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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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137/198

137.恐怖と怒りと

去り行く神代王の背中をヴァレリアとリンファは見つめ続けていた

リンファは母を化け物と呼んだ男の背中を睨みつけるのでただ必死で、ヴァレリアは生き残ったことも恩人を殺させずに済んだことにただ安堵して


その見つめ続ける神代王の背中に、それぞれが様々な思いをぶつける

だがそんな思いが粉みじんに吹き飛んでしまうほどの光景が目の前に広がってしまう



王が その手を ゆっくりと上げる




その手を目印にしたかのように、雪が動く

視界の遠くに映る雪の平原が大きく揺れるように波立ち動く

どこが動いている? 

違うのだ、目に映る雪原全てが動いているのだ




王の命があるまでその存在すらも感じさせなかった数万の大軍が一斉に立ち上げる

全てを白に包んだ軍勢が、全て同じ挙動、同じタイミングで次々で動き出す

そのあまりの精密さに人間らしさを感じることはできない


見渡す限りの人、人、人

闇夜の雪原に光る数万の瞳が神代王を見つめる

だがその人の群れは無駄な動き一つせず、まるで1枚の絵画のように時を止めていた




やがて巨大な御旗が掲げられると神代王がその手を下げる

するとその軍勢と神代王は魔法の光に包まれ、即座にその姿を消し去る

光に飲まれた闇は少しの間残光を残すが、やがて何もなかったかのように闇が支配した



「神代王は……故あればこの領地を焼け野原にするのも厭わないつもりだったのか……!?」

目に映っていた光景を信じられず、ヴァレリアは呟く


ゴブリンが王都に牙を剥けば徹底的に叩き潰す

その徹底的にという言葉には、「そこに住んでいた王都の民諸共に」という意味が含まれていることを痛感させられたヴァレリアはその恐ろしさに身震いしてしまう

その光景を驚愕した瞳で見つめていたリンファにわずかに目に映し


『もしこの子があのゴブリンの暴挙を食い止めていなかったら、この町は今頃……』

もしそうならなかったときの最悪の状況を想像せずにはいられなかった


そしてもう一つの異変……

それに気付けたのは神代王と恐らく自分だけ


神代王を神代王たらしめる絶対の力

名前らしい名前などない、ただその言葉は絶対で傲慢

神代王の命令は絶対のはずなのに、リンファにはそれが効かなかった


神代王の命令は相手の尊厳や自由どころか、その生命活動すらも奪うことができる

理屈ではない、神代王が死ねと命じればどんな生物でも心臓を止めるのだ

誰かがその命を受けて命を物理的に奪うわけではない、死刑を行うわけではない


死ぬのだ、その命令の直後に心臓が止まり死ぬのだ

人間だけではない、あらゆる生物が死ぬ、あっけなく殺される


だからこの国は繁栄してきたし無数の外敵を退けることができた

古代より住まう伝説の龍ですら神代王が死ねと命じれば死ぬ

従えと命ずれば屈服する、側近にもペットにもなる


遠縁のエタノー家にもそれに近い力はあるが、それはひどく弱小化の上で限定的な力だ

それも町全体に張り巡らされた魔法結界の莫大な力を使って辛うじて発現できる程度のもの

それでも【洗脳や人格侵略系の魔法攻撃の無効化】などというでたらめな効力を有している


王都に君臨する絶対的な王の絶対的な力……

それが効かない瞬間を目撃してしまった


『この子はこの世界を変えるカギになるのかもしれないな……』

ヴァレリアはそう思わずにはいられなかった







リンファは神代王というあまりに強大な力に、体に渦巻く理解できない恐怖の塊を拭いとることができなかった


強さという質感が、自分とはあまりに違う巨大な存在……

殴るとか蹴るとか、そういう次元ではない

これまで多くのモンスターや生物と相対してきたけど、そのどれとも違う


『神代王という生物』とでも言うべき存在


