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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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226/257

226.ゴブリンの群れを、リンファは進む

リンファはその鋭い眼光を人間に向け、そしてゴブリンに向ける

両軍はまばゆい光から現れたその存在にその身を強張らせ、身を構えることしかできなかった



「まずは……こっちからだ!」


リンファはそう呟くと天を仰ぎ大きく息を吸い込むと、世界中に響かんばかりの声で叫ぶ




『ゴブリンの皆さん! 怪我をしたくなかったら絶対に動かないで!』




それは獣の叫びにも似た大音量のゴブリンの鳴き声




人間はそのあまりに恐ろしい獣の咆哮に聞こえるその声に身を強張らせ、その鳴き声の意味がわかるゴブリンは目を見開いて狼狽する


「お、おい今の……!?」「俺たちの声だったよな……!?」


ゴブリン達は何が起こったのかわからず、呆気にとられたかのように周りの仲間と顔を見合わせる





そんなゴブリン達の間に、一陣の風が吹き抜ける

否、それは風ではなかった



リンファがゴブリンの群れに単身飛び込み、ゴブリン達の間隙を縫って一気に駆け抜ける!

走り抜けようとするリンファに気付いた者は慌てて武器を構えようとするが、そんな隙を与えない程の速さでリンファは突き抜けた



【八極剛拳 電光箭疾歩】


リンファは風すらも置き去りにする速さでゴブリンの群れの最後列にたどり着くと同時にそこに並ぶレッドゴーレムに箭疾歩を叩き込む


魔力の流れを視たリンファはその一撃でゴーレムのコアを直撃させ行動不能に陥らせた



『な、なんだ!?どうした?! 敵襲か!?』


城内で多数のゴーレムをコントロールしていたアバカスが、突然のトラブルに狼狽する



複数見ていたレッドゴーレムの視界の一つが消滅したことに慌てたアバカスが他のゴーレムで状況を確認しようとするが、次々とその視界は消えていく

随伴のゴブリンに状況を確認しようにも、その応答を待つ余裕もなくレッドゴーレムの反応が消失していく有様



『クソ! 奇襲か!? 何が起きている!?』


まだ反応するゴーレムから聞こえる現場の声も混乱しているのかうまく聞き取れない

戦闘はまだ始まっていなかったはずなのに、突如として起きるトラブルがアバカスを混乱させる



そして最後の一体となったとき、その視界は突如として轟音を立てながら空に向けられる


レッドゴーレムほどの巨躯がなすすべもなく脚部を破壊されて天を仰がされた

そしてアバカスがその青空を見せつけられた時、その視界に訪れる者……それは……



「ゴブリン……ハーフ……?」


逆光のリンファがその青い瞳を光らせて拳を突き上げる姿がアバカスの視界いっぱいに広がった


「もう大地を腐らせたりなんかさせないよ……!」


「きさま……きさまあああああああ!!!!!」


リンファの振り上げた拳が消え、鉱石の砕ける派手な破壊音がアバカスの耳に響き渡る

アバカスの絶叫とレッドゴーレムの視界が消失するのはほぼ同時だった






リンファは瞬く間にレッドゴーレムのコアを破壊し、その拳を引き抜き立ち上がる


ゴブリン達はリンファを囲み武器を構えるが、リンファの強さに誰も近づくことすらできない

リンファはそれを見ながら足を進めようとしたとき、何者かがリンファの前に立ちはだかった



「リーフ……」

「リンファ……」


髑髏の兜に黒い甲冑に身を包んだリーフがその太刀を抜き、リンファに切っ先を向ける

リンファはその髑髏の眼窩を睨むと、構わず進みだした



「構えろ、それ以上進めば殺す」

「君とは必ず戦う、だからどいてくれ 今はやることがある」



正眼に構えた太刀の切っ先がリンファの喉に向けられる

それでもリンファは意にも介さず歩き続けた



「ふざけるな! これは戦争だ! 貴様が人間に与する以上……」

「戦争……?」



リンファがその言葉にピクリと眉を動かし、向けられた切っ先を指先で掴みながらリーフを青い瞳で睨みつける



「こんなものは戦争じゃない! 戦争を口実に仲間の命を捨ててるだけじゃないか!」




リンファはそう言うとその視線をわずかに動かし、一点を睨む

リーフは振り向くこともしなかったが、リンファがどこを見ているかはわかっていた





その視界の一段高いところで、それは笑っていた

子どもの胸に深々とナイフを突き立てた女が、あの時と同じ様にリンファを見下ろして笑っていた





「僕はゴブリンとも人間とも戦うつもりはない」


