199.迫るゴーレム
「それがお前の正体か・・・!」
文字通り剥がれていく化けの皮の下には、まさに化け物と言った風情の不気味な岩人形が姿を現す
その姿を晒されたことに怒りを覚えるようにゴーレムはその鈍器のような指のない腕をアグライアに向けて振りまわすが、アグライアはなんとかそれを回避し距離を取る
離れ際にセイクリッドアローをゴブリンに向けて撃ち込んだが、ゴブリンはもはや必要なしと言わんばかりにゴーレムを盾にしてそれを回避した
「た、隊長・・・こんなことが・・・!」
距離を取った先ですぐに敵の攻撃を警戒してジョンがフォローに入る
アグライアはジョンの後ろに回りながら、煽るようにマジックポーションを一気に飲み干した
「私もお前も身近過ぎて気づかなかったな・・・まさか神聖魔法まで使ってくるとはな」
アグライアは口元に付着したポーションを拭いながらゴーレムを睨みつける
ゴーレムは再び反射魔法を使いその姿を隠そうとするが、消えかけた体は回復の光で再度その姿を現した
「隊長、あれは・・・?」
「アイツの背中に回復術式の陣を直接打ち込んでやった、自分で首筋でも破壊しない限り数時間は範囲3メートルは治癒がかかる」
さきほどセイクリッドアローを受けたゴブリンの傷がたちどころに塞がり、ゴブリンが驚いた顔で傷口を眺めてる
「周りの敵を回復させてしまうのが癪だがな・・・、それでも敵が見えない不利に比べれば大したことはない」
ゴーレムの姿を消すことができないと悟ったのか、ゴブリン達がゴーレムを先頭に陣形を作ろうと動き出す
「陣形なんて作らせるかよ! 見えるんなら魔法も通るはず!」
咥えたばこの男が叫びながら巨大な炎の塊を作り出し、ゴーレムに狙いを付ける
「ま、待て!早まるな!」
アグライアはそれを慌てて止めるが、その火球は既に勢いを付けて放たれた
「吹き飛べやぁ!」
灼熱の火球がゴーレムの頭部に激突し、火柱と共に轟音が響く
最高のタイミングで直撃させたことを確信し、咥えたばこの男は小さく拳を握る・・・が
その炎の渦はあっという間に掻き消え、その煙の中から無傷のゴーレムが姿を現した
「えぇ・・・!?」
拳を握ったまま呆然とする男の隣でアグライアが小さく息を呑む
「やはりか・・・、どうやら反射魔法は純粋に姿を消すのが目的だけで、魔法に対する耐性はそれ以前の問題の様だ」
「じょ、冗談でしょう・・・?」
「私も冗談だと思いたいな、あんな馬鹿げた魔法耐久力・・・!」
そう言いながらアグライアは剣を構え、それに倣い他の隊員横一列に陣形を作る
ゴブリン達は煙の中でゴーレムを盾にしながら左右に広がり、鶴翼の陣の様な形を作っていた
まるでこうなることが想定されていたかのような、訓練された迷いのない動き
「あのデカブツの姿が露になった場合も想定済み・・・と言った動きだな」
相変わらずこいつらは抜け目がない相手だとアグライアは剣を握り直す
「なんだよ・・・! 反射?の障壁でしたっけ、そんなすごそうな名前の魔法を解除出来たのに魔法効かないなんてそんなんありかよぉ」
咥えたばこの男は半泣きで口のタバコをギリギリと噛みしめる
「元々がそんなに強い魔法じゃないんだ、毒の霧とかそういう広範囲の魔法を反射させるのが主で、直接的な攻撃を弾くほどの障壁を展開させるのはかなり難易度が高い・・・騎士団でもそこまでのことができたのはわずか数名だ」
アグライアはそう言いながらガルドの顔を思い出す
あの男なら多分それくらいはやってのける、今まで見たことがないのは恐らくそれをする必要性がなかったからだろう
「恐らくだがあの反射魔法でコントロールしていたのは空気中に漂う魔力だ・・・ 理論上できないことはないと習ったが、実際に目の当たりにするとゾッとするな」
「な、なんでできないんす? すごい力なのに・・・」
咥えたばこの男の疑問に、アグライアが敵を睨みながら答えた
「魔力の消費量が半端じゃないんだ・・・数人がかりで展開して数分がやっとという代物なんだよ、しかもごく狭い範囲でな」
「え・・・それって・・・!?」
何かに気付いた男は、途端に顔が青ざめる
その反応を横目に見て、アグライアは小さくうなづいた
「あのデカブツの魔力はとんでもないってことだな・・・来るぞ!」
ゴーレムを先頭にしたゴブリンの群れが一直線にアグライア達に迫る!
アグライアは盾を構え、迫るゴブリンに向かって迎え撃つ!
「全員、ゴーレムに向かって一斉攻撃!撃ったらすぐに散会しろ! 数人に固まって攻撃!絶対に孤立するなよ!」
アグライアの合図に全員が詠唱を開始し、魔力の渦が空気を揺らす
その力を背中に感じながらアグライアは敢然とゴブリン達の眼前に躍り出た!
「隊長! 何をする気なんですか!?」
詠唱を続けながらジョンが叫ぶ
その声にアグライアは剣を掲げ、背中を見せたまま悠然と答えた
「このデカブツは私が無力化させる・・・援護は任せた!」
リンファの命を長らえさせるため、アグライアはその細腕を高く天に掲げゴーレムに立ち向かった
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複数のレッドゴーレムの視界を共有していたアバカスが、その曖昧な表情のまま驚きの声を上げる
あるレッドゴーレムの視界を拡大化し、確認
そこには金髪の女騎士がレッドゴーレムのリフレクトを解除させている姿が映されていた
「驚いたな・・・ こんなにも早く反射ギミックに気付いた人間がいるのか・・・」
アバカスは少しだけ驚くそぶりを見せると、すぐにそのゴーレムから周りのゴブリンに指示を放つ
「戦闘想定を変更、ゴーレムを先頭にして特攻して敵の陣形を切り崩せ、 ゴーレムが健在なら魔法攻撃の脅威など石コロ以下だ、盾にして立ちまわれ」
そういいながら今度はレッドゴーレムを管理するダガーのコアに命令を送る
『反射魔法の詠唱を中断、魔法攻撃の使用はせず物理攻撃で敵を狙え 仲間のゴブリンを巻き込む恐れがある場合は攻撃を中断 仲間の生存が優先』
その命令にダガーのコアがボンヤリと輝いて反応した
アバカスはさして焦ることもせずその指示が現地に伝わったことを確認して他のゴーレムと同じ大きさの視界に戻す
「視認されることは想定したが、意外に早かったな・・・人間にもできる奴がいるらしい」
言葉とは裏腹にアバカスは小さく笑う
「まぁ構わんさ・・・精々ゴーレムに勝機を見出してくれ これが私達の限界だと勘違いしてくれよ、人間」
レッドゴーレムの本当の目的に気付く人間は果たしているのだろうか?
気づいた時、どんな顔をするのか楽しみだ
そう考えるアバカスは曖昧な表情のまま不気味にほほ笑んだ――――




