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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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201/256

201.黒い死神

遠くで立ち上る炎に照らされて、黒い甲冑が不気味に輝く

大きく反り返った不気味な刀身が闇夜にまるで三日月の如く浮かぶ


なによりその兜の面には、髑髏の様な意匠が埋め込まれていた


「く、黒い死神……?」


アグライアは思わずそんなことを口走る

戦場であることを加味してもあまりにそいつは不気味で、そいつは奇異だった




炎に照らされながら、死神は刀に着いた血を払う

ビシャリと嫌な音を立てて刀に着いた血が白い雪に染みを作る


「くっ……! 総員、攻撃に備えろ! こいつはなにかやばい……!」


アグライアがやられた仲間を悔しそうに見ながら全員に号令をかける


黒い死神は集まってくる人間達に警戒しようともせず、ゆっくりとその人間達を見回してわずかに首を傾げた


構えもせずに刀身を地面につけたまま立ち尽くす死神相手にアグライアと全員が息を呑む

明らかに他のゴブリンとは違う空気、立ち振る舞い


死神は首を傾げたままこちらを見つめると、右手に持っていた何かを無造作に地面に投げ捨てる


いくつかの大きな果実の様な何かが雪に投げられ、その一つがアグライア達に向かって転がる

そしてその何かの正体に気付いた時、全員が息を呑んだ


アグライアはその転がった何かと 目が合った

半眼で口をわずかにあけているそれは、まだ何が起こっているのかわからないような呆然とした表情で


魔法陸戦団の兵士の首が、アグライアを呆然と見つめていた




「う、撃てぇ! 全員集中砲火!」


アグライアはセイクリッドチェーンを三方向から同時に射出しながら叫ぶように指示を放つ

全員その言葉を聞くや聞かざるやというレベルのタイミングで一斉に氷柱を逃げ場がないほど大量に撃ち込む


死神は首を投げ捨てて自由になった右手をゆっくりと鍔側の柄に手をかけると、自らに迫る全ての攻撃をゆっくりと見つめ



その全てを半歩進むだけで回避した



「え……?」

魔法を撃ち込んでいる隊員の一人が思わず声を漏らす

絶対に当たるタイミングで逃げる場所のない攻撃だったはずなのに、まるで実体を持っていないかのようにその死神はその集中砲火を回避


何が起きたのかわからないけれど、半歩進んだだけで攻撃を避けられた

そう形容するしかない動きで死神はゆっくりとその足を進めた



「ふ、ふざけんなよおおお!」

泣きそうな声で咥えたばこの男が叫び、更に集中砲火を続ける

だが死神は歩く速度すら変えずに悠々と近づいてくる

アグライアはかわされたチェーンを操作し、死神の背後から再度拘束を狙う


猛烈な勢いで死神に迫るセイクリッドチェーン

だがその光の鎖は死神の背中にたどり着く寸前、粉々に切り刻まれ散っていった



突如として鎖の手応えが消えたことに驚いたアグライアだったが、即座に盾を前面に構えながら剣を抜き放つ


それでもなおフラフラと近づく死神に、アグライアは素早く詠唱し光の弾をその眼前に発射

死神がその弾に反応する瞬間、アグライアは盾を構えながら叫んだ



「全員、閃光に備えろ!」




死神が顔をわずかに上げた瞬間、アグライアの放った閃光弾がその眼前で炸裂!

光の渦に飲み込まれる死神に向かってその隙を逃さずアグライアとグレイ、そしてジョンが多方向から同時に飛び掛かった



両側面からグレイとジョンが、そして正面から盾を構えて突進するアグライア

この機会を逃すまいと全員が半ば捨て身の勢いで攻撃を仕掛ける!


