200.ゴーレムを守る者
大地が割れんばかりの轟音を響かせながらゴーレムが迫ってくる
さっきまで音も姿もなく動いていたとは思えないほどの足音がその質量を強く感じさせた
「姿が隠せない以上、もう誤魔化しはいらないと言う事か……!」
アグライアは突っ込んでくるゴーレムに相対するようにまっすぐ直進!
そしてあと少しで相手の攻撃の間合いに入るという寸前でチェーンを横の樹木に射出し、一気にその軌道を変えた
突然目の前から消えたアグライアに反応しようとゴーレムが横を向いた瞬間、隊員が一斉発射した火炎魔法が大量に着弾
周りの雪の蒸発も相まって大量の水蒸気や煙が立ち上るが、その影から一切衰えを感じさせない重い足音が響き渡った
「やはり効果なしか……化け物め……!」
アグライアは舌打ちをしながらチェーンの巻き取りで勢いのついた体を強引に樹を蹴って停止させ、そのまま他の樹にチェーンを絡みつけて一気に移動する
まるで飛ぶように移動するアグライアにゴーレムは反応しきれないが、それを補うように随伴であろうゴブリン達が弓と氷魔法の連打で弾幕を張りアグライアの機動を封じようとした
「それを喰らうのはまずいなぁ……!」
アグライアは即座にチェーンの術式を解除させ強引に着地して急制動をかける
狙いが外れたゴブリン達は慌ててアグライアの位置に狙いを定め直すが、それより早くアグライアは詠唱を完了させる
「セイクリッド・アロー!」
大量の光の矢が一気にゴブリン達に向かって放たれる
だがその矢はあまりに小さく、また狙いも定まっていない
射撃範囲は広いがとても有効打になり得ない脆弱な攻撃だったが、その正体を看破できなかったゴブリンは詠唱を止めて防御や回避行動に移った
アグライアは狙いもまともにつけていない矢を放ちながら、じっとゴブリンの動きを観察する
最初から直撃するなんて思ってないし、これが有効打になるなんて思っていない
アグライアの狙いは、もっと別のところにあった
『頼むぞ……動いてくれよ……!』
一部のゴブリンがアローの範囲を回避しながら止めていた詠唱を再開し、その射線からアグライアが退避する
セイクリッドアローの範囲からいち早く離れたゴブリン以外は、未だにゴーレムの傍に残る
そしてせまるアローを盾状に展開した魔法障壁で懸命に防ぐの者も居た
ゴーレムはアグライアに攻撃するために動こうとするが、隊員達が次々と放つ魔法攻撃を受け止める為か身動きを取ることができない
その隙間を縫ってゴブリンが隊員達を攻撃するが、着かず離れずでうまく足止めをしてくれていた
「ありがたい、さすがゴブリンとの激戦をくぐってきた戦士たちだ……! そのままデカブツをそこに貼り付けておいてくれ!」
アグライアはゴブリンからの攻撃をかわしながら更にアローを撃ち続ける
ゴブリン達は正面から攻撃してくる隊員たちの攻撃は最小限に牽制に留め、大多数は背面に回って動くアグライアの対処に集中してくる
他の隊員達はうまく立ち回っているが、アグライアの様に背面には回らせてもらえない
ゴブリンもゴーレムを囲む様に散会し、隊員達への攻撃を厚くしていく
その為アグライアを直接援護できるものはおらず、ほぼ単身状態で複数のゴブリンとアグライアは対峙する状況を作らされてしまっていた
「このままでは他のみんながジリ貧でやられてしまう……何とかして早くデカブツを無力化しないと!」
だがそんな孤軍奮闘の状況においてもアグライアは自分よりも他の人間の心配を優先した
ダメージ効果がほぼ生まれないのが分かったうえで何度も何度も範囲攻撃をしては回避を繰り返すアグライア
ゴブリン達はそのたびに同じ行動を取り、逆にアグライアのパターン的な行動に気付いたゴブリンが先回りをして攻撃をするようになり、アグライアは攻撃するタイミングを作るのが徐々に難しくなっていく
『どこだ……! 動け……動け!』
アグライアはセイクリッドアローを再度放つが、それと同時に敵の氷柱がカウンターになる形で撃ち込まれ、アグライアの肩を裂く
傷口から血を噴きだしながらふき飛ばされる最中、アグライアはとうとうそれを視界に収めた
「見つけたぞ……そこかぁぁ!」
アグライアは流れる血などものともせず、セイクリッドチェーンを展開し、地面に撃ち込む!
