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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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222/257

222.僕のやりたいことは

「リンファ! 大事ないか!?」


戦いに勝利したリンファにアグライアは心配そうに駆け寄った

まだおぼつかない足取りのアグライアだったが、自分のことなど省みずリンファに駆け寄った



「あ、アグライアさん……!」

戦闘の余韻で静まらない鼓動を必死に抑えながら、リンファは声の方向に振り返る

振り返ったときアグライアは足元の瓦礫に足を取られ、バランスを崩す

リンファは倒れそうになるアグライアの肩を取り、しっかりと支えた



心配そうな表情の二人

お互いがお互い、自分の事以上に目の前の相手が大丈夫なのか気になって仕方がない


「リンファ、怪我は大丈夫か? 随分とひどい目にあって……!」


アグライアは自分を支えてくれている腕をペタペタと触ってリンファの傷を確かめる

触れるその掌は触れられた感触だけでわかるくらい皮膚が堅くなり、また裂けてボロボロになっている


「ぼ、僕は大丈夫です! それよりアグライアさんこそ……!あんな旗をつけられて……こんな……!」


リンファの支えたアグライアの肩はむき出しに近いほど装備は砕け、破れていた

ステラの治癒で傷口こそ塞がっているもののその傷痕は生々しく残り、装備のダメージの下にはたくさんの傷が見える

来ている服も血と泥で染まり、そこに触れればゴワゴワと血が滲んだ跡がありありと残っていた



共に二人、それを見て肩を震わせる

何を言っていいかわからない、言うべきことが喉から出てこない

だが二人とも思う事は同じだった




『生きてくれていて、ありがとう』と、二人は心からそう思った



その時、地鳴りが響き大地が揺れる

二人は即座に背中合わせになって警戒すると、みるみる大地がさきほどよりも暗く澱み、空が落ちてきそうなほどに黒く重く染まっていく


「こ、これは……!?」

「二人とも気を付けなさい、大地が腐っていきます…… 生体すらゾンビに変えかねないほどの冥力がこの辺りに漂っている、それも恐ろしいほど急速に」



二人を守るようにその巨躯を近づけて銀毛を逆立て唸るステラ

ステラの魔力で二人の周囲は冥力を受けていなかったが、冥力の影響は目に見えるほどに明らかだった


樹々が次々と葉を枯らし、乾き朽ちていく

雪はヘドロの様な毒々しい色に染まりながら溶けていき大地に染みこんでいく


そしてこの戦場で散った亡骸達は冥術に操られてなる死兵などではなく、ただ彷徨い、ただ苦しむゾンビへとその姿を変えていく……



『聞こえるか……ゴブリンハーフ! 私の勝ちだな……! この手で貴様を殺すことができなかったのは心残りだが、こちらの作戦は成功したぞ!』


その時足元に転がるブラックゴーレムの砕け落ちた頭部から雑音混じりのひどく歪んだアバカスの声が響く

響く声はノイズだらけだったが、アバカスの口調は敵意と嘲りに満ちていることは十分に伝わった


『レッドゴーレムと鉱石兵に仕掛けておいた冥術の詠唱が完了した、貴様らはここで冥力に侵され死ぬ!そしてこの地に彷徨うのだ!』


「アバカスさん……!」

『貴様に名を呼ばれる謂れなどない! いいか……間もなくクイーン様率いる我らが貴様ら人間の街に攻め入る!そして全ての人間を根絶やしにする! 我らが生きて繁栄するためにな!』


アバカスの言葉にリンファが目を開いて叫ぶ



「そんなことはさせない!」

『やはり貴様は人の血を持つゴブリンの敵か……、貴様をクイーン様の元には近づけさせぬ、貴様はゴブリンの繁栄を阻む脅威だ……ここで死ね!フハハハハ……』


高笑いがブラックゴーレムの頭部から響く

その顔は心なしか愉悦に浸っているかのような表情に見える


その笑い声に、リンファが拳を握る

冥力の影響がどれほどかわからないこの場所からエタノーの街に戻るにはあまりに危険……

それにこの山が……散っていった兵士が穢されゾンビとして成り果てることも許せなかった



けれど魔法が使えないリンファにはこの状況をどうすればいいか何も思い浮かばず、悔しさがにじみ出る



高笑いは冥力に染まり落ちる山々に響き渡る

そして笑いが最高潮に高まった瞬間……



その顔が大きな音を立てて踏みつぶされる!



