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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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225/257

225.ゴブリンと人の間に立つ者

街から目と鼻の先の山の入り口は戦場の空気を色濃く漂わせた

ファルネウスが引き連れた兵士達は今にも戦いが始まりそうな空気に緊張が隠せない


戦うつもりでここまで来たつもりだが、誰もが突然すぎて実感を持ちきれない

さっきまで歩くのがつらいと愚痴を言いながら進んでいただけだったのに


たどり着いて1時間もしないうちにもう戦場が生まれようとしている

間に合ったというべきか?間に合ってしまったというべきか?



一人の兵士は目の前の光景に武器を支え立っているのが精いっぱいだった

そこに広がるのは、異形の軍勢

緑色の肌に禍々しい装備を身に包んだ不気味な群れ……

故郷の森でゴブリンと戦ったことはあるが、目の前の相手は同じ生物とは思えない程恐ろしく禍々しく感じる


子どもに帰ると約束したことを忘れないように、震える手でペンダントを握りしめた――――








大地を黒く染上げる冥力は留まるところを知らず、腐る地面は瘴気を噴きだし黒く染上げる


まるで漆黒の霧に覆われたようなその場所に、2つの軍勢が睨みあう

槍を伸ばせば届きそうなほどに接近した軍勢たちは、これほどの濃い霧の中であるにも関わらずお互いの顔が視認できるほどだった



緑の顔が人間を赤い目を丸くして睨みつける

時折聞こえる叫ぶような鳴き声に人間の兵士達はその身を強張らせる


だが、その赤い目を射抜くように兵士たちは睨みつけ歯を食いしばる

武器を鳴らし、努めて整然と隊列を作る

一糸乱れぬ軍勢はドラゴンを思わせるほどの巨大な生物の如き威圧感となる


そう信じて、人間はゴブリンを睨み続けた




ゴブリンは人間の顔を見てその牙を剥きだしにして笑う

なんと貧弱な連中だ、自分達の方が強いと笑う

『その喉を食いちぎってやる』と誰かが鳴き、それに呼応して足踏みを響かせる


だが、多くのゴブリンはそう思い込もうとしていた

そう思い込み、狂うことでしか勝つことはできないと皆気づいていた


笑うゴブリンの手が震える

相手を威嚇するための足踏みはその震えを隠すためだ


それでも赤い目を血走らせて、ゴブリンは人間を笑う事をやめなかった



両軍は怯えながら目の前の敵を睨みつけていた――――








「神代王、全軍戦闘準備が整いました」

「で、あるか」



軍勢の中央に作った櫓に立っている神代王にミアズマが報告を完了させる

ミアズマの言葉に大した興味も反応も示さず、自らの華美な飾りのついた剣を突き立てゴブリンの軍勢を見つめる神代王


「見るに堪えぬ、気色の悪い化け物どもよ……」


その緑色の化け物を見てわずかにその眉を強張らせながら嫌悪感を露にしてつぶやく


「ファルネウス」

「……はい」


不意に呼ぶ神代王の声に、ファルネウスはわずかに警戒しながら返事をする



「兵士の戦闘指揮は貴様に任せる ミアズマは別部隊があるため指揮系統からは外す」

「別部隊……? 死兵ということですか?」

「貴様が知る必要はない」




神代王は短く用件のみを伝えると再び口を閉じ、ゴブリンの軍勢を見つめる

ファルネウスは何もわからないこの状況を必死に把握しようとするが、あまりにも時間と情報が足りない


広場に着いた直後、戦況の確認すらもできないまま敵襲の報が鳴り響き兵士を展開

街にはわずかな魔法陸戦団が残っているばかりでエタノー領の兵士の姿はほとんど見えない


ヴァレリアの安否を調べようにもマンダリアンを始めとしてここにいた兵士達でまともに喋れるものは誰もいない



「何をしている……ヴァレリア!? 一体何があった!?」



その問いに答える者はいない

ファルネウスは偵察の兵を数人街に走らせるのが精いっぱいで、何もわからぬまま前線の指揮を任される事態となってしまっていた






両軍の緊張がピークに達した時、その空気を裂くような声が響く


それは落ち着いてはいたけれど触れれば切れそうなほどに鋭い刃の様な、美しくも心をざわつかせる響き

それを聞いたファルネウスはその声が持つ雰囲気に驚かずにはいられなかった


「女……? ゴブリンの軍勢に女の声だと……!?」





【その身を自由とせよ】




その一言に多くの人間の兵士は違和感を感じて辺りを見回す


「自由?いきなり何言ってるんだ……?」

「そもそもなんで女の声がゴブリンから……」


整列をしている兵士から疑問の声が漏れる

だがなにもわからないまま、兵士はやがて喋ることを止める




だがファルネウスはその言葉の変化に目を見開く


「が、がはっ……! なんだ!? 戦況はどうなっている!? 生きている者は応えよ!」

「ま、マンダリアン……殿……?」

「ファ、ファルネウス……? なんで貴公がここにいる……? 援軍が来るにはあまり早すぎるのでは……?」



突如意識を取り戻したかのように騒ぎ出すマンダリアンにファルネウスはまともな言葉がでない

そしてマンダリアンに続くように魔法陸戦団の兵士達が夢から覚めたかのように辺りを伺いながら騒ぎ出した



絶望の戦場から目が覚めれば目の前にゴブリンの軍勢が押し寄せているうえに周りには覚えのない援軍が整列しているのだ

驚くなという方が無理がある



