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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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219/276

219.信じて見ていなさい

あの日神代王に一息で殺されたダガーの死体はゴブリンの手で回収され、その死体からコアが採取された


コアはゴブリンクイーンが一部のゴブリンにのみ埋め込んだ一種の記憶媒体の様な物で、これがあれば同じ能力を持ったゴブリンを生成することが可能になる

だがそれ以外に、そのゴブリンが覚えたことや身に着けたゴブリンのコアをコピーすることで他のゴブリンに付与することもできる



クイーンの狙いはむしろこのコピーが狙いだった

クイーンはダガーのコアを次々と複製し、それを命鉱石でできたゴーレムのコアとした


コピーによるコピーの結果、ダガーのコアに生前の記憶はほとんどない

身に着けていた冥術の記録と、わずかな感情のみ

コアの能力のほとんどは冥術を基礎にした大量のゴーレムのコントロールに費やされ、もはやダガーの人格は存在しないに等しい


だが、それでもなおレッドゴーレムは殺意を露にする

それは操縦者であるアバカスの意志を受けているからか、いやそれだけではない

ダガーの殺意は鉱石に成り果ててなおリンファに注がれていたのだ




―――――――――――――――――――――――――――――


レッドゴーレム操るひときわ大きなレッドゴーレムが吠えると、辺りの動かなくなったレッドゴーレムたちから更に瘴気が立ち上る

その瘴気が集まり、赤い鉱石の上にまるで黒い皮膚の様に貼りつき、ゴーレムを黒く染め上げた



「あれは……ダガーが使っていた冥術……?」


アバカスの操るゴーレムが黒く染め上がり、ブラックゴーレムとなる

爬虫類の様な質感を持つ不気味な黒い皮膚が、燃える戦場にヌラヌラと輝いた


『ゴブリンハーフ……貴様を殺したいとコイツも……ダガーも言っているよ 私もゴブリンの生き様を軽んじた貴様を殺したくてしょうがない……!』


表情のなかったレッドゴーレムに黒い皮が張り付き、仮面の様な表情が刻まれる

それは憤怒と形容するほかない、不気味に歪んだ三つの目がギョロリとリンファを見つめていた



ブラックゴーレムはその手を振り上げ、何かを投げ込むかのように一気に振り下ろす

その手から放たれた黒い塊は即座に硬質化し、漆黒の槍となってリンファに撃ち込まれる



リンファはその攻撃を半歩動いて打点をずらすと、その槍の横っ腹に金剛鉄山靠を叩き込み粉砕させる


リンファの背中にはアグライアとステラがいる

ステラはアグライアの治療に集中して動けないことを感じていたリンファは、後退も回避も選択する気はなかった


『やはりその程度はかわすか…… だが今度はそうはいかんぞ』


ブラックゴーレムが詠唱を始めると、その姿が空気に溶けるように消えていく

それと同時に多数の鉱石兵も同じ様に姿を消した


ぐじゅるぐじゅると音を立てる闇の口以外に誰も居なくなり、戦場には静寂が訪れる



『これまでの不可視とはわけが違うぞ……姿だけではなく、音も匂いも全て消す、存在そのものを消し去る魔法……ダガーの冥術と神聖魔法を組み合わせた特別製だ!』

アバカスはそう考えながらリンファを鉱石兵と共に囲む


いつ襲われるかわからぬ恐怖に隙を見せたところを撃ち込み、必ず殺す

アバカスの見えない殺意がリンファを狙っていた




その光景をみてアグライアが違和感に声を上げる


「す、姿だけじゃない……、音も気配もなくなっている……これじゃ本当に消えたようじゃないか!」

リンファの危機を感じ取ったアグライアが立ち上がろうとするが、それをステラが前足で抑え込む



「動いてはなりません! 今のあなたには魔力も体力もほとんど残っていないのです、行ってなんになりましょうか!」

「あの姿を消す魔法は回復魔法を唱えれば解除できるんだ! 魔法が使えないリンファじゃ解除できない!」


なおも必死に動こうとするアグライアを子犬を押さえるように前足で包み、ステラは言った



「大丈夫です、あの子を信じて見ていなさい」









闇の口の不気味な水音以外何も聞こえなくなる戦場でリンファはいつも通りの構えを作る



「姿が見えなくなる……か」


リンファはそういうと、フフっと笑う

なるほど、ダガーらしい

しかも今度は限定的なフィールドではなく対象そのものを消し去ってきた


それも一撃必殺の腕力と無数の魔法を使える多数の敵の姿が視認できないのだ

通常であればそれは恐怖であり、絶望だったろう


だがリンファの表情に恐れはなく、いつも通りの少しだけ真剣な表情のまま




リンファは構えたまま辺りを窺う

ブラックゴーレムたちは何もしかけてこない


何かいるのに何もしてこないという状況は焦りを恐れを生むことをリンファは知っている

そしてそれを敵が狙っていることも



そんな時リンファは構えを解き、不用意にもゆっくりと歩きだした



一歩、二歩、三歩……


四歩目に差し掛かる瞬間、その前に出した足をそのまま踏み込みに切り替えリンファの拳が虚空に直撃し鉱石兵を打ち砕く!