リンファの指先に力が籠り、ギチギチと刀が悲鳴を上げる

リーフはその太刀を引こうにも、あまりに強い力に動かす事すらできなかった







「僕が戦うのはその命を粗末に使って笑ってる奴だ……生きたいと泣く命を見て楽しむ奴と戦うと決めたんだ!」




リーフの刀が音を立てて砕け散る

リンファは砕きとったその切っ先を地面に投げ捨てリーフの傍を通り抜ける


「僕はもう僕を否定する奴なんかの為に苦しむのは止めたんだ、やりたいことをやると決めたんだ」

「リンファ……!」





リーフは通り抜けるリンファの背中を必死に目で追う

その背中は振り向こうとはしなかったが、ふと立ち止まって背中を向けたままリーフに話しかけた



「あぁ、そうだ」




「命鉱石が生えていたゴブリンの治療は君に任せたよ」

「なに……!?」



その言葉と同時に鉱石兵達に寄生虫の様に突き刺さっていた命鉱石が次々と砕け散り、刺さっていたゴブリンが膝をつき地面に倒れる

意識はなかったがかろうじて上下している肩は、呼吸をしていることを証明していた




「お前……いつの間に……!」


リーフは驚き声を上げるが、リンファは振り向かない

ただその肩をわずかに震わせて、拳を握りながら言った





「今度は間に合ったと……思うから」




ゴブリンの群れの中央を歩くリンファの背中が遠ざかる

リーフは身動きすら取れず、小さくなるその背中を見つめるしかなかった


『こんなものは戦争じゃない』


リーフはリンファが自分と同じ様にそう思っていたことを知って、何もすることができなかった



ゴブリンの群れは悠々と歩くリンファに恐れをなしてその道を開ける

まるで海が割れるかのようにゴブリンの作った道をリンファはただまっすぐと歩く




そしてその先のわずか高いところで、それは変わらず笑っていた

その目はリンファからは見えなかったけど、どんな笑い方をしているのかは察しがついた




「生きていたのね、嬉しいわリンファ」


クイーンが嗤う

リンファが憎くて仕方がないと叫んだ母親が我が子に向けて優しそうにその口を歪ませている



「腐った大地は僕の大事な人の力で浄化されました、その元になるゴーレムもたった今僕が壊しました」

リンファが見下ろすその目を跳ね返す様に睨み返す



その目は睨む目と同じ、美しく輝く青い瞳でリンファはクイーンに言葉を放つ


「あなたの今回の目論見はお終いです」




その目を見つめてクイーンは表情を歪めて更に笑う




「もう一度お前の胸にナイフを突き立てて殺せるなんて、本当に嬉しいわ……!」


「そうですか、そんなことはさせません では」



クイーンは辺りに響き渡るほどにヒステリックに笑う

その叫び声にも似た笑い声に足を止めることなく、リンファは悠々と行くべき道を進んだ




クイーンは去り行くリンファの背中を見ながら、ゴブリン達に手出しをしないように命令する


そしてその背中が見えなくなるまでひとしきり笑った後

その頭を落とし、目を見開き血が出るほどに唇を噛みしめた





――――――――――――――――――――――――――



神代王は表情こそ変わっていなかったが、手にした華美な剣を折れんばかりに床に力を込めて突き立てていた

柄を握る手がワナワナと震え、ゴブリンの群れの方を睨みつける


何も知らない兵士たちはリンファの動きに歓喜の声を上げ、武器をかざす

まるで救世主でも来たかの様に騒ぎ、喜んでいた



神代王は怒りに震えながらそれでもそれを気取られまいと努めて静かな声を上げる



「ファルネウス、進軍だ」


「い、今なんと……?」


「今の機を逃すな!進軍の号令を上げよ!」

神代王の声が思わず荒ぶる



ファルネウスはその命令を実行すべきか逡巡した時、ファルネウスの視界に影が落ちる

思わず見上げた先から何者かが天から降り立ち、大きな音を立てて櫓を揺らした




「ファルネウス卿!進軍はおやめください!」

「お、お前……!」



ファルネウスはその姿を見て思わず声を震わせる



たなびく金の髪

美しく壮健な強くまっすぐな青い瞳


銀毛の外套に身を包んだ輝くばかりに綺麗なその騎士は、膝をついたままファルネウスを見つめそれを止める




「邪魔をするか……女……!」

神代王の声が震える




「よくぞ……よくぞ生きて帰って来てくれた……!」

ファルネウスの視界が涙でにじむ



「リンファがこの戦いを止めるまで、今しばらくお待ちください……おじ様!」


「リリー!」



リンファの思いを遂げさせるため、アグライアが神代王の前に舞い降りた



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