そしてその状況を目の当たりにした神代王はわずかに目を見開き、すぐにその目を戻しため息をついた



「なるほど……そう言う事か 納得はいかんが合点がいったわ」


神代王はそういうとわずかに目線を上げ、ゴブリンの軍勢の中央を見やる

そこには神代王と同じ様に一段高いところで玉座に足を組んで座る者が一人


それは神代王の視線に気づき、仮面から覗く口元をわずかに上げてゴブリンクイーンは怪しくほほ笑んだ




「お久しぶりですね、神代王 それともリュウイチ……とでもお呼びしたほうがよろしいかしら」

魔力を介した言葉はまるで神代王の近くで話しているかの様な声で辺りに響く


「捨てた名だ……神に代わる王となった我にはもう名前すら必要ない」

同じ様に魔力を介してその言葉をゴブリンクイーンに投げ返す神代王



「貴様が生きてゴブリンの首魁をしている理由はそれか、穢れた化け物の親はやはり穢れておるな」


神代王の言葉にクイーンは口角を吊り上げる


「貴方にされたこと、今日まで一度も忘れたことはありません……だから、ね? 神代王」




「あなたの大事なこの箱庭を、憎い人間ごと潰してあげることにしました」




クイーンはそういうとクスクスと笑いながらそっと手を上げると、その手に反応しレッドゴーレムから瘴気がたちのぼり、辺りをさらに黒く染めていく




その瘴気に人間達は苦しみだし、慌てて魔法兵たちが障壁を展開する

ゴブリンが作り出す冥力は生きている人間すらも蝕み害するほどの濃度になっていた




「クスクス……こうやって少しづつね、虫をつぶす様にゆっくりこの箱庭を腐らせてあげる 人間共が巣食う王都を真っ黒にしてあげますからね」


クイーンの不気味な笑い声は人間の兵士全ての耳に届き、動揺を誘う



だが神代王はその言葉にフンっと鼻を鳴らすと、くだらなさそうに冷笑を浮かべた



「下らぬ……冥力の何たるかも知らぬ浅学非才の女め」

神代王がその手を突き出すと、ゴブリンの軍勢を囲む様に何者かが蠢きだす


それは腕千切り足はもげ、首が逆を向けながらそれでも剣を握り槍を突き出し吠える人だった者たちの群れ……

立ち込める冥力を糧としてその力を漲らせる死兵が人ならぬ声で闇の空に叫びだした




「おぉ、臭い……人間は生きていても死していても醜怪な臭いをまき散らす」

「ぬかせ……ゴブリン共がそうやって冥力を垂れ流す限り我らの軍はその強さを増す 貴様が従える化け物共は蹂躙されるのみぞ」






ミアズマの操る死兵は溢れる冥力を媒介にして生前以上の力を漲らせる

瘴気が形を成し、欠損した四肢を補うどころか魔獣の如き姿に変貌させてすらいた



その様子を見てゴブリンは動揺を隠せずその身をかばうように怖気づく

いきり立った死兵が襲い掛かろうとした瞬間、黒い甲冑を着こんだゴブリンの剣士が躍り出る


次の瞬間死兵は64個の肉片に切り裂かれて大地にバラまかれた

しかしそれでもその肉片は蠢きながら瘴気を介して繋がろうと身をよじり続ける……

髑髏の眼窩からその光景を覗きながら、リーフはわずかにその眉をしかめた





その光景を横目に捉えながらクイーンは嗤う

「蹂躙? フフフ……おかしい、とてもおかしいわ そうなの?ふふふ……」




クイーンはその言葉を聞いてひとしきり嗤った後、その手を口に当て魔力を流す

そして神代王の耳元で囁くように言った




「私は この緑色の化け物たちが 人間と同じくらい だぁいっきらいなの」






その言葉に神代王はもはや話すことなど無いと手を上げる

それを見てゴブリンクイーンもわずかにニヤついた顔のまま真似をするように手を上げる





両軍に緊張が走る

武器を持つ手がガチャガチャと鳴り響き、その足は地面をとらえる







アバカスは開戦の号令を待ちながら、ゴーレムの視界でもう一度だけあの場所を見つめる

ゴブリンの歴史が始まるその瞬間を前に、あの憎きゴブリンハーフが居る場所を見てしまった


見るべきではなかった

見なければ、もう少しだけその光景を見なくて済んだのに



見てしまったその世界が真っ白に光っていくことに、一番最初にアバカスは気付いてしまった


『な、なんだあれは!?』



アバカスの叫びより早く、大地は純白の光に飲み込まれる

視界すらなくなるほどの光の大瀑布は今まさに開戦しようと身構えた両軍の出鼻をくじきその身を強張らせる



そしてその光は巣食う瘴気を一気に洗い流し大地の闇を取り払う!

腐り果てたはずの大地が美しい土の匂いを取り戻し、枯れた樹々が力強く色を取り戻す



魔獣の如き姿に変貌したはずの死兵達はまるで神に許されたかのように膝をつき、邪悪な操り糸を切られて大地に包まれる

死兵は亡骸に戻り、動くことを忘れたかのように一気に眠りについた






「こ、これは……?」

神代王がわずかにその目を見開き空を見上げる


「何事か……!?」

クイーンは無意識にその口を開けて大地を見下ろす









【八極剛拳】



黒く染まった空が真っ二つに裂け、光の柱が両軍の間にそびえたつ



【地烈爆震脚 轟暁】



光の柱は一気に大地に響き渡り、その大地の瘴気を消し飛ばす!






光の瀑布はその柱の共鳴で一気に弾け、冥力を道連れに一気に消え去った


そしてその瀑布の中心に、何者かが立ち上がる



『き、貴様……!?』




ゴブリンと人間の間に立ち、その者はその双眸を開ける



ゴブリンハーフ……リンファが天と大地を揺るがし両者の前に立ちはだかった!



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