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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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216/256

216.頼もしい背中

あの子の背中を見たのは随分と久しぶりだった気がする

その背中は傷だらけで、ボロボロで…… けれど雄々しく、たくましい


そんなことを思いながらアグライアは緊張の糸が切れたように体中の力が抜け、地面に倒れこみそうになる


「アグライアさん!」


リンファは滑り込む様にアグライアに駆け寄って倒れこむその体を支える

気温もあるだろうが血を失ったその体はとても冷たい


「あぁ、こんなにボロボロに……ごめ……」


ごめんなさいと言いかけてリンファはその言葉を必死で飲み込む

謝るべきではない、そう感じたから



アグライアの体を支えた時、その手にしっかりと握られている何かにリンファが気づく

意識を失いかけてもなおその手は固くそれを握りしめる


アグライアはこんな状態になってなお、みずからの鎖で縛りつけた旗をその手で握りしめていた


そしてリンファはその旗に書かれた言葉に全身の血液が沸騰するかのような怒りを覚える


『この旗が倒れる時、穢れの首は吊るされる』



「こんな……こんな物で……アグライアさんにひどい目をあわせたのか……!」


リンファはその固く握られた手を優しくほぐし離してやると、その旗を掴み取る


その旗は血で染まり、アグライアが握りしめていた辺りには幾重にも傷がつく

けれどその旗に土はほとんどついていなかった



「アグライアさん、ありがとう もういいからね」



そういうとリンファはその旗を放り投げ、その瞬間アグライアを抱き支えたまま強烈な回し蹴りをその旗にお見舞いする

旗は吹き飛ぶことすらできず、空中で火薬でも仕込まれていたかのように粉々に砕け散った




『リンファ、その人間をこちらに……まずは傷を塞ぎましょう』


「はい、わかりました!」


リンファはその言葉に力強く返事をした

その声の正体は――――




――――――――――――――――――――――――――――――――――



神代王は旗が倒れた報告を聞き、鼻で笑った


「ミアズマ、あの小娘が倒れた 手筈通りにゾンビにせよ」

「承知いたしました」

「傷をつけるなよ、あの穢れの前まで連れて行かなければならない大事な座興の道具ぞ」

「心得ておりますれば……」


神代王の命令にミアズマはいやらしく笑いながら応える



「粘ってくれた分だけ、座興が盛り上がるというもの……」

ここにきてわずかに神代王は楽しそうな表情をわずかに浮かべる

その時、焦ったように一人の兵士が神代王から少し離れたところで膝をついた



「なんであるか、話せ」

「はっ! お、恐れながら……断罪の丘よりの緊急の連絡にて、その……異形の穢れが逃げたと!」


その言葉に神代王の眉がピクリと動く

「ほお……ここに来る気か、哀れな、あまりに遅かったわ」

神代王はリンファの動きを思い、小さくため息をつく


断罪の丘からここまでどんなに急いだとて二日はかかる、着いた頃にはすべてが終わっている

「全く最後まで興を覚まさせてくれるわ……、捕獲はしなくともよい、監視に留めよ」

「そ、それが……」



兵士は恐る恐る報告の続きを話し出す

神代王は最初は興味なさそうに言葉を流していたが、徐々にその内容に眉を吊り上げ……やがて持っていた杖を力任せにへし折った



「ひ、ひぃっ!?」

兵士が神代王の怒りに恐れおののき地面に額をこすりつける


神代王は荒ぶった自らの表情をゆっくりと戻すと、吐き捨てるように呟いた



「駄犬風情がふざけおって……!」





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


暖かい毛皮に包まれている様な心地よさを感じる


目を覚ました時、自らの状況が理解できないアグライア

ここは遥か北の雪深い山中の戦場


暖かさも柔らかさも、ましてや安らぎなど無縁の世界に自分は居たはず

もしかして死んでしまったのかと思ったが、手足の感覚はある


それどころか傷の痛みが和らぎ、気力すら戻っている気がする


何が起きているのかわからない、そう思いながらその身を動かそうとしたときに気付く



その手に旗がないことを


