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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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204/256

204.回復と砂糖菓子

『戦場を恐怖に陥れた不可視の生物は回復魔法で見えるようになる』

この情報が噂で流れた時、多くの兵士は鼻で笑い信じようともしなかった



エタノー領の兵士はアグライアの部隊の怪我人を城下町まで連れて帰った後、この情報をヴァレリアに報告

ヴァレリアは手にしていた木材とノコギリを放り出して急いでマンダリアンの元に向かった



だが、それを聞いたマンダリアンは実に懐疑的な顔で「お前は何を言っているんだ?」という顔でけんもほろろな反応を示す

それでも必死に食い下がるヴァレリアだったが、マンダリアンは報告を受けたと言う事だけを記録に残してヴァレリアとの面会を終える



マンダリアンの元には既にその報告がアグライアと面会した魔法陸戦団の兵士から上がって来ていたが、その情報は部隊に共有しなかった

ゴブリンが神聖魔法を使うなどあり得ないし、ましてや回復魔法が不可視を解くカギになるなどあるわけがないからだ


マンダリアンが危惧したのはこの情報を元に『ゴブリン相手にまるで援護をするかのように治癒魔法を兵士が唱えていた』という噂が王都を駆け巡ることだ

自分の評価が下がることなどどうでもいいが、そんな話が神代王の耳に入れば兵士にどんな裁きが下されるかわからない



マンダリアンは頭を痛めながら、その報告書を握りつぶした




だが人の口には蓋ができないもので、その情報は瞬く間に兵士の間に噂話になっていく

その噂話を信じる者は当然いなかったが、皆が皆回復魔法のスクロールと魔石を後生大事そうに懐にしまう


信じてなどいない、けれどもしかしたら……

多くの兵士がお守りの様にそれを身に着け、次の戦闘に備える


誰しも怖かった

目に見えぬ何かが仲間を粉々にする瞬間が目から離れなかった

だから兵士の皆はそのお守りに縋るように懐に忍ばせたのだ






そんな不安を抱えたまま、突如として戦闘は再開される






日の出前の薄暗い中、ゴブリン達が進軍

前回と同じ陣形で、不自然な空間を開けたまま多くのゴブリンが人間に迫る



多くの兵士たちが震えながら武器を握る



姿の視えない不気味で巨大な敵

どこからともなく襲い掛かる自由に飛び交い襲い掛かる意思を持った魔鉱石




傷もまともに癒えぬまま、怯えながらその進軍を食い止める魔法陸戦団


初戦と同じ様に謎の攻撃に多くの兵士が死に、謎の防壁に攻撃を防がれる

そんな絶望の中、それは起きた




「見えた……見えたぞ! 敵が見えたあああああ!」



大声で叫ぶ兵士の目の前に、今まで戦場に存在しなかったはずの不気味で巨大な岩人形がそこに立つ

傍に立っていたゴブリンは狼狽し、岩人形は何が起きているのかわからないように呆然と立ち尽くす



魔法陸戦団……人間の兵士は歓喜した

歓喜と共に、いいようもない怒りと憎しみが沸き上がる



姿の見えたゴーレムに、魔法陸戦団が一斉に業火の術式を展開し飽和火力でゴーレムを傍にいたゴブリン諸共焼き払う

さっきまで効果なく弾かれていた業火の魔法にゴーレムはのたうち回り、やがて動かなくなる



作戦も何もなく無我夢中で攻撃を繰り出した兵士はその光景に一瞬呆然とし、やがて我を忘れたように歓喜の雄たけびを上げる


「不可視の敵の正体は噂通り回復魔法で看破できる」

「不可視が解けた敵には魔法攻撃が通る」

「追従のゴブリンを無力化すれば敵の動きは止まる」


そんな不確定な情報が一気に戦場を駆け巡り、人間側の反攻が一気に激化


お守りの様に携えた魔鉱石を夢中で投げつけ、回復魔法を叫ぶように唱える

たったこれだけの事で敵が一気に弱体化し、傍にいるゴブリンは一目散に逃げ始める



初戦であれほど不気味で強敵だったゴブリン共が腰砕けに逃げていく

コチラの攻撃が面白い様に通用し、敵はまともに反撃はできない



姿が見えなかった不気味な存在も、正体を開けてしまえばただの木偶人形