砕ける瞬間ゴーレムの顔はまるで驚いたかのように歪み、落ち潰され、粉々になった


あまりの衝撃でリンファも思わず驚愕で目を見開き、その方向をゆっくりと向く




「黙れ! リンファは死なない……殺させはしない!」



アグライアだ


アグライアが眉を吊り上げてまっすぐな瞳でブラックゴーレムの頭部を踏み砕いたのだ



「聞こえているか知らんがよく聞けゴブリン」

アグライアは残ったブラックゴーレムの破片をつまみ上げて大きく息を吸う


「貴様が何者かなど知ったことではないが、生きてそこに行ってやる……首を洗って待っていろ! 私達を舐めるなよ!」

さきほどの高笑いなど比較にならない程の大声が山々に響き渡り、やまびこになる


リンファは思わず呆然としてしまい、ステラはパタンと耳を閉じてやり過ごしていた



『な……!貴様……いったいだ……』


何かを喋りかけていたゴーレムの破片を力いっぱい地面に叩きつけ、もう一回踏みつぶす

アグライアはフンっと鼻を鳴らすと、両手をパンパンと払ってその残骸に背中を向けた



そのあまりの毅然とした様子にリンファはまだポカンとした顔をする


「リンファ! お前はお前だ!どっちかの味方だの敵だのというくだらない言葉に耳を貸さなくていい!」

「ア、アグライアさん……」



アグライアはツカツカとリンファの前に近づくと、リンファの肩を掴みまっすぐその目をみつめる


「リンファ、お前はどうしたい? ゴブリンとか人間とかそんなことは考えなくていい、お前がやりたいことを考えよう」

アグライアはリンファの青い目をまっすぐにみつめ、リンファもアグライアのまっすぐな瞳を見つめ返す


「僕は……」


リンファは少しだけ沈黙し、すぐにその口を開きまっすぐに答えた





「僕はこの戦いを止めたい……止める!」






リンファの言葉にアグライアは満足げに頷き、それをみてステラも笑う



リンファ達を囲む世界は漆黒に染まり、ステラが放つ魔力も少しずつ押されている

このままなら冥力に蝕まれ死に絶えるであろう状況なのに、誰一人絶望の顔を見せない




「ステラさん、あなたの力をお借りすることはできますか?」

アグライアの問いかけにステラはわずかに尻尾を動かし応える



「私達は種族間の戦争に加担することはできません、ですがそれ以外であれば力を貸しましょう……そう、例えば」


ステラは腐り行く大地を睨む


「この腐り行く大地を救うというなら、きっと許されるでしょう」

「それは良かった…… リンファ、少しだけ待っててくれ」


その言葉を待っていたかのようにアグライアはリンファに少しだけ微笑む


「ど、どうするんですか……!?」

「昔取った杵柄って奴だよ…… ステラさんの力を借りられるならやってみせる!」


アグライアはボロボロになった外套を脱ぎ捨て鎧を外すと、ステラに手を当てゆっくりと詠唱を始める

詠唱と同時にアグライアが金色に輝きだし、その光は法術陣を描き大きく大地に広がっていった



「こ、これって……!」

リンファがその光に驚きの声を上げる


『我が神ルミナスよ、ここにある彷徨える命だったものの残滓を…』


アグライアが一心不乱に詠唱を続け、その輝きを増していく

かつてミナの村で見せたゴブリンを浄化する為に使ったあの魔法をアグライアはあの時とは比べ物にならない程の規模で展開しようとしていた



「私の魔力は人間の使える量を遥かに超えています、コントロールを見誤らないで」

ステラがその魔力をアグライアに注ぎながら声を掛け、アグライアはニコリと笑って詠唱を続ける




だがその詠唱を聞いて何者かが動き出す


それも1つではない、いくつもの影が大地から立ち上がり蠢きだす


「な、なんだ……!? あれは……ゴーレム!?」

アグライアが詠唱しながら近づく存在に驚愕する


戦闘で倒され、冥力を噴きだしていたはずのゴーレムがまるでゾンビの様に不気味に立ち上がり、徐々に迫って来る

鉱石兵もそのゴーレムの冥力に操られるように蠢きだし、近づいてくる


動きに精彩はなく、意思も感じられない

だがそこには、明確な殺意だけが浮かび上がる


リンファを殺すという明確な殺意だけでゴーレム達は残った魔力に縋るように蠢きだしたのだ





「こ、この感じ……覚えがある…… ダガー!」





ゴーレムに使われているコアはダガーのコアを利用したもの

そのダガーの残滓に漂うわずかな記憶と怒りが、リンファ達を殺そうと迫りだした





「くそ……こんな時に!」

アグライアが叫んだ時、影が動く



ステラが展開する魔力の外にリンファが飛びだし、その拳を突き出す



「リンファ!無茶だ!」

「アグライアさん、ステラさん……そのまま詠唱を続けて!」



リンファの突き出した拳が華のように咲き、迫るゴーレムに向けられる





アグライア達を守るため、この戦争を止めるために……リンファはこの腐り行く大地にその足を強く踏みしめた――――



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