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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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212/258

212.朋あり遠方より来る、そして

「ほ、本当だ……天空宰相の実印がある……、でもこんな異国民がなんで……」

「あ! そういうこと言うんだ!? この飛翔島ギルドの冒険者にして天空宰相の部下で特に優秀と言われたオイラに! 無礼だなー!言っちゃうなーボスに報告しちゃうなー!」


1キロ離れていても聞こえるんじゃないかと思えるほど軽薄で適当に騒ぐ声が辺りに響く

リンファの見張りに当たっていた兵士達が書面を手にして困り顔で顔を見合わせ、一人がどこかに走っていく


「おいおいおいおい! この書類の文字がみえねぇのかい!? オイラこう見えても超多忙なのよ! こんなところでボーっと待ってられないのよ!」

眉をひそめて睨む兵士を煽るようにグリフは次々と言葉を重ねる

言葉だけではなく体を小刻みに揺らして手を動かして、兵士の前でまるで踊るようにしゃべり続ける



その声とその動きは離れているリンファの眼にもしっかりと映る

そんな変わらないグリフの様子にリンファは思わず笑顔を浮かべた





「お、おーい! いいぞ!通してやれ!ただし5分だ!それ以上は認められない!」


どこかに走っていった兵士が大声を上げながら手を振る

その返事にまさかと言った表情をした兵士の横を悠々とグリフが歩きだし、兵士の肩にポンっと手を置く


「まぁ? 人間? 間違いは誰にでもあるから? こういう無礼も寛大な心で許してあげるよ心の広いオイラはね」

「き、貴様……!」



露骨に不愉快な表情を見せる兵士の顔などもはや一瞥もせず、グリフは悠々と小走りで去っていく


グリフの後姿を歯ぎしりしながら睨んでいる兵士の元にもう一人の兵士が戻ってきた


「なんなんだアイツ! 異国の化け物みたいな風体の分際でこんな無礼がなんで許されてんだ!」

「落ち着け、今上司に確認してもらったが正式に発行された飛翔島からの通達だったってよ だから通すしかないだろ」


「でもなぁ! あんなふざけた奴がこの神聖な処刑場にズカズカと……」

「まぁそういうなよ、あいつは――――」










―――――――――――――――――――――――――――――




「よぉリンファ! 結構いい部屋じゃん、家賃いくら? ちゃんと飯食ってるか?」

「ははは……グリフさん、お久しぶりです ご飯……最後に食べたのいつだっけ」

「そりゃよくねぇな、でもまぁそうだと思って持ってきたぞ 雲菓子を水に溶いた飲み物、目が見開くくらい甘いからゆっくり飲めよ」



リンファの憔悴ぶりや傷など見もせずにグリフはズカズカと軽口を叩き、飲み物を差し入れる

少し遠慮しがちのリンファの手に強引に持たせると、蓋を外したうえでサッとその手を引っ込めた



「さっさと飲めよ、その水筒使うんだから」

「い、いただきます……」


水筒を使うなんて嘘だ

グリフは受け取った後で飲まないだろうリンファを気づかって飲まなきゃいけない状況を作ったのだ



一口飲み、喉が動く

それでもジッと見て来るグリフの眼をちらっと見ながら、2口3口と飲み、そして小さなため息をついた


「いい飲みっぷりだな、蓋しとけ あんまり一気に飲むと喉乾くから気を付けろよ」

「え、でも……水筒使うって……」

「へ? オイラそんなこと言ったっけかな、いや言ってねぇよ だから後でゆっくり飲め 水筒は逃げねぇから」

「勝手だなぁ……ありがとうございます……ふふふ……」




グリフのリンファを思っての軽い嘘が、リンファの黒い心に染みわたる

絶望的な気持ちは何一つ消えはしないけど、それでも少しだけ忘れることができる気がした



「でも……なんでグリフさんがここに?」

「おぉ、聞いて驚け! オイラ公務員よ! 今はファルネウス様の元でルカさんを上司にしてバリバリ働いてるんだぜ!」

「あはは……面白い冗談だなぁ」

「嘘じゃねぇって、即否定するじゃんお前」


グリフはあの一件でファルネウスから出頭命令を受けて飛翔島に帰還

一時期は刑罰の恐れもあったのだがアグライアやリンファからの書面、そしてギルドからの口添えもあり無罪放免

それどころか魔鉱石の取得についてグリフの知見が飛翔島の採取量を底上げすることになり、現在は本当に天空宰相の部下として働くに至ったのだ




「どうでもいいけどあの毛玉宰相スゲー人使い荒いんだぜ、猫の手も借りてぇよ」