光の中心で何も見えないはずの死神の体がわずかに揺れる

そしてその光を裂くように、さらにまばゆい光が輝いた


そしてその光が3人の体を通った時、全員の時間が止まる


アグライアの放ったまばゆい閃光弾がその力を無くすと同時に、ジョンとグレイが糸の切れた人形の様に地面に崩れ落ちる


そしてアグライアの……




アグライアが正面に構えていたミスリルの盾は、音もなく真っ二つに切り捨てられた





「そ、そんな……」

アグライアはあまりの事に我を一瞬忘れるが、即座に死神を睨みながら斬撃を繰り出す!


死神はアグライアの斬撃を避けようともせず、手元をわずかに揺らす



【北天一刀流 鷹翼落】



刹那の瞬間、振り下ろしていたはずのアグライアの剣が更に上からの振り下ろされる斬撃に刀身を粉々にされる



『やられる―――!』



アグライアがそう思った瞬間、周囲の隊員から援護の魔法が撃ち込まれる

それは致命傷にこそならないだろうが回避が困難な電撃の魔法


だが死神はその電撃を片手で全て受け止め、雑に振り払う

その手の甲には血の様に赤い命鉱石が埋め込まれており、小さな障壁が展開されていた



「こ、このぉ!」


アグライアはその機を逃さず手にしていた刀身を失った剣を死神に投げながら間合いを開けると、腰に携えていた短剣を構え詠唱

剣に光の属性を付与し、わずかに刀身を伸ばし再度死神に構える



死神はアグライアを見ながら刀を振り上げる

するとその刀がみるみるうちに不気味に硬質化していき、不気味な生物の様に変質していく!


「なっ……! み、みんな逃げろぉ!」



遅い。


そう言わんばかりの勢いでその刀から発生した化け物のような何かは弾けるように一気にその硬質化した鋭い牙の様な攻撃を周囲に伸ばし、全員を貫き無力化させた


「ぐあああ!」

周りにいた隊員が絶叫を上げながら次々と倒れていく

辛うじて息はあったが、全員が体中から血を流し雪に覆われた大地を赤色に染めていった




わずか数分の間に孤立無援になったアグライアはそれでも構えた短剣を下ろさず、死神を睨みつける

勝ち目のないこの状況でなお剣を構えるアグライアを、死神は感情を見せずにその姿を見つめた




仲間を見捨てるわけにもいかないし

そしてなによりこの戦場から絶対に逃げるわけにはいかない


もし自分がここから退けば、掲げた旗を降ろせば

リンファが明日にも吊るされる

絶対にそれはさせない、例え両腕が斬り捨てられても噛みついてでも戦って見せる……!

リンファを……



「リンファを殺させるわけには行かないんだ!」


アグライアは己の決意を思わず叫ぶ



その言葉を聞いた瞬間、死神が弾けるように一気にアグライアとの距離を詰める!

そのあまりの速さに一瞬反応が遅れるが、それでも懸命にアグライアはその短剣を死神に向かって突いた


だがその短剣は一瞬の間に刀身ごと切り落とされ、死神のドクロがアグライアに迫る

一撃を覚悟し目を見開くアグライアの眼前で、死神の髑髏が止まり、その隙間から赤い瞳が不気味にアグライアの目を覗く


そしてその髑髏の奥から、死神の声がアグライアの耳に届く



「リン……ファ……? リンファは……私の……」



その言葉にアグライアが目を見開く


「り、リンファを知っているのか!? お前は一体……!?」


慌てて問いかけるアグライアだったが死神はそう言ったきり口を閉ざし、その刀を鞘に納め背中を向ける

そして捨てた人間の首を粗雑に掴むと、ゆっくりと歩いていく



先ほどまでの戦いぶりとはあまりに違う、隙だらけの弱々しい死神の背中

けれどアグライアは不覚にも恐怖で脚が震え、魔法の一撃も放つことはできなかった


死神の歩みに合わせるようにゴブリン達が撤収していく


さっきまでアグライア達の戦場だったはずのそこは、人間達の悲鳴とうめき声が響く地獄に変わっていた

アグライアはその背中を震えながら見つめ、視界から消えたのを祈るように確認した後






ヨロヨロと立ち上がり、震えながら生きている仲間の救助に向かった――――




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