どんなに威力が高かろうが当たらなければ大したこともなく、また大して頑丈でもない


この程度の奴らにしてやられていたことに怒りを覚えながら、魔法陸戦団の兵士は雄たけびを上げる




総指揮官のマンダリアンが前線の戦果を目にするのは、この事実から数時間後だった


ヴァレリアやアグライアから受けた報告とは違う状況であることに気付くのは、それよりももっと後だった……



――――――――――――――――――――――――――




「待て! ゴーレムに近づくな!」

アグライアは動かなくなったゴーレムに追撃しようとした隊員に慌てて声を掛ける


「どうしてですか!? 今がチャンスじゃないですか!」


「前回と明らかに挙動が違い過ぎる、弱すぎるんだ」


アグライアは血気はやる隊員を咎め、慎重にゴーレムを観察する


「変だ……腰にあった紋章の様な印がなくなっている」

前回死闘を繰り広げた際、やっとの思いで破壊したあの紋章がこのゴーレムには見当たらない



「紋章……?」

「そうだ、あの時このデカブツはそれを破壊することで無力化した、でも今回は不可視化を解除しただけで明らかに動きが鈍った」


アグライアはそう言いながら辺りを見回す

「前回の戦いで随伴のゴブリンは命を懸けてまでゴーレムの弱点をかばったにも拘らず、今回は大した抵抗もせずに逃げ去った」



咥えたばこの男が周囲を警戒しながら背中越しにアグライアに話しかける

「どっかに潜んで不意打ち狙ってるかと思ったんすけど、そんな感じもないっすね……本当に逃げ出したみたいです」




グレイとジョンが盾を構えたままアグライアの傍につく

その胸にはまだ痛々しい傷が残っており、わずかに包帯から血が滲んでいた


「どうしますか…… 動くかどうかわからないこのデカブツを放置するのも怖いところではありますが」


「そうだな……」


アグライアは隊員全員の状況を確認しながら思案する


「……このまま移動しよう 魔法陸戦団の戦線も進軍もないようだしここから離れて他のゴブリンと接敵しよう」


全員に目立った被害もないことから、アグライアはここからの離脱を決断





「このゴーレムをできるだけ街や戦線に近づけさせずに少しでも遠くで無力化させておこう、何か嫌な予感がする……」



アグライアの決断に、隊員は皆うなづいた




――――――――――――――――――――――――――――


アバカスは作戦室の椅子に座りながら、焦点の合わない瞳で天井を眺める


アバカスの視界に映る多数のゴーレムの視界が次々とブラックアウトしていく

にも拘らず焦るそぶりすら見せずに、淡々と指示らしき何かを呟く


「人間が不可視ギミックを解除したな、全員撤退」

「ゴーレムは破棄、不可視化が解除になった時点でゴーレムの操作はシャットダウンされる 撤退の援護はできないから急げ」



その指示を飛ばすも、虚しく多くのゴブリンが人間の手にかかり殺されていく

戦争だ、仕方がないと割り切りながらもアバカスは胸を痛める



だが、それは犬死ではない

アバカスは祈るようにその言葉を呟き続ける



そしてアバカスは上空に待機させていた命鉱石の視界にリンクして戦場を眺める



各所で戦火の煙があがり、人間共の気色の悪い雄たけびが聞こえる

そして多くの人間達がゴーレムに群がる


さらにいくつかの集団が、動かなくなったゴーレムを色めき騒ぎながらロープに括りつけてけん引を始める

まるで砂糖に群がる蟻の様に、人間達は自らの巣穴にゴーレムという名の砂糖菓子を引っ張っていく





それを目の当たりにしたアバカスは曖昧な目で声を上げて笑う

傍から見れば正気を失ったかのように、けたたましくアバカスは笑った



やがて空に浮かぶ命鉱石以外の視界がブラックアウトし、何も見えなくなる

アバカスはそれを確認すると全てのリンクを解除し、嘔吐しながら笑った





人間とはなんと愚かなのだと、心から嗤った







運ばれるゴーレムは何も語らず、ただ地面にその跡を残すのみ


その跡はまるで導火線の様に、不気味に地面に刻まれていった―――




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