突如動きを止めて地面を攻撃をし始めたアグライアに一瞬虚を突かれるが、ゴブリン達はそれが好機とアグライアに一斉攻撃を仕掛ける!
氷柱と岩石の魔法、そして物理の弓矢が一斉にアグライアに撃ち放たれると同時に地面に撃ち込まれたチェーンがまるで間欠泉の様にとあるゴブリンの足元から沸き上がり、その体に瞬時に巻き付き拘束!
そのゴブリンが居たのはゴーレムの右側面の腰辺り
アグライアは何度も範囲攻撃をしながら、特定の動きをするゴブリンを観察していたのだ!
巻き付いたチェーンを軸にして、弾かれたようにアグライアが一気にそのゴブリンに肉薄!
迫る魔法と弓を構えた盾で強引に弾き、刻まれる傷など構いもせずに飛び込むアグライア
「ゴーレムの姿が見えてなければお前らの意図に気付けなかったよ……!くらえぇぇ!」
アグライアはゴーレムを対峙した時からゴブリンの動きにずっと違和感を感じていた
頑強な防御力……特に魔法への耐久性は桁違いのゴーレムを盾にしながら何故ゴーレムの背面を守ろうとするのか?
それもいついかなる時にも必ずゴブリンはゴーレムの傍を離れなかった
敵に囲まれたところであのゴーレムの耐久性であれば孤立しても何の心配もないはずだ
むしろゴーレムを自由に暴れさせた方がこっちからすれば厄介なはずなのに
だがそれをしなかった
随伴のゴブリンは、片時もゴーレムを離れなかった
それはつまり……
「お前はゴーレムを守っていた!それもゴーレムの弱点をなぁ!」
拘束されたゴブリンはもがくが、その鎖が外れようがないことを覚悟したゴブリンは
もがくことを止めゴーレムの背面の右腰に密着、その身を盾にしてアグライアに立ちはだかった!
「そこまでするか……! だが!」
アグライアは足元に術式を展開、空気の圧力を爆発させ更に特攻の勢いを加速させる
「私にも譲れないものがあるんだぁぁ!」
その稲妻の様な勢いのアグライアの一撃は、盾となったゴブリンの心臓から背骨までを貫きゴーレムの赤く光るコアを突き刺さる!
その一撃にゴーレムのコアは一瞬激しく輝いたが、やがてその光を失いゴーレムの腕が地面に崩れ落ちた
刺し貫かれたゴブリンが口から血を噴きだしながらアグライアを睨みつける
アグライアはその瞳を真正面から受け止め、ゴブリンを見つめ続けた
「見事な……散り際です」
身を挺したゴブリンの振舞いに、アグライアは敬意を示す
その言葉を聞いたゴブリンは体を震わせながら
「アンタもな……でも……俺達は……貴様ら人間を必ず……!」
と、人間の言葉で返事をして……そして果てた
四方から戦いの音が響く中、アグライアはその剣を静かに引き抜き鎖を解除する
そしてゴーレムとゴブリンを少しだけ見つめた後、即座に仲間の援護に走った
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ゴーレムを失ったゴブリン達は一気に形勢を逆転され、アグライア達は勢いを増す
ゴブリン達を後わずかで撃破できると全員が思ったその時、戦況は一変する
「え……?」
隊員の一人が気の抜けた声を上げて、両膝を着く
何が起きたかわからないその隊員は口から血を噴きださせると
上半身が滑るように離れ、地面に崩れ落ちた
「なっ……!? 全員警戒!」
アグライアが突然の事に戸惑いながら全員に警戒を促す
敗走寸前のゴブリンを守るように、爆炎が舞う戦場を背中にして輝く黒い甲冑
その手には、大きく反り上がった不気味な片刃の剣の様な武器
まるで死神の様にドクロの装飾をその面に纏った、漆黒の剣士がアグライアの前に立ちはだかった――――