「次……!」


リンファはその拳を引きながら肘打ちに切り替え、背面の虚空に炸裂させる

そこには斧を振りかぶり今まさにリンファの脳天を打ち砕こうとした鉱石兵がその肘を受け崩れ落ちた



リンファはその肘を撃ち込んだ瞬間、手のひらを前面に向けて螺旋の動きにて虚空を捌く

すると何もなかったリンファの手のひらに炎の残滓が沸き上がり、その威力を失い消失していった



「あの時より確かに進化してるね、撃ちだす魔法も消せるのか……でも!」


リンファはなおもなにもない空間をまるで明後日の方向をさまようかのように歩を進め、その虚空を撃ち敵を破壊していく

闇の口もリンファの命を狙って襲い掛かって来るが、もはやリンファにとって敵にはならない



本来姿の見えない敵を相手にするのなら見えない恐怖に震えるはずが、その戦場では状況が逆になる

かくれんぼで隠れているとき、隠れ場所を理解したうえで迫る鬼ほど怖いものはない



姿を消したものが姿が見えなくなっているはずの相手の挙動に恐れるという状況になってしまったのだ



鉱石兵は動きが鋭くとも生前の様に感情があるわけではない

だからこそ、今この状況に恐怖による判断の変更や躊躇が発生しない


「リンファには自分達の姿が見えていない」という考えのまま戦う為、その前提が覆った今ではそれが全て不利になる


見えていない相手だから正面から撃ち込む、見えていない相手だから一斉に襲い掛かる

それらは全てリンファにとって見え見えで、カウンターの的にしかならなかった


魔法が使えないリンファだからこそできる『魔力を視る』という技の前では、敵の動きはもはや闇夜で輝く蛍と変わりなかったのだ


虚空に潜む鉱石兵を次々と破壊するリンファ

姿も音すらもない炎や雷がリンファの手のひらで踊り、そして消えていく


次々と砕ける鉱石兵、そしてその中からは息絶えたゴブリンが現れる

皆苦しそうに、苦痛の表情で絶命している


空から降り注いだ命鉱石の弾丸は、ゴブリン達に覚悟の瞬間すら与えなかった何よりの証拠だった




「っ!させるか!」

リンファはそういうと突如背面を向いて電光箭疾歩を撃ち込む


姿を消したままアグライア達を狙おうとした鉱石兵の脊髄を打ち抜き、そのまま周囲の鉱石兵も破壊する



「アグライアさん!ステラさん! 絶対にそこには行かせないから! 治療に集中して!」


リンファは複数の敵を打ち砕きながら声を上げる


アグライアはリンファのその様にただただ驚くばかりだった


「あいつ……元々強いとは思っていたけれど、ここまで……!」

「あの子は気づいたのですね……、本当強い子」

「……一体、何に気付いたというんだ?」



ステラは目を細めて笑う





「愛される責任、ですよ」








アバカスが業を煮やして爆雷魔法を詠唱

命鉱石の塊を媒介にした高純度の爆雷が勢いを増し、一気に撃ち放たれる



アバカスはこの攻撃をリンファは回避すると読み、その瞬間を狙う


だがリンファはその迫る爆雷を前に小さく息を吸い込むと、爆発させるように息を吐きだし双掌打を爆雷に叩き込む!


リンファのこの世に顕現できない体内の魔力が爆雷魔法に共鳴し、爆散する

爆発と共に豪熱を発生させながら噴きだす煙が一気に立ち上る


アバカスはその想定外の動きに躊躇し一瞬動きを止めると、その隙を逃さずリンファが電光箭疾歩にて撃ち込む


間一髪でその拳をガードする腕にヒビをいれられながら、アバカスはその声を隠すこともなく叫んだ


『か、かわしもせずに弾き飛ばすだと!? 命が惜しくないのか!?』




リンファはその言葉に少しだけ笑いながら応える

「命は惜しいですよ……だからかわさなかったんだ!」



その背中に大事な人がいるから、リンファは敢えて受け切った

爆雷に打ち勝ったその手には、美しい銀毛がたなびくグローブが輝く―――――



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