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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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214/258

214.北へ

リンファの駆ける脚は馬よりも速かった

大地を蹴る足は土を抉り、街道を砕く


けれどどんなに速くとも、北の大地にはあまりにも遠い



そしてリンファ以上に人間の対応は早かった

断罪の丘の兵士は自らの失態を隠すことなく迅速に王都全てに向けてリンファが脱獄したことを通信魔法にて緊急報告


リンファが向かう北の大地までの各所の兵士がその報を受けて慌てて捕獲しようと武器を構えるが、目の前に立ちはだかる兵士に対しリンファは兵士を傷つけることなくかわし、いなし、すり抜けて走る


だが立ちはだかる兵士の数は多く、如何にリンファと言えども何度も入る邪魔に速度は落ちていく



だがもうリンファは泣きごとも言わない

ただまっすぐに、まっすぐに北を目指す


一刻も早く、速度を上げて駆ける



だが、その道はあまりにも果てしない



十度目の兵士からの妨害をかわした頃、不意に天が曇る

蒼天が陰りを見せ、その空気が冷たく凍った



その凍てつく空気の中、リンファを妨害する兵士は容赦なくその武器を奮い魔法を放つ

リンファはその全ての攻撃をさばき、かわし進む


ただ、ただ前へ

回り道なんてしない

アグライアが戦う戦場へ一直線に進む


凍てつく空気はやがて雪を呼び、白銀となる

まだ北は遠いはずなのに、さっきまで陽光溢れる蒼天だった空が白く凍っていった

リンファの行く手を阻む兵士はその天候の変化に戸惑うが、リンファには関係ない


「邪魔しないで! 僕は止まらないから!絶対に止まらないからなぁ!」



リンファの叫びが白銀の空に冴えわたり木霊する

それはまるで狼の咆哮の様に――――――――――――





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





北の大地は赤と緑の血に染まった


一時はエタノーの城下町まで進軍したゴブリン達だったが、倒したはずの全ての人間がゾンビ……死兵として強襲

最悪の形で後方からの不意打ちを許したゴブリン軍はその迫り来る軍勢を押し返す形で戦場を再び北の山地で展開



だが、その戦場はそこからが地獄だった

死兵は生きている者に比べて力も弱く、知恵も働かず、脆い

武器の使い方もまともではない脆弱なゾンビたちをゴブリン達が撃ち払い斬り捨てるのは容易だった



だが、斬り捨てたところでそれは徒労に終わる


胴と腰が別れ大地に斃れようとも、その断面から瘴気が噴きだしてまるで手をつなぐように瘴気が別れた体を引き合い、接合する

そしてその不安定な体を揺すりながら再度斬り捨てたゴブリンに襲い掛かって来る



何分割に切り刻もうと、ミンチの様に粉々にしようと、すりつぶしても無駄だ

黒い瘴気が肉片を包むと繋がりあって形を作る

それはもう、人間の形をした赤黒い肉の塊


瘴気でつながりあう肉片は自分がどこのパーツだったかなんてもう覚えていない



炎で焼いても炭化した人間が焼けただれたその体で掴みかかって来る

凍らせたところで死兵は自らの体を焼き、あるいは千切って襲い掛かって来る

決して死なない、決して止まらない


ゴブリンは恐怖した

人間の形をした化け物に恐怖した



斬っても焼いても死なぬ人間にゴブリンはなすすべもなく敗走を試みる

だが皮肉にも自らが撃ち倒してきたあまりに多い人間だったものがその進路を塞ぎ、さらに神代王の力で正気を失った数百の兵士が我が身を捨てて猿叫を上げて襲い掛かって来る


捨て身で襲い掛かって来る熟練の兵士を例え殺したとしても、即座に死兵として立ち上がる

その繰り返しに、もはやゴブリンが正気を失うのも無理らしからぬことだった


ゴブリンたちの強力な兵器であったはずのレッドゴーレムも、死兵の前には相性が悪かった

その腕力に物を言わせて破壊したところで肉片がその巨大な腕にへばりつき身動きを奪う

まるで肉の塊に捕食されるかの様にレッドゴーレムは大地に沈められていった



闇の口は白い歯が見える巨大な口で死兵を執拗にかみ砕くが、その咀嚼されている口の中で瘴気が肉片を繋ぎあう

数多くいたはずの闇の口は死兵に噛みつくたびに相打ちになったかのようにその場で肉片と絡まりあい、行動不能に陥った



もはや軍勢とすらも言えない人間達の凶行にゴブリン達は戦意を失い、その統率は失われかけた

だがその時、ゴブリンクイーンからの命令が城中を駆け巡った



「命鉱石を撃ちなさい」

アバカスはその言葉に耳を疑った


「今……今なんとおっしゃいましたか?」

「聞こえませんでしたか? もう一度言います、よく聞きなさいアバカス」



ゴブリンクイーンは口元を抑え、目を伏せて言った


「戦場のレッドゴーレムは破棄、動かせるものはその場で焦熱魔法に変換し人間を消し炭になさい、そして即座に命鉱石を射出」


クイーンの言葉にアバカスは肩を震わせる

だが胸中に浮かんだ言葉は決して口にはできない

奥歯を噛みしめたまま、クイーンの言葉に膝をついた



「命鉱石を同胞に撃ち込み、鉱石兵となさい」


クイーンの伏せられた口元は静かに笑っていた


笑いながら、クイーンはゴブリンにゴブリンを殺せと命令した




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



神代王は戦場をみて退屈そうに目を細めたまま、わずかに笑った


「ミアズマ、死兵を集結させて前進させよ」

「御心のままに」


神代王の命令に何ら疑問を差し挟まず、ミアズマと数百名の呪殺士は死兵を動かす



大地は瘴気に染まり、冥力が渦巻く

土に残る魔力は腐り果て、冥術の力が増していった


神代王は戦場の空気を感じ取り、笑ったのだ



「ゴブリンどもめ、何かを企んでおるな……」

神代王はそういうと空を見つめる

さっきまで不愉快なまでに青かった空は曇天に包まれ光を無くす

その光なき空に、赤い雨の様な何かが降り注ごうとしていた





神代王は微かに笑う

精々楽しませろと言わんばかりに、微かに口角を歪ませた




死兵の群れは進む、北に向けて――――――――――――――――






――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




赤い血と緑の血が泥で交わる悪夢の様な戦場の先端にて、一本の旗が未だに翻る

曇天の空においてもなお目立つその旗には鮮やかな文字が刻まれている


『この旗が倒れる時、穢れの首は吊るされる』




アグライアはその旗を体に巻き付けるようにしがみつき、既に折れた剣をその敵に構え浅く息を吐いていた




腕は折れ、足は挫いた


もはや気力以外に何も残っていないその体を必死に奮い立たせ、その旗を掲げる



アグライアの周りは突如として爆炎を吐き出したレッドゴーレムの影響で、あちこちで火の手が上がる

樹が燃え、草が焼け、大地が焦げる


炎に包まれた死兵がそれでも獲物を求めてさまよい、燃え盛る戦場を這いずり回る

ゴブリンの叫び声と闇の口の笑い声が響く


赤く燃える森、黒く腐った大地、光を失う空





そして傷だらけで折れた剣を構えるアグライアに、その騎士は太刀を抜きながら言った



「どの最期を望むのか言うがいい、選ばせてやる」




炎に照らされて、髑髏のレリーフが怪しく輝く

黒い死神はそれだけを言って静かにその柄を柔らかく握り抜刀の構えを取った






アグライアの浅い呼吸だけが、混乱の戦場に虚しく響く―――――


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