自分が今こうして生きているのは半分は運で、もう半分はアイツの気まぐれだというのは心のどこかでどうしようもなく理解できている

アイツがスッと手を振り上げれば、自分は地面の染みに変えられる

アイツが目で合図を送れば王都に住むすべての人が敵となって襲い掛かってくる

もしかしたら、人以外の者ですらそうかもしれない

そういう王としての権力を超えた……『神の権力』とでもいう何かを感じずにはいられない


けれど、それでも

リンファはそれでもあの男に対して沸き立つ怒りを止めずにはいられなかった

自分の事以上に、母を「化物」と呼んだことが許せなかった



「あの言葉、忘れないぞ……忘れないからなぁ!」

リンファは拳を握り叫ぶ



闇の広がる雪原を二人はしばらくの間見つめ続けていると、町の人々が心配そうに集まってくる

皆、あまりのたくさんの出来事に不安そうな表情を浮かべている


「あ、あの……ヴァレリアさま……こりゃあ……いったい?」

「いよぉタクノフ、お前さんは運がいいなぁ 修理してた壁はもう直さなくていいぞ、もっと壊れたからな」


リンファを押さえつけたまま遠くを眺めているヴァレリアに、意識を取り戻したタクノフが意を決して話しかける

明らかにおかしな体勢のまま、ヴァレリアは気さくにその声に軽口を叩いた



「まぁ一番運がいいのは君だけどな、リンファ君 話には聞いてたけど君は本当に向こう見ずだな、殴りかかる相手とタイミングはよく考えてくれよ」

「ご、ごめんなさいモンギューさん……じゃない、ヴァレリア……様?」

「はっはっは、変な自己紹介しちゃってすまないね、おっと苦しかったろう、すぐ上からどくよ」


ヴァレリアはニコっとリンファに笑い掛けながらその拘束を解く

けれどリンファはその場に座り込み、まだ少し呆然としている


「どうやらたくさんの事がありすぎてまだ理解が追い付いていない……って感じだね、無理もない」

「す、すいません……」

「謝ることじゃない、君のおかげで私含め領内の人間は生き残れたんだ、むしろこちら感謝しなければいけないことだよ」

「で、でもアイツは……ダガーはきっと僕を狙って……」



しゃがみこんだままのリンファの眼の前にゆっくりと膝を曲げ、同じ目線になってヴァレリアは語り掛ける

「どんな因縁があったかは知らないが、あのゴブリンがこの町を襲ったのは事実だ しかも町の人間全てを危機に陥れるほどにね」

それでも気後れをして目を逸らすリンファの肩をヴァレリアはガシっと掴んで微笑んだ



「君はそんな敵を撃ち払ってくれたんだ、誇っていい」



その言葉に少しだけリンファは表情を緩ませる

「は、はい……ありがとうございます」

「こちらこそ、町を代表して御礼を言わせてもらうよ、ありがとう」




立ち上がろうとするヴァレリアに、兵士の一人が少し慌てた様子で駆けよってくる

少し遅れて立ち上がろうとするリンファに、その兵士の報告を受けたヴァレリアがニカっと笑った


「リンファ君、朗報だ アグライア君の緊急治療が終了した、命に別状はないそうだよ」

「ほ、ほんとうですか!!!!!!?」

「うぉっ 君は結構でかい声だすんだな! あぁ、まだ意識は戻っていないが、ウチの精鋭が治療に当たっているから安心してほしい」

「は、はい! よかった……本当によかった……!」


リンファはホッとしたのか、微笑みながら大粒の涙を流す

その涙を見ながら、ヴァレリアは少しだけ困ったように微笑む




「さて……、とりあえず館に戻ろう 生憎吹き抜けが大きくなってしまったがそれでもここよりはくつろげるだろうよ」

「は、はい!」


元気よく返事をするリンファに、心底困ってしまうヴァレリア


「詳しくは館で話をするけど……君に僕は有益な情報と、ひどいことを言わなければいけない」

「ひ、ひどいこと?」



視線を少しだけ空に向けながらヴァレリアが言葉を選ぶ

だけどどんなに言葉を探してもいい言葉は出てきそうにないので、ヴァレリアは少しため息をついて不思議そうな顔をするリンファに視線を向けた









「君をこの領地から追放しなければいけない、逆らえば私達は君に剣を向けることになる」







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