させるのはどうなんですか?」


今度はリンファがアグライアをかばうように一歩前にでて、神代王に相対する




「し、神代王が危ない!」

その様子を見たマンダリアンが剣に手をかけようとするが、ファルネウスがそれを止める


「ふぁ、ファルネウス卿!貴様乱心したか!?」

「いいえ、至って冷静ですよマンダリアン殿」


ファルネウスも同じ様に剣に手をかけながら、それでもマンダリアンを止める


「我々はその時を見極めなければならんのです」



ファルネウスの真剣な表情にマンダリアンは何かを言いかけて口を閉じ、同じ様に二人を見つめる


兵士達も皆それを従うかのように神代王とリンファを見つめていた







リンファは掌が神代王に見えるように両手を広げる

その手には何も持っていないこと、また構える意志がないことを伝えるように剣を構えた神代王の前に立つ


そしてリンファは一歩進む


その瞬間、白装束の男たちが目に見えない速さで飛び掛かり、それと同時に撃ち放たれた光の矢がリンファに迫る!

神代王の親衛隊がその手に白杖を携えリンファを砕かんばかりの勢いで撃ち込むが、その白杖に手ごたえはない



かわされたと感じた親衛隊の一人が即座にその手を引き追撃をしようと持ち替えたとき異変に気付く



数人の手練れの親衛隊が撃ち込んだ必殺の白杖はその全てがへし折られていた

それもそれに気づけぬほど技の冴えで、少し間をおいてその杖は粉々に砕け散っていた


その手にあったはずの白杖の重さがなくなったことに狼狽しながら親衛隊がリンファを睨みつける

リンファは先ほどと変わらぬ体勢でその手を広げている



ただその指には放ったはずの光の矢が全て挟まれ、そしてリンファの手でポロポロと捨てられた



「白い人、僕は神代王と話をしているんです……邪魔しないでください」


リンファが更に一歩前に出る

神代王に近づこうとするリンファに親衛隊が素手で襲い掛かるが、リンファはその全ての攻撃を捌きその場に転倒させる


「セイクリッド……!」


アグライアが親衛隊を拘束しようと鎖を展開させようとしたとき、リンファはその手を向けてアグライアを止める


「リンファ! しかし……!」

「大丈夫、見ててください」


その言葉にアグライアは少しだけ困った顔をしながら詠唱をやめる

それを見てリンファはわずかに笑い、また神代王にその身を向ける




一歩、また一歩とリンファは進む

その間に親衛隊は執拗に襲い掛かるが、リンファはその攻撃の全てをいなし、かわし、捌く

親衛隊が誇る純白の装束はみるみる埃と汚れに塗れていく



親衛隊の誰もがもうまともに動けなくなるほどに疲弊し、膝をつきながら息も絶え絶えに苦々しくリンファの背中を睨む

何をやっても効かない、何を仕掛けても看破される



とうとう神代王の切っ先が触れるほどの距離にリンファは近づく

その手には何もなく、握る拳もない





ただまっすぐに神代王の目をリンファの青い目は見つめ続ける



その目が更に一歩近づく

神代王は迫るその目を冷や汗をかきながら睨み返す



切っ先がわずかにリンファの胸に刺さり、緑の血が流れた

だがリンファはそれをおくびにも出さず神代王の目を見続ける


神代王はその目の重圧に息を呑み、呼吸を乱しながら必死に堪えようとする



だがとうとうその目に耐え切れなかった神代王はリンファの胸に刺さっていた剣を我が身をかばうように引き戻すと袈裟懸けに斬りこんだ



その剣撃はまるで虚空を泳ぐようにリンファをすり抜け地面に撃ち込まれ、突き刺さる

神代王はその一撃で体勢を崩し、その身を地面に這いつくばらせる





剣を抜こうにも抜けず、神代王はその手を必死にもがかせる

その焦る顔に影が落ち、神代王は恐る恐るその顔を上げる




リンファだ

リンファの青い瞳が、天を背負いながら神代王を見下ろしていた



その手は何もなく、ただ広がる

何も持たず、何も握らず、拳すら作らず



膝をつき見上げる神代王の顔を、リンファは空を纏って見下ろしていた



「いいか、よく聞け」


リンファの青い目が丸く輝き、神代王を射抜く


「お前のその力で僕の大事な人に危害を加えようとすれば、それより速く僕はお前の顎を砕く」

「お前がその権力で僕の友達に手を加えようとすれば、それをする前にお前の膝を割る」

「お前が人の命をおもちゃに遊ぼうとするなら、それより前にお前の心臓を撃ち抜く」


リンファの肩から威圧感が目に見えるほどに溢れ、その影がまるで燃えるように揺らぐ


「生きる為や守る為に怯えながら必死に戦う者を暇つぶしで楽しむ奴を僕は許さない」



神代王はその目を見たまま、動けない

その豪華な装束に包まれた肩が震えていることに気付けない程に、神代王はその目を見るので精いっぱいだった






「こんな戦争以下の戦いをまだ続けようとする奴と僕は戦う! ゴブリンだろうと人間だろうと!クイーンだろうと王だろうと!僕が相手になってやる!」



リンファは天に向かって叫ぶ

その声は神代王の胸に刺さり、クイーンの脳を揺らす



唾棄にすら値しない異形の穢れが我が身に吠えたことに、両者は怒りを隠せなかった





「この……化け物め……! 貴様がどんなに吠えようともう戦況は止まりはせん、我が止めるわけがなかろうが!」


「そうですか」





声を震わせながら吠える神代王を見下ろしながら、リンファは特に感情を見せることなく言葉を返す



「じゃあ……」



リンファはその言葉はわかっていたと言わんばかりに自らの手をそっと空に掲げる







「戦いを終える理由を、あなたたちに差し上げます」







リンファの天を掴むようなその手を見て、ステラはゆっくりと空を見上げて吠えた―――――





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