それに気づいて飛び跳ねるように起き上がったとき、不意に声がした


『まだ起きてはいけません、人間よ もう少しで傷が塞がるから待つのです』


「え……? こ、これは……」



アグライアの目に映った者はさっきと変わらぬ戦場、そして……

この地と泥で汚れた大地にはあまりに目立つ、美しい巨大な白銀の狼


アグライアをすっぽり包む混むほどの巨大な狼が、その巨躯でアグライアを包み治癒魔法を唱え続けていた





「あ、あなたは……ステラーハウル……!」

「久しぶりですね、間に合ってよかった」


そういうとステラはアグライアの傷ついた頬を優しく舐め、傷をいたわる



ステラは遠い棲家から人間とゴブリンの戦いをずっと見つめていた

雪と氷を操るステラは元々北の大地の生まれだったが、別種族との戦いなどに加担するつもりはなかった



だが、断罪の丘で魔力を揺り動かすような覚えのある衝撃を感じ、その鼻を鳴らす

そこにはあのリンファが必死に走り、北を目指そうとしていた



ステラはそれを感じ、リンファに迫る人間を蹴散らしここまでたどり着いたのだ



「り、リンファは……!? リンファはどうしましたか?」

その言葉にステラは目を優しく細めると、その鼻を向けて指し示す


アグライアがステラの示す方向に目をやると……居た




リンファが居た





燃え盛る樹々、轟く悲鳴、地獄の様な戦場に

まるでそこだけは蒼天の様に輝くリンファの姿がそこにあった





「り、リンファ……、リンファ――――!」


アグライアはその姿を視界に映すと、思わず叫ぶ

リンファはその声が耳に入るとすっと振り向いて優しく微笑んだ



次の瞬間、一閃が走る

リンファの体を横一閃に薙ぐ斬撃が走り、その振り抜きは風を呼ぶほど


だがリンファの体はまるで蜃気楼の如く消え去るかのようにそれをかわすと、即座にその斬撃にカウンターを叩き込んだ!


【八極剛拳 白虎双掌打】


斬撃で伸び切った腕を跳ね上げるようにリンファの掌底が炸裂し、漆黒の甲冑ごしに衝撃が本体に伝わる

その威力のすさまじさに黒い死神は思わず緑の血反吐を吐いた



「ぐっ……!?」

「まだやるか……!? だったら次はもっと痛くする!」


リンファはそういうと強く震脚を踏み込み、戦場を揺らす

その踏み込みの音は山全てに響き渡り、まるで大地が鳴いている様ですらあった



「やはり強いな……リンファ……!」

「あなたもね……リーフ……」



黒い死神はリンファの名前を呼ぶと、リンファもそれに応えリーフの名前を呼び返す



「リンファ、気を付けろ! そいつは恐ろしく強い……!」

黒い死神……リーフを睨みつけたまま、背中越しにアグライアの言葉に親指を立てて反応するリンファ


「大丈夫、僕は負けないよ…… 絶対に!」


リンファはそういうと構えたまま魔導発勁を練り上げる

冥力に侵されたはずの大地がリンファの決してこの世に顕現できない魔力の響きに共鳴し唸り声を上げた



「どいてくれリーフ 僕はアグライアさんを安全な場所まで連れて行くんだ」

「生憎とそうは行かんな、人間は皆殺しにさせてもらう」


その言葉にリンファは少しだけ驚き違和感を覚える


「皆殺し……!? 君はそんなことを思うようなゴブリンじゃなかったはずだ」

「お前こそ、母に刺されて失意に塗れていたはずだろうに……なぜそんな希望に満ちた目をしていられる?」



お互いがお互いに違和感に感じながら、構えを作る


その時、辺りの空気が一変する




「こ、これは……!?」


「そうか、さっきの命鉱石はこれか……馬鹿な真似を……」




リンファの生命力を感知したかのようにゾンビと闇の口が集まってくる

それらは互いに争い傷つけあいながら、喰いあうように集結する



そしてその大量の化け物たちの中に、ひときわ異質な存在が迫る



赤い鉱石がまるで病気のように体中に散らばり、皮膚と皮膚の間に隆起し赤く光る

肉の間に石があり、その石は触手の様な何かを侵食させてその宿主の体を食い荒らし動かす



怒りや恐怖も、感情すらもなくしただその体を命令通りに動かし殺戮を繰り返す



「ゴブリンを鉱石兵に変えたか……クイーンめ……!」

リーフは恨めしくその近づく赤いゴブリン達を睨みつける










大量の死兵と闇の口、そして鉱石兵……

夥しい数の脅威がリンファ達に襲い掛かろうとしていた



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