表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

194/283

194.開戦間近のアグライア

王都より大陸に住まう全ての人間に向けて戦時に伴う転移魔法の使用禁止が発令された


その命令に国民は戦争の恐怖に震え、明日への不安に怯える


王都はこの命令の1時間後に転移魔法に対する結界を展開

転移魔法を使ったものは転移先のゲートが起動せず、そのまま次元の狭間に飲み込まれ消える


もし禁を破り転移魔法を使ったものは、生き残ることはできない

罰されるのではない、生きて帰ることができないのだ


転移魔法という物流や情報通信の要が封鎖されるという事は生活に大きな制限がかかる

会いたいときに会えず、話したいときに話せない恐怖



近年まれに見ない、戦時下の空気が大陸を支配していく――――








エタノー領城下町は王都の兵隊であふれていた


この町に住んでいた多くの人達・・・とりわけ女性や子どもは既に南方への避難が完了


残った兵や有志の男衆はそのまゴブリンとの戦いに参加する


この町にある全ての建物は瞬時に軍の駐留地に変わり、ゴブリン防衛の要塞へと変貌

各々が指揮官の指揮のもと、杖をふるい、剣を磨きその時を待っていた



宣戦布告の時間まで、残り数時間



「来たか、アグライアの娘」


マンダリアンはまだかつての戦いの傷痕が残る広場の中央に陣幕を設営し、アグライアを迎えいれた


マンダリアンの目の前にある粗末なテーブルには現在の兵力と判明している敵の動き、そして様々な戦術が試行錯誤された跡が残る

そんな机を腕組みしながら睨みつけるマンダリアンは、アグライアに視線は送らなかった



「リリー・アグライア以下 『交易浮遊都市 選抜部隊』ただいま到着いたしました」


「選抜部隊・・・まぁそうもなろうか 先に言っておくが私に貴様等の指揮権はない、好きに戦って構わんがこちらの作戦の邪魔になればその命の保証はせん」


マンダリアンがそっけなく話す言葉を、アグライアは微動だにせず聞く

敵はいるが味方はいない


わかっていたことだ、はっきりいってもらえるだけありがたい


アグライアはそう自分に言い聞かせた


「・・・これは説明の必要なしと言われたがするなとも言われていないので伝えておく」


「なんでしょうか・・・?」


「貴様が我が軍の後方に位置する、若しくは視界から消えた場合は逃亡と見て処刑してよいと言われている」


「・・・承知いたしました」


「だがそれは、あくまで貴様だけの話だ、選抜部隊とやらについてはこちらに反旗を翻さない限りは何をしててもこちらは関与しない」


「そ、それは・・・!」


その言葉にアグライアが驚くと、マンダリアンはその時初めてアグライアの顔に視線を向けた


「貴様が死亡した場合の選抜部隊とやらの兵士はこちらで面倒を見る、後方に回してファルネウスに引き取らせるから安心して死ぬがいい・・・」


そういうとマンダリアンは大きくため息をつき、天井を仰ぐ



「あ、ありがとうございます・・・マンダリアン様」


「礼など言うな、今から共に戦おうという人間に故あれば背中から刺すと私は言っているんだ・・・礼など聞きたくもない」




マンダリアンはそういうと肘をつきながらうなだれる


「貴様が到着したことは記録しておく、安心して戦地へ迎え 旗を掲げるのを忘れるな・・・ ルミナスの加護があらんことを」


そういうとマンダリアンはもうアグライアに視線を向けることはなく、アグライアはその後ろ姿に一礼をして天幕から退出した




アグライアの足音が聞こえなくなったのを確認してマンダリアンは机を強く殴りつけた


「ルミナスの加護だと・・・!? こんな命令を許す神がどこにいるのか・・・!」


マンダリアンは誰にも聞こえぬ声で、忌々しく呟いた










「アグライア君、調子はどうだね」


スコップとつるはしを抱えてヴァレリアが小走りでアグライアに近づく

その姿に少しだけ張り詰めていた気持ちが緩むが、アグライアはすぐに表情を険しく切り替える



「はい、なんとか・・・ヴァレリア様こそお加減はいかがですか?」


「部下が優秀なんでね、体に分厚いミミズ腫れができるくらいで済んだよ しばらくお風呂に入るときに染みる以外は健康そのものだ」

そういうとヴァレリアがわざとらしく声を出して笑い、その笑い声に少しだけアグライアも笑う



「私達は現地兵として塹壕や防壁の建造を任されている、地元民の辛いところだねぇ!」


「工作部隊がいるからこそ前線の者は剣を振るえるのです、感謝しております・・・精一杯戦ってまいります」


その言葉にヴァレリアは頬を少しだけゆがめ、眉をしかめる


「力になれず、すまない・・・ 君の事も、リンファ君の事も」


「いえ、ヴァレリア様やファルネウス卿の尽力があったからこそ、リンファの命を長らえることができました 感謝しております」



「・・・ここは我々の庭だ、マンダリアンの目を欺くなど造作もない だから」


「いえ、それはできません」



ヴァレリアが言いかけた言葉を、アグライアは遮る


その目はまっすぐで、ヴァレリアはそれ以上何も言えなくなった


「私が逃亡すれば、リンファは即座に処刑されるでしょう でも私が戦い続けている限りは処刑は免れます」


「それは・・・それはそうなんだけどさ! でもな!」


ヴァレリアの手を握り、アグライアは頭を下げる

その表情を見ることはできなかったが、その方が小さく震えていることにヴァレリアは気づいてしまった



「ヴァレリア様・・・お願いです ファルネウス卿と共に、どうにかリンファを逃がしてやってください、命を狙われないところに連れて行ってやってください・・・!」


女性の握る力とは思えない程に力のこもったその手に、ヴァレリアは歯を食いしばる


そんな約束なんてできるわけがないのに、その手の熱さに言葉が詰まる



「・・・約束はできない、けれど全力は尽くす ファルネウスと連携して事に当たるよ」


嘘にならない精一杯の言葉をアグライアにかける

そんな言葉気休め以下だとわかっていて、ヴァレリアはその言葉を吐いたのだ



「ありがとうございます・・・ では、隊列に戻ります」


そういうとアグライアはヴァレリアに一礼をすると、小走りに去っていく


ヴァレリアはその後ろ姿を何も言えずに、手すらも振れずに見送った







―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



日も落ちてほの暗い道なき雪積もる樹々の間を、ゴブリン達が静かに進む


雪がわずかに反射するその世界に、赤い目が無数に光る


その赤い目は次々と増えていく


100、500、1000・・・赤い目が闇夜に輝く




そのゴブリン達が進む列の間隔は不自然に大きく広がっている


そしてその何もないはずの空間から、大きな足跡が生まれる


ゴブリンどころか、人の全身すらも飲み込めそうなほど大きな足跡が雪面に刻まれ、樹木をなぎ倒していく


その何も見えない何者かの進軍は巨大な騒音をまき散らせるが、降り積もる雪がその音を奪っていく


人間に、不気味な足音が迫る


そしてその巨大な足音に、誰も気づくことはできなかった――――




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