「ファルネウスさん、貸してくれないですかね?」

「う、そういやあのおっさん猫だったわ……無理だろうなぁ」



何の意味もない他愛のない会話……それもグリフが一方的に自分の事を話すだけ

リンファに何があったのか、何を思っているのかを聞こうとはしない


リンファもグリフの話を遮ることなく相槌を打って、かすかに笑う

鉄格子を挟んで暗い檻にいることなんて忘れるように、軽口を叩きあう



ずっと続いてほしいと思っていた時間は、あっという間に終わる

少し離れたところで兵士が咳払いをし、グリフを睨む

グリフがそれに気づくと、兵士は顔の前でわずかに手を振ってこの時間が間もなく終わることを態度で表した




「やれやれ、お役所仕事ってのはお堅いねぇ こんな時なんだから少しはお目こぼししろってんだ」

兵士から視線を外すとグリフはわざとらしく舌を出して悪態をついた

リンファはその言葉に相槌を打つことはなく、無言でうつむいた




「まぁあいつらも仕事だもんなぁ、オイラもそろそろ本題に入るとするかぁ」

「本題……?」



グリフはそういうとゴソゴソとカバンからさっきより大きな水筒と、パンが包まれた袋を渡す


「このパンは本物だからな、ゆっくり噛みしめて食えよ」

「は、はい……? でも、水筒はさっき……」


いいかけるリンファの口元に手のひらを出して喋らないようにジェスチャーをするグリフ


「もし「なにか渡されてないか?」ってあのクソ兵士に聞かれたらこのパンとさっきの水筒を見せろ、今渡した水筒は見えないように隠しとくんだ」

「これ……一体……」



グリフはその言葉にニカっといたずらっぽく笑う

「3日後だ、3日後の夜になったらこの水筒を使え」

「三日後の夜……? これ何なんですか?」


少し大きな、でも何の変哲のない金属製の水筒

最初に渡されたものとわずかにサイズが違うだけで、大きな差はみられない



にも拘らずグリフはヘヘヘと笑い、周りに聞き耳を立てていない者がいない確認して小声で話し出す



「それの中身は転移術のスクロールと魔鉱石が入ってる、蓋を開けて『転移』って叫べば本人の魔力を使わなくても発動する特別製だとさ」

「えっ……!?」


水筒を見ながら驚くリンファに、なおもグリフは不敵な顔で笑いながら話し続ける


「ファルネウス様とヴぁ……なんだっけ? なんか偉い人がめちゃくちゃ手を回してお前が逃げられるように計画してくれたんだよ、だからもう大丈夫だ」

「そ、そんな……!」


どうしていいかわからずオロオロするリンファにグリフは笑う


「あんなわけわかんねぇ連中に絶対にお前を殺させたくねぇからな! だから絶対に忘れるなよ、3日後だ」

「み、三日後に何があるんですか……?」

「そのスクロールの転送陣はどっかの隠れ港につながってるらしい、元々亡命用?だったかな んで、そこに3日後、迎えの船が来るらしい」


まだ自体が飲み込めないリンファは、必死に話しを聞くので精いっぱいだった

そんなリンファの気持ちを汲み取ったグリフは、何度も何度も同じことを言う


「3日後に、中のスクロールを使って転移しろ お前魔法の耐性ないからしんどいと思うけど我慢してな このお迎えは非合法らしくて、待ち合わせ場所の日にちより早くいくと警戒して出てきてくれないらしい 絶対に守れよ! あ、でも……」


何かを言いかけてやめるグリフに、リンファは思わず聞き返してしまう

「でも……でもなんですか……?」


「……もしお前の処刑の動きが早まったら迷わず使え、そしたら飛翔島の誰かが次の策を考えてくれるはずだ 多分だけどルカさんが来る」

「早く……!? それに……誰かって……!?」


リンファの処刑が行われると言う事、それは……

それは……アグライアが死んだと言う事




そしてグリフは、『飛翔島の誰かが来る』と言った

自分が来るとは、決して言わなかった





さっきまであんなに軽妙に喋っていたはずのグリフが、今はこんなにも静かになる

ほんのわずかな沈黙のはずなのに、何時間にも感じられる沈黙が二人に流れた






――――――――――――――――――――――――――――――――――




「そういうなよ、あいつは……」

怒る同僚をなだめるように兵士は言った



「アイツは今から北の防衛線に参加するらしい……書面によると『友人との別れの挨拶の為便宜を図ってくれ』とのことだ、許してやれ」

その言葉に、あれだけ怒っていた同僚がバツが悪そうに舌打ちをして自分の頭を掻く



「そういうことか……」



つまりはまぁ、そういうことだ